国枝慎吾さん祝・国民栄誉賞決定!車いすテニス界のレジェンドが明かす「俺は最強だ」誕生秘話と勝負飯
「俺は最強だ」フレーズの誕生秘話
「デビューしてから世界ランキング10位くらいがずっと続いていました。その頃に出会ったのがオーストラリアのアン・クインさんというメンタルコーチです。
当時、僕は生意気で『メンタルトレーニングなんていらねえよ』と思っていました。初めて彼女にテニスを見てもらった後、『僕はNo.1になれる?』と聞いたら、逆に『あなたはどうしたいの?』と質問されました。
もちろん『No.1になりたい』と答えると、彼女は『No.1になることを断言しましょう、そこから始まるよ』と言うんです。
それで『俺は最強だ』という言葉を考えて、鏡を見るたびに自分に言い聞かせる。ラケットに『俺は最強だ』って言葉を書いて貼って。コートで不安な気持ちがよぎったとき、それを見るんです。心が変わると攻撃的なサーブが入るし、自信を持ってラケットが振り切れる。
練習のときでも『俺は最強だ』と思うことで、集中力が増して練習の質も上がりました。最初は半信半疑だったんですが、3か月後にはグランドスラムで優勝しちゃったんです」
国枝さんは、2006年10月USオープンで優勝し、アジア人初となる世界ランキング1位の座を獲得し、グランドスラム(4大大会すべて制覇すること)を達成した。
しかし国枝さんは「僕はメンタルが決して強いわけではない」という。
「『俺は最強だ』という言葉で、弱い自分を振り払おうとしていたんですね。連続でポイントを取られたら、ヤバいかもと不安になる。『俺は最強だ』と思っても、まだポイントを取られることもありますから。そのときは、弱気の虫を振り払うのに実際に手で払う動作をしたり、タオルで顔をぬぐったりして。僕は一度も自分の心が強いと思ったことはないんですが、気持ちを切り替えるテクニックはいろいろ持っていたんだと思います」
勝負飯は妻がにぎった塩むすび
テニスの試合は、トータル2時間から3時間に及ぶこともある。コートで戦う以外の時間も含めて心身のコントロールが必要になるという。そんなときの“勝負飯”は、栄養管理をサポートしてきた妻の“おにぎり”だ。
「試合のときは大量の汗をかくのでミネラルを補給するためにも、妻に塩多めのおにぎりを作ってもらっていました。前の試合の進行を見てエネルギーを補給するタイミングを計って食べていましたね」
試合後の“ご褒美飯”を訪ねると、
「妻の手料理で一番好きなのは“鍋です”とインタビューで答えたら怒られたことがあって(笑い)。もうちょっと凝ったものを、そうですね“鯛飯”ですね。あれはテンションが上がります」と優しい表情で語る国枝さん。
現在、引退後のスタイルにマッチする「俺は最強だ」に変わるフレーズを探しながら、新しい挑戦を模索中だ。
撮影/北原千恵美 取材・文/氏家裕子