連載

岩手で暮らす重度認知症の母を10年遠距離介護する男性が明かす「継続できる2つの理由」

 岩手・盛岡でひとり暮らしをする認知症のお母さんを遠距離介護しているブロガーで作家の工藤広伸さん。東京から盛岡に通いながら介護を続けて10年目、これほど長く遠距離介護を続けて来られた理由とは?10年を振り返って感じることとは。

これまでの遠距離介護はどんなものだった?

 2012年11月15日からスタートしたわたしの遠距離介護は、とうとう10年目に突入しました。そこで今回は、母のサポートという視点から、振り返りたいと思います。

 遠距離介護という言葉から、読者の皆さんはどのような介護を想像されますか? 

 母の認知症は軽度で、介護施設に預けていて、岩手に住んでいるわたしの妹のほうが実家に近いので、妹が主な介護を担っていると思われたかもしれません。

 実際はいずれも違っていて、母は認知症のテストである長谷川式認知症スケールで、30点満点中9点です。テスト上では、重度と判定されるレベルです。介護施設の利用はなく、今でも自宅でひとり暮らしを続けています。

 妹には2人の子どもがおり、わたしには子どもがいません。子育てで忙しい妹より、わたしのほうが身軽なので、距離は離れていてももの忘れ外来などの通院や介護は、わたしが主にやってきました。

 コロナ禍になり帰省のペースは落ちましたが、感染対策をしながら通いの遠距離介護は続けていましたし、コロナ前は2週間に1回のペースで、年20回ほど実家で在宅介護をしてきました。

 こうした環境で長く遠距離介護を続けられた理由は、大きく2つあると思っています。

介護保険サービスのありがたさ

 ひとつは、介護保険サービスの存在です。

 介護保険サービスの利用は、ヘルパーさんに燃えるゴミを週2回捨ててもらうところから始まりました。倉庫にうず高く積んであった燃えるゴミの山を見つけるまで、母が自分でゴミ捨てができないことに気づけなかったのです。

 認知症で曜日が理解できない、足が不自由なため、雪道を歩いてゴミを捨てに行けないなど、母の生活の不自由さを想像できずにいたのです。このことがきっかけで、介護保険サービスの利用はどんどん増えていきました。

 それからヘルパーさんには、食材の買い物やデイサービスへの送り出しをお願いするようになり、今ではほぼ毎日、自宅に来て生活援助をして頂いています。週2回のデイサービスでは、入浴や他の利用者さんとの交流、料理の手伝いなどを行っています。

 他にも認知症の薬の管理ができない母のために、訪問看護師さんや訪問薬剤師さんに手伝ってもらったり、手足のリハビリのために訪問リハビリを活用したりもしています。

 これまでお世話になったケアマネジャーさんは3名、ヘルパーさんは30人以上、訪問看護師さんは20人以上、作業療法士・理学療法士さんは4名、たくさんの人の力を借りたおかげで、これまで遠距離介護が続けられたのだと思います。

 こうした人の目による見守りは、遠く離れて暮らす自分にとって大きな安心となりました。しかし、人の目だけでは不安の解消には至りません。なぜなら、いずれの医療・介護職の方も、どんなに長くても1時間程度しかいられないからです。

 残りの23時間は、他の方法で見守りを続けなければなりません。その不安を解決してくれたのが、テクノロジーです。

驚くほど進化したテクノロジー

 遠距離介護が長く続いている2つ目の理由は、テクノロジーの進化です。介護が始まった2012年と今とでは、テクノロジーの環境が激変しています。

 例えば見守りカメラですが、当初は3万円近いカメラを購入して、Skypeを使ってつないでいました。ネット回線も脆弱だったため、カメラの映像が途切れ、母の様子を2日間も見られなかったこともありました。



 しかし今は、スマートフォンをタップするだけで、遠く離れた母の様子を鮮明な映像で見られる時代です。ネット回線も切れることなく、カメラは1万円以下で購入できます。

 遠距離介護中の課題のひとつに、家電トラブルがありました。家電のトラブルは、介護保険サービスの対象外なので、家族で解決しなければいけません。わが家で最も多かったトラブルは、テレビの故障です。

 テレビ自体が故障したわけではなく、母がリモコンを誤操作するトラブルです。BSアンテナのない実家でBSボタンを押し、画面が真っ暗になって、テレビが映らないと大騒ぎする事件が頻発しました。

 以前は、妹が実家に行って復旧するまで、母は東京にいるわたしに何度も電話してきました。しかし今は、スマートリモコンを使って東京から遠隔操作すれば、すぐに復旧できます。

 スマートリモコンは、エアコンの遠隔操作も可能です。季節感や温度感のない母の代わりに、わたしが遠隔でエアコンの温度設定をしています。おかげで熱中症の危険もなくなりましたし、寒い岩手の冬をしのげるようになり、遠距離介護に欠かせないツールとなったのです。

 介護保険サービスを充実させたことに加え、進化したテクノロジーのおかげで、なんとか遠距離介護を続けてこられました。テクノロジーの進化はさらに加速していくはずなので、積極的に介護に取り入れながら、遠くから母を見守りたいと思います。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。

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