健康

最新研究で判明!変形性膝関節症のメカニズム 3つのひざ皿チェックで痛みの原因を知ろう

 厚生労働省によると、「変形性膝関節症」は、自覚症状のある患者で約1000万人、潜在患者数は3000万人にも上るという。しかも、50才以上の発症率は女性の方が男性より1.5~2倍も多いとか。整形外科医 渡辺淳也さんは、「変形性膝関節症対策のカギは、ひざ皿にある」と語る。痛みが起こる原因や対処法を詳しく聞いた。

変形性膝関節症のメカニズムを医師が解説

 ひざ関節は、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)、すねの骨である脛骨(けいこつ)、ひざの皿である膝蓋骨(しつがいこつ)から成り、それぞれの骨の表面は、関節軟骨(以下、軟骨)で覆われている。

 軟骨は、大腿骨と脛骨のすき間にある半月板とともに、ひざの衝撃を吸収するクッションの役目を果たしている。

「変形性膝関節症は、長年の摩耗で軟骨がすり減り、半月板の変形や骨棘(こつきょく)(※1)ができるなどで、ひざ関節が変形する病気です。軟骨は40才を超えると一気にすり減りが進みます。中高年のひざ痛の9割は変形性膝関節症と考えられていますが、実際に70才以上の7割以上はレントゲンで変形性膝関節症と診断されています」と、医師の渡辺淳也さん。

(※1) 骨棘は、関節軟骨のすり減りによって関節の周囲が骨化し、トゲのようになること。

 だが、痛みを引き起こすのは、実は軟骨ではないという。

「軟骨には痛みを感じる神経がありません。では、痛みはどこからくるかというと、1つは関節包の内側にある滑膜(※2)から。軟骨や半月板の損傷で生じるかけら(摩耗粉)は、滑膜に取り込まれて溶かされますが、その際に『炎症性サイトカイン』という物質が分泌されて炎症を起こし、それが痛みとして表れるのです」(渡辺さん・以下同)

(※2) 滑膜とは、ひざ関節の動きを滑らかにし、軟骨に栄養を補給する関節液を分泌する組織。

 ひざに水がたまるのも、この炎症(=滑膜炎)によるもの。炎症で“水”(関節液)が過剰に分泌され、吸収が追いつかなくなるのだという。

最新研究で判明した痛みの原因はひざ皿の下に!

「もう1つ、最近の研究でわかってきたのが、ひざ皿の下にある『膝蓋下脂肪体』です。

 ひざ皿と大腿骨のクッションとなり、ひざの衝撃を和らげる働きがある一方で、多くの神経が通っているため、ひざ関節の中で最も痛みを感じる部位でもあるのです。

 ここが炎症を繰り返すと、本来柔らかい組織が硬くなり、クッションとしての役割を果たせなくなるほか、『血管新生(※3)』が起き、痛みが増幅されていくという悪循環に陥ります。

 ひざの痛みが長引く人は、滑膜炎か膝蓋下脂肪体の炎症の可能性も。米スタンフォード大学の研究では、膝蓋下脂肪体には、ひざ関節への負荷に対する修復細胞を貯蔵する機能があるのではないか、と推測されています。このことからも、変形性膝関節症対策のカギは、ひざ皿にあるといえるのです」

(※3) 血管新生とは、もともとある血管から新たな血管網が作られること。それに伴い神経も増えるのだが、もとの神経の痛みよりモヤモヤと疼く痛みとなる。

 あなたの痛みは滑膜か膝蓋下脂肪体か…。さっそく、「あなたのひざ皿チェック」で確認を。

3つのひざ皿チェックで痛みの原因を知ろう

●ひざに手を当て、ゆっくり曲げ伸ばししてみよう。【1】ひざ全体に痛みを感じるようなら滑膜炎の可能性が、【2】ひざ皿の下側だけに痛みを感じるなら膝蓋下脂肪体が硬くなり痛みが生じている可能性がある。

●椅子に座り、痛みのある方のひざ皿の下を指で押す。押した両側が柔らかく盛り上がれば膝蓋下脂肪体は正常といえる。盛り上がらず、痛みもある場合は膝蓋下脂肪体が硬くなっている可能性が高い。

●床に座り、両ひざを前に伸ばす。ひざの裏が床にぴたりと密着していれば、ひざを伸ばす可動域は正常だが、すき間ができる場合は膝蓋下脂肪体だけでなく、ひざ皿まわりや裏側まで硬くなった危険な状態。

なぜ発症者は女性に多いのか?

 渡辺さんが診察でチェックするポイントはどこなのか?

「まず肥満かどうか。特にBMIが30を超える高度肥満の場合は、体重を減らすだけで、かなりの確率で軟骨の変形を止められます。また、0脚足の形も判断材料となります(下イラスト参照)」

 圧倒的に女性の発症者が多いというが、その要因は3つ。

「1つは、女性ホルモンの減少です。女性ホルモンには軟骨を守る働きがあるのですが、閉経が近づくと分泌が減っていくため、軟骨を保護しきれなくなるのです。

 2つ目は、骨粗しょう症。女性ホルモンの減少で骨密度が低下していくと骨がもろくなって軟骨を支える力が弱まり、ひざ関節の変形を招きやすくなります。

 最後は体格にもよりますが、一般的に女性の方が男性より関節軟骨が薄いため、すり減りが早いとされています」

 若い頃の外傷や、激しい運動でひざを痛めた経験のある人も、症状が出やすいそうだ。

梅雨時にひざの痛みが悪化するのはなぜか?

 症状と痛みの強度は、比例するものではないらしい。

「痛みの出方には個人差があり、重症でも男性の5割、女性の3割は痛みを感じていないんです」

 それでも、雨の日や台風の前に痛みが強くなる人は多い。

「痛みのほとんどは気圧の変化を受けるといわれています。気圧の変化で体へのストレスがかかると自律神経のバランスが崩れ、痛みを強く感じてしまうのです。病気そのものが悪化してはいませんから、この時季の患者さんには『心配いりません』と伝えます。

 しかし痛みが慢性化すると、痛みを脳に伝える神経が過敏になり、痛みをより強く感じるようになります。人間の神経系には、本来『下行性疼痛抑制系』というシステムが備わっていて、過度な痛みが脳に伝わらないよう抑制する仕組みになっているのですが、慢性化によりこの回路がうまく働かなくなるためです。

 その際の対処として、ひと昔前は『なるべく薬を使わずに治そう』という考え方でしたが、それでは慢性の疼痛が発生してしまう。いまは薬を使い、早い段階で痛みを取り除き、慢性化を食い止めようというアプローチが主流です。痛みがストレスになっているかたは、がまんせず病院での受診をおすすめします」

教えてくれた人

■整形外科医 渡辺淳也さん/千葉大学整形外科学講座客員教授、医療法人社団淳朋会変形性関節症センター長。著書に『ひざの激痛が30秒~でよくなる ひざ皿ストレッチ』(文響社)。

取材・文/佐藤有栄 イラスト/勝山英幸、かたおか朋子

※女性セブン2022年6月23日号
https://josei7.com/

●ひざ痛対策【まとめ】|痛みをあきらめないで!曲げ伸ばしの苦痛をスッキリ改善

●“インターバル速歩”正しいやり方を専門家が解説「目に見えた効果が期待できるの歩くのが楽しくなる」

●ひざ痛、爪の変形、外反母趾…放っておくと命の危険 !正しい足のケア法

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