高齢ドライバーの事故から考える「運転免許証自主返納」のメリット・デメリット
11月17日、大阪で89才男性の運転する車が、アクセルとブレーキの踏み間違いでスーパーに突っ込み、死傷者が出た事故が報じられた。後を絶たない高齢者ドライバーによる事故…。そこで、考えたいのが運転免許の自主返納だ。運転免許証は、自ら返納することで、様々な特典が受けられるようになる。しかし、生活の中で移動手段として車を必要としている人も多いだろう。そこで、自主返納のメリット・デメリットをファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんに解説いただいた。
運転免許の自主返納とは
運転免許証を更新するには、75才以上になると認知機能検査が必要となる。しかし、不合格となっても認知症と診断されていない限り、高齢者講習を受講したうえで、免許を更新することはできる。
とはいえ、加齢により視力や反射神経が鈍ってくると、運転操作ミスや事故につながる恐れもある。
先日大阪で起きた「アクセルとブレーキの踏み間違い」による事故は、運転していた男性は89才、命を落とした男性は87才で、80才のときに運転免許を返納していたという報道も。
こうした悲劇を起こさないためにも、少しでも不安を感じているなら、運転免許の返納を検討してみはいかがだろうか。
警察署では自主的に運転免許証を返納できる制度を設けている。運転免許証を返納すると、「運転経歴証明書」の交付(手数料1100円程度)が受けられ、それまで運転免許証を本人確認証として使っていたのと同じように利用できる。
また、「運転経歴証明書」を取得した人には、各地方自治体で様々なサービスや特典が用意されている。
自主返納によるメリット
自主返納後に申請すると交付される「運転経歴証明書」を提示することで、以下のような特典が受けられる。
・タクシーやバスの運賃割引
・商品券進呈
・百貨店の宅配料金割引
・美術館、飲食店の料金割引 など
ただし、特典は地方自治体によって加盟している店舗やサービスは大きく異なっているので、各自治体のホームページなどで確認が必要だ。
返納により保険料の節約につながることも
運転免許証の自主返納により、加入していた損害保険が不要となることもあるだろう。保険商品にもよるが、自動車保険などの損害保険は、等級が高いほど保険料が安くなる。これまで一度も交通事故などを起こしていなければ、高い等級を維持しているはずだ。この等級は、まだ等級の低い家族に引き継ぐこともできる。
つまり、運転免許証を返納して自分はもう運転しないとなれば、等級を家族などに引き継ぐことで、家族の保険料を安くすることができるというわけだ。
免許返納によるデメリットは地方のほうが大きい?
都心部は最寄り駅までの距離が短く、バスの本数や路線、タクシーなど車以外の交通網が発達しているため、タクシーの割引サービスがあれば自主返納しても、地方に比べれば移動手段に困らない。
一方、地方では車がないと移動手段が絶たれ、生活に困るという人もいるかもしれない。
ある調査によると、住んでいる場所が最寄りの駅からも、バス停からももっとも遠く離れた場所に住む高齢者世帯数を調べたところ、香川や岡山、松山などが上位に挙がった。
そこで、東京都と香川県の例で、運転免許証の自主返納による特典を見ていこう。
東京と香川の特典を比べてみると…
■東京・運転免許返納後の特典の一例
・西武ハイヤー、寿交通、東京都個人タクシー
タクシー料金10%割引
・銀河鉄道
路線バス1年間乗り放題の「お達者定期」無料進呈
・帝国ホテル
直営レストラン・バーで10%割引
・高島屋
自宅への配送無料
・メガネの愛眼
眼鏡10%割引、補聴器5%割引 など。
■香川・運転免許返納後の特典の一例
・バス、乗り合いタクシーの回数券
・タクシー利用券1万円分
・商品券
・うどん点10%割引
・レストラン5%割引
・旅行3%割引
・温泉、入浴施設割引 など。
地方では交通系の特典が手厚い傾向
車が移動手段として重要な香川県では、東京都に比べて自主返納による交通手段のサービス特典が手厚いことがわかる。
たとえば、東京にはない特典に、香川県では、タクシー回数券などが毎年受け取れるようになっている。また、事前に予約すると乗り合いタクシーが希望の場所や時間に迎えにきてくれるという特典もある。
運転免許証の自主返納は、生活の足としての移動手段である車を、公共交通機関やタクシーなどに切り替えられるか、ひとつのポイントになりそうだ。
高齢になっても安全運転で車に乗り続けたいと思う人も多いだろう。しかし、高齢で運転で不安がある場合は、利用できる特典を考慮して、運転免許返納後の生活を家族で話し合ってみてはいかがだろうか。
なお、すでに運転免許証が失効しているという人でも、5年以内なら「運転免許証明書」を申請できるので確認しておこう。
文/大堀貴子さん
ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。