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77歳の認知症の母が「いくつになっても気持ちは乙女」と言い続ける理由

 認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。77歳になるお母さんが認知症になってから言い続けている「いくつになっても気持ちは乙女」という言葉について、工藤さんが思うこととは…。

【目次】

 母が無意識のうちにいつも見ているテレビ番組は、『あいつ今何してる?』(テレビ朝日)です。出演ゲストの学生時代の同級生が大人になった今、何をしているのかを追うバラエティ番組ですが、なぜかお気に入りです。

 認知症なので、番組のタイトルはもとより、どの局で何時から放送されているかも分からない母が、なぜこの番組をよく見るのか分かりませんでした。しかし、最近になって、その理由がなんとなく分かるようになったのです。

77歳の母は80代女性を「おばあちゃん」と呼ぶ

 母は自分の年齢を把握していないからかもしれませんが、通っているデイサービスの80代の利用者さんを「おばあちゃんたち」と言います。

 例えば、

母:「おばあちゃんたちさ、デイサービスの準備に時間がかかるのよ。なかなか車に乗らなくてさ。わたしは待たせるのが嫌いだから、早めに準備して迷惑かけないようにしているの」

 デイサービスの送迎車が来る2時間も前から、極寒の外で待とうとする母を、見守りカメラと電話で必死に止めているわたしは大変なのですが、そんなことよりも、77歳の母が同世代の利用者さんを「おばあちゃん」と呼ぶことに驚きます。

 母には自分の年齢を覚えておいて欲しいという思いもあるので、たまに「77歳なんだから、自分もおばあちゃんじゃないの?」と言うと、「そうよね」と納得するものの、「77歳になっても、気持ちは若い頃と変わらないのよね」と答えます。

 そのため、周りの高齢者はすべておじいちゃん、おばあちゃんであり、母自身はおばあちゃんには属していないと思っているようです。

認知症になってから繰り返される母の口癖

 気持ちの若さは、母の口癖にも表れています。

 90歳で亡くなった祖母がいつも、「いくつになってもな、気持ちは乙女なんだぞ」と言っていた話を、母は何度もします。

 わたしは祖母の介護もしていましたが、祖母の口から「気持ちは乙女」という言葉を聞いたことはありません。わたしが介護する前の口癖だったのかもしれませんが、ひょっとすると母自身の思いを、祖母が言っていたことにしている可能性もあります。

 この言葉は、母が認知症と診断された2013年からずっと言っていて、2021年になってもなお「気持ちは乙女」発言が止まりません。

 これはわたしの認知症への思い込みというか、誤解でもあるのですが、認知症の進行とともに、乙女の気持ちは失われて、気持ちが老いていくと勝手に考えていました。しかし、全く衰えることなく、今でも気持ちは乙女のままのようです。

 母は直近の出来事は忘れてしまいますが、10代から30代くらいの記憶は鮮明です。母の覚えている記憶の大半が若い頃のものだから、自然と気持ちも乙女になるのかなと思っていたのですが、偶然見かけたある調査を読んで、そうでもないと考えるようになりました。

いくつになっても簡単に老いは認められない?

 50代以上の男女に聞いた『シニアの年齢意識に関する調査』※によると、8割の方が「実年齢よりも心(気持ち)年齢は若い」と答えたそうです。

※『シニアの年齢意識に関する調査』(2015年ゆこゆこネット調べ)
https://www.atpress.ne.jp/news/73489

 認知症に関係なく、多くの人はいくつになっても、実年齢より気持ちは若いと思うようです。確かにアラフィフのわたしも、実年齢より気持ちは若いと思い込んでいます。母の気持ちが乙女なら、わたしの気持ちは少年のままです。

 もちろん、多くの人生経験を経て、精神的には大人になったと思っています。それでもどこか大人になりきれていない自分がいて、20歳の頃に想像していた大人のイメージとは、かなりかけ離れています。もっと成熟した大人になるはずでしたが、まだまだ未熟です。

 だから、77歳の母の気持ちが乙女のままなのは納得できますし、自分が77歳になったときもきっと、気持ちは少年のままなのだと思います。

『あいつ今何している?』を見ている母の気持ち

『あいつ今何してる?』を見ているときの母はきっと、出演ゲストとその友人の久しぶりの再会に、自分の学生時代の思い出を重ね合わせているのだと思います。
 
 番組中に気持ちは乙女の話のほかに、わたしに「あんたは同窓会には行ってないの?」と質問してきます。

 母が同窓会に行きたいのかな?と思い、地元紙で募集していた高校時代の同窓会に申し込むか聞いたら、「それは恥ずかしいから行かない」と言います。

 この先、認知症がさらに進行したとしても、“乙女の気持ち”を忘れずにいて欲しいと願っています。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。

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