連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第189回 要介護3になりました!】

 若年性認知症の兄と暮らすライターのツガエマナミコさんが、2人の日常とマナミコさんの心情を綴る連載エッセイ、今回のエピソードは、兄の要介護認定の区分の見直しがあり、その結果が届いたというお話です。

 * * *

特養に入居申請できるようになったが

 先日、わたくしの部屋の照明が切れてしまったので、近所の電気屋さまで新調いたしました。照明が切れたら電球や蛍光灯を替えるものと思っておりましたが、少々特殊だったようで本体ごと買い替えることになりました。突然2万6800円の大出費。しかも「この値段では蛍光灯色しかないんですけど」と言われ、ぬくもりのある暖色の電灯から真っ白な蛍光灯色になりました。部屋の壁紙が真っ白なので見た目の室温が一気に2度ぐらい下がったような寒々しさ。きっと夏には涼しく感じるはずと期待しております。

 改めて思いましたのは、近所の電気屋さまのありがたさでございます。自分で脚立に乗って照明器具のカバーを外すだけでも初老のわたくしにとっては怖い作業でございました。兄は「大丈夫?」と心配だけはしてくれましたが、ひとつも役に立ちませんから。

 電気屋さまに「今すぐ行きますよ」と言っていただいたときの安心感たるや。頼もしく家まで来てくださってあっという間に交換完了。お商売とはいえお見事でございました。

 家電量販店やネット通販で購入すれば安いものが手に入るのかもしれませんが、こんなにすぐに対応してくださることはないでしょう。出張費や手間賃もございません。定価で買ってもちっとも高くないと思えました。そんな電気屋さまも以前は3軒ほどあったのに今や近所に1軒だけになりました。大事にしなくては…と思ったツガエでございます。

 2日前、福祉保健センターから兄宛に書留が届き、「なんだろう?」と中を確かめると、「認定通知書」でございました。

 そうです、先日ケアマネさまに介護認定調査をしていただいた結果でございます。どうせ要介護2のままだろうと思っておりましたのに「要介護3」の文字が見えて「へぇ~」とプチびっくりでございました。

  要介護3といえば、ちょうど8年前、亡き母が最初に受けた要介護度でございます。認知症検査こそ受けずに他界しましたが、やはりお便さま問題は今の兄と似たようなものでした。その上、物盗られ妄想もあり、いつもイラついているようなところがありましたので、兄より何倍も扱いにくかったことが思い浮かびます。

 思えば、そのころは兄もわたくしと一緒に母を介護する側でございました。8年後、兄がその母と同じ要介護3になるとは誰が想像できたでしょうか。今の兄はまったくでたらめでポンコツですが、温和で攻撃性がゼロなので、あの頃の母よりはずいぶんマシでございます。

 が、何はともあれ要介護3になったということは公的な介護施設入居を申請できる条件が整ったことになります。人気の特養(特別養護老人ホーム)は、申請から入居まで何年もかかるといわれているので、いよいよ手に負えなくなってからの申請では遅いと聞いております。本当に一刻でも早く介護から解放されたいなら、すぐにケアマネさまにお頼みすべきでございましょう。

 でも、まだまだそこまでのレベルではないので遠慮してしまいます。いや、もちろん常に兄の介護から解放されたいと願っております。願ってはおりますけれども万が一、億が一、兆が一、すぐに「どうぞどうぞ」と言われてしまうのが怖いのです。

 この矛盾はなんでしょうか。世間体でしょうか。はたまた介護から解放されたらツガエマナミコの付加価値がなくなってしまうからでしょうか。介護を言い訳にお仕事をセーブしたり、気乗りのしないお誘いを断ったりできなくなるからでしょうか。自問自答していくと、全部当てはまるのですが、一番奥底にあるのは「そこまで切羽詰まっていない。もっと追い込まれてからでもいいんじゃない?」という己の希望でございます。結局、自分が後悔したくないだけ。恩着せがましいエゴでございます。

 思えば、兄の介護も悪いことばかりではございません。この「兄ボケ」コラムはまさに兄がボケたからこそ預かった「恩恵」なのですから。

「兄上さま、どうもありがとう!」

 今日はそう言っておきましょう。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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この記事へのみんなのコメント

  • はるか

    ああ、もっと追い込まれてから、というお気持ち、いやというほどわかります。うちは実母なのですがまだ要介護2で、よそさまのご様子を見る限り、認知症ではあるけれど進行はいまのところゆるやか~な感じです。なので、同居介護に疲労困憊していると分かっていても、まだなんとかなるかな~決断っていつできるのかな~と思ってしまっています。 難しいですね。

  • あこ

    まあ なんというタイミングでございましょう(ツガエさんの口調が好きなので似てまいりました(笑)) 夫も先日要介護1からいきなり要介護3の決定通知書が届き驚いたところです。 私も一瞬「特養に申し込める」との思いが過りました しかしです 思いはツガエさんと同じ まだ私が家で対応できるのではないかと。 全く壊れポンコツの夫、後期高齢者の私が重い物を持って階段を上る時も椅子の上に乗って高い所の物を取る時も「大丈夫か?」と声をかけて見ているだけ。お便さまの苦労もいつもドキドキ状態。 そんな夫なのに「まだ家で」と思う大きな要因は、夫もお兄様と同じく温和で穏やかで攻撃性は一切なく、腹を立てて怒った私の方が後悔するくらいなのです。 このところデイサービスのお迎え時間に合わせるようにトイレに入ってしまい20分以上出て来ないので仕方なく私が車で10分ほどの隣町まで送って行くことが頻発していて困惑 要介護3になったのでデイの回数を週3回から4回に増やすことにして、車で5分以内の施設と隣町の施設と2回ずつ通うことでとりあえず様子を見ることにしました。 介護度が上がれば単位は増えるものの負担額も増えるので頭が痛いですよね。 夫より一回り以上お若いお兄様なのでツガエさんのご苦労も大変だと思いますが、私はとても参考になり共感することも多くて毎週楽しみにしています。

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