認知症が進行する母が「深爪が嫌」という理由 爪切り問題で感じた息子の不安の正体
東京と岩手・盛岡を行き来し、認知症の母の遠距離介護を続けている作家でブロガーの工藤広伸さん。認知症がじわじわと進行する中で、お母さんが「爪切りどこいった?」と繰り返し、「深爪が嫌」とも…。一体何があったのだろうか?
認知症の母の爪切り「手と足の爪は別々のやり方で」
つい最近まで、母は自分で爪切りをしていました。しかし、認知症の進行とともに、少しずつ爪切り自体にも変化が現れました。どのような変化があったのか、わが家の特別な爪切り事情について、ご紹介していきます。
足の爪切りは訪問フットケアサービスを利用
母の爪切りは、手と足とでやり方が違っています。
足の爪切りは訪問フットケアを利用していて、看護師の資格をもったフットケアワーカーさんが自宅に来て、足の爪を含めた、足全般のサポートを行います。
なぜフットケアを利用することになったかというと、母が抱える難病シャルコー・マリー・トゥース病が原因です。手と足の筋肉が萎縮するこの病気は、足裏の土踏まずの筋肉まで萎縮します。
→認知症の母が暮らす家に8年越しで”手すり”を設置した実録ビフォー・アフター
偏平足とは真逆で、高いアーチ状の足に変形していて、足全体で体を支えることができないため、足裏にタコができやすくなります。そのタコを定期的に除去するためにフットケアを利用し、ついでに足の爪を切ってもらっていました。
フットケアワーカーは、糖尿病患者の足の爪をよく切るそうです。なぜかというと、糖尿病の方の中には、足の感覚の麻痺で痛みを感じづらくなる人もいるとのこと。
爪を切るつもりが誤って皮膚を傷つけてしまうと、細菌が入って壊死し、最悪の場合は足の切断につながることもあるので、フットケアワーカーの役割は重要です。
さらに認知症の人の足の爪も切る機会も多いといいます。その理由は、認知症の人は、定期的に爪を切ることを忘れてしまったり、歩くことが減って、巻き爪になったりすることがあるのだそうです。
わが家では、半年に1回のペースでフットケアをお願いしてきました。しかし、コロナ禍になってから、フットケアの利用が減ってしまいました。感染リスクがあるからではなく、歩く機会が減って、母の足にタコができなくなったからです。
コロナ禍において、高齢者の運動量の減少の話がニュース等で話題になっていますが、母も同様で、足のタコがバロメーターになっていたようです。
認知症の母が「深爪は嫌」という理由
手の爪切りは、母自身が行ってきました。ところが、認知症が進行するにつれ、母の爪切りにも変化が現れました。
ある日を境に、母は「爪切り、どこにいったか知らない?」を連発するようになったのです。どうやら自分で片づけたはずの爪切りの場所が、分からなくなってしまったようです。
爪切り以外のものもよくなくなるわが家では、なくしやすいものは複数購入して対処するのですが、爪切りも同じ形のものを購入し、母に爪を切ってもらいました。
手の力をあまり必要としない爪切りで、手の爪をパチン、パチンと切る母。わたしは母の横でテレビを見ていたのですが、数分後に音がしなくなりました。
爪切りをいつもの場所に戻さないとまた無くすと思ったわたしは、爪切りを母から受け取ったのですが、そのときに偶然見た手の爪が、想像していなかった状態だったのです。
まず、爪はほんのちょっとしか切られていませんでした。以前は爪先と指の腹の高さが同じになるくらいまで切っていたのですが、今回の仕上がりは、まるで若い子がネイルでも楽しむかぐらいまで爪が残っていました。
驚いて理由を聞くと、深爪をするのが嫌だから、少しだけ切ったという母。納得しかけたのですが、すべての指を確認したところ、全く爪を切ってない指が数本あったので、深爪の話は母の取り繕いか?と感じたのです。
認知症介護の視点から爪切りを考えた
爪を切っていない指があったのは、母がどの指の爪を切ったかを、覚えていないからだと思います。手を見れば分かりそうなものですが、母の中ではすべての指の爪を切り終えたと思い込んでいたようです。
さらに、爪をどれだけ切ったらいいのか、そのことすらも忘れてしまったのかもしれません。切り方がおかしいと息子に指摘された言い訳として、爪の切り方は忘れてないわよとアピールするために、「深爪が嫌」といったのかもしれません。
おそらく、伸びた自分の爪に違和感があったけど、爪切りの場所も切り方も分からないから、わたしに何度も「爪切り知らない?」と聞いてきたのかもしれません。結局、わたしが母のすべての指の爪を切って、キレイな状態にしました。
フットケアワーカーが担当する認知症の人の中には、自分の爪の違和感すら訴えられない人もいるようです。手の爪ならすぐに確認できますが、足の爪は靴下に隠れていて忘れがちです。歩行にも影響する認知症の人の足の爪は、誰かがこまめに見るべきだと思います。
母はわたしがサポートすれば、自分で爪を切ることができるはずです。できることは自分でやるのがわが家の介護モットーなので、今度母が爪切りをするときは、横でサポートするつもりです。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。