明治大学の生涯学習と恩師の「手間をかける」教え
年間、約2万人が学ぶ「明治大学リバティアカデミー」。1999年の創設以来、受講生を増やし続けている明治大学の生涯学習拠点だ。現在は5拠点で、年間400を超える講座を開設している。人々は何を求めてリバティアカデミーにやってくるのか?
アカデミー長の大友純先生(明治大学商学部教授)と、事務局の河合充氏のインタビュー【前編】リバティアカデミー長インタビュー前編「学びの旅は奥の細道。コミュニケーションの場を提供」に続き、後編をお届けする。
効率化・情報化が進むこの時代だからこそ「手間をかけて学ぶこと、教えることに意味がある」と話す大友先生。“手間をかける”リバティアカデミーの学びについて伺った。
「君は誰に見せるために持ってきたんだ!」
明治大学リバティアカデミーには、大友純先生が“師匠”と呼ぶある教育者の教えが、いまなお、息づいている。それは明治大学商学部名誉教授の故・刀根武晴先生だ。大友先生は「学部の学生さんにはとても怖い先生でしたよ」と、恩師を振り返る。
「教室で寝ている学生を見つけると必ず起こしに行く。途中で教室を退出した学生を、校門まで追いかけて連れ戻す。あるときは、学生が提出したレポートを、目の前で捨てたんです。『君は誰に見せるために持ってきたんだ!』と。先生に読んでもらうレポートにもかかわらず、綴じられていなかったからなんです。その学生はびっくりしていましたが、でもその後、彼は社会人になっても、他者に見てもらう資料は必ず綴じて提出するのではないでしょうか。怒るべきときにきちんと怒ってくれる先生でした。
それから徹底的に人を見てくれる先生でもありました。昔、トラブルを起こして退学した学生がいたんですが、刀根先生はその学生が就職するまで、徹底的に面倒をみていました。ほんとうに手間をかけて教育をしていた。教育とは本来、手間がかかるものなんです。刀根先生のこの教えを、リバティアカデミーでも実践しています」
“手間をかける”教育はリバティアカデミーの信条であるという。たとえば春と秋のプログラムの表紙のデザインもアカデミーのスタッフで行っており、講座で使用する資料もほとんど担当の教員がオリジナルなものを手作りしている。また、受講生が、講師の話を椅子に座って聞いて終わり、ではない講座を多く設けているのもその表れだ。事務局の河合充氏は「とりわけビジネス講座では、ディスカッションやグループワークなどアクティブラーニングを取り入れるようにしています」と語る。
「受講生に座って聞かせるだけではダメ、授業を受けた人が、今度は自分が授業をできるくらいにならなければダメなんだと、刀根先生はよく言っていました。その域に達するのは容易なことではありませんが、我々が目指すところではあります。たとえば私のある講座では、ブックレットを作りました。受講生一人一人に、最後に論文を書いてもらったのです。学んだ成果物を残す講座が多いのも、リバティアカデミーの特徴です。現在の講師、特にビジネス・コースには以前に受講生だった方も少なからずおられます。」(大友先生)
特にゼミナール形式の講座の初回では、必ず自己紹介から始まる。どういう仕事をしているのか、何を求めて講座を受けたのか。互いのプロフィールを知ることで、議論や意見交換の質が高まるという。大友先生のゼミナール形式の講座も、取り上げるテーマを春も秋も毎回変えるためリピート率が高く、10年以上続けて受講しているという人もいる。理論を学び、実際のビジネスでヒット商品を生み出した受講生もいた。このような講座運営は、ビジネス・コースだけでなく、教養文化コースも含めて、ほとんどの講師が行っているという。 わざわざ教室まで足を運ぶこと