連載

「延命どうするの?」「キーパーソンかえたら?」いきなり踏み込まれたとき、どう返す?【実家は老々介護中 Vol.12】 

 80才の父は、がん、認知症、統合失調症を患い、79才の母が在宅介護中。娘でアラフィフ美容ライターの私は、そんな実家を心配しながら都心で仕事をしつつ、たまに実家を手伝っています。筋力が弱まってまっすぐ座っていられなくなり、だんだん体が斜めに傾いてしまう父。シャキッと気持ちだけでも背筋を伸ばして、明るく過ごせるようにとサポートするのですが、悩みは尽きないものです。

周りが心配して声をかけてくれますが… …

 親類縁者とのやりとりって難しい。愛ゆえに、とわかっているのですが、親戚からすごく直球の質問を受けたことがあります。

「この先どうするの? いざってとき、どこまでやるのか病院に聞かれるでしょ。それと、キーパーソンをさ、お母さんより、若いタレイカちゃんにかえたほうがいいんじゃない?そのほうがチャッチャと物事が運ぶでしょうよ」

 うちは親戚とすごく仲が良く、OKな範囲なのですが、それにしても…。

 延命はさておき、介護のやりとりの窓口となったり、意思決定をするキーパーソン決めにしても、最初は私だったのを、遠距離では不便なために母と交代したのです。私は母や介護に関わってくださる皆さんと密に連絡を取り合い、状況を把握しています。今は介護の情報共有アプリもあるようなので、「そのうちこういうの使えるといいですよね〜」と皆さんと話しつつ、ここまで来ました。

 私は「イヤー、とりあえず、今の状況がベストなんで。でも、ありがとうございます!」と親戚にお礼を言ったのですが。その後、実家に「父が好きだから」と大量に羊羹を送ってきてくれて、その量にもびっくり。愛に溢れてるこの感じ、嫌いじゃないけど、戸惑うこともあるなあ、と思ってしまいました。

兄も悩んでいるのか、いきなり訪ねて来てびっくり

 さらに戸惑ったのは、兄も同じ延命のことを聞いてきたときです。「最初に決めたけどさ、ちょっと気になって」と言っていましたが。普段実家に寄り付かない兄がいきなり、

「姿勢を支えるクッションを持ってきたよ」とやって来たのです。父の体幹がもう体を支えられず、座っているとだんだん右に倒れてくる、と私がメールしたのですが、その返事もなくいきなりで驚いてしまいました。

 兄は背中から骨盤にかけてサポートするかなり分厚いマットを、ソファに置いて、

「中身がゲル状のと、エアークッションのがあるんだけど、どっちがいいかなあ?」

 とやる気満々。座った姿勢の形状を記憶して、姿勢を安定させる、こういうマットが売られているんですね。私が、

「ああ、いいじゃん!お兄ちゃんありがとう!」

 とねぎらうと、母や父もうれしそうに

「いいね、気が利くね!」

 と盛り上がり、私は少しモヤッとしつつ、父母がいいなら、それでいいんだ! と割り切ることにしました。

 それにしても、兄がクッションだけで訪ねて来るはずがない、と思っていると、父が寝てから。

「それでさあ、今後どうするの?」と本題を投げてきました。

 今までの母は今後のことを話そうとすると、「うるさいなあ」と逃げていましたが、兄が言うと向き合うんですよね。ちょっとムカッときますが、仕方ない。

 私が「今のところ、すぐに施設へ入るのは考えてないのと、延命措置はしたくないっていうので変わんないと思うよ」と答えました。先日、最後の通院でも、私と主治医が1対1で話して念を押され、それを兄にも伝えてあります。

「お父さまの今後を、お母さまと話し合ったところ、無理な延命措置はやめましょう、ということになっています。今後、もし急性期の措置が必要になったら、この病院へ入院することがあるかもしれませんし、ターミナルケア(終末期医療)の施設などへ移った場合もなのですが。口から食べられなくなって、腕の静脈に点滴が刺さらなくなったら、あとは自然に任せる方向です。本人が苦しいでしょ。それじゃ、かわいそうだもの」

 人間味を滲ませる話し方に、「何人も見送って、心からそう思っていらっしゃるんだな」と感じました。とはいえ複雑な気持ちです。

 居間でお茶を飲みながら、母は兄に向かって、

「食べられなくなったら自然に任せるのがいいと思うよ」

 と静かに言い、兄も、

「じゃ、前決めたのと変わらず、ということでいいんだね」

 と答えて、あっけなく話し合いは終わりましたが。気持ちが変わるかもしれないな、と思って聞いたんだよ、という兄ですが、彼の中でも葛藤があったのかな。

 さて数日後、「お父さんが羊羹を気に入って、ちょくちょく食べてるよ」と母がうれしそうに電話をくれました。高血圧ではないので、食が細い父がカロリーを摂れるなら、なんでも歓迎。父が幼い頃から馴染んでいるという羊羹、懐かしかったのかな。気持ちで食欲が増したり、するものですね。

 介護について、突っ込んだことを聞かれたり、話し合ったりするとき、戸惑ってしまいます。言い方も悩みます。この先考えが変わっても構わないから、今の考えの結論を出しておき、誰かに聞かれてもそれのみ答えるのがいいのかな。難しいですね。

文/タレイカ

都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(80才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。

イラスト/富圭愛

●福祉用具を使うときの注意ポイント6つ「介護する人が自ら試してみることが大切」

関連キーワード
ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!