「大切な人とは、1日7秒間ハグを」 山村美智さんが勧める“ナナハグ”の重要性
伝説のバラエティ番組『オレたちひょうきん族』の“初代ひょうきんアナ”としても知られる元フジテレビアナウンサーで女優の山村美智さん。「ミスターフジテレビ」と呼ばれた名物プロデューサー宅間秋史(たくまあきふみ)氏と36年半連れ添った。10月末に上梓した『7秒間のハグ』(幻冬舎)には、昨年12月に他界した宅間さんへの愛と感謝が満ちあふれている。ともに闘った日々は絆を深め、優しい書名と装丁のラブストーリーに昇華された。
通夜・告別式では大勢の人が寒空の中帰らなかった
宅間さんがフジテレビから独立してから5年が経っていたが、通夜・告別式には宅間さん、山村さんがフジテレビの仲間たち5人で結成していた「モダン会」のメンバーをはじめ、大勢の元同僚や若い仕事仲間が参列し、なかには裏方の作業を手伝う人も多かった。
「本当に大勢のかたにお越しいただいて。寒い中、みなさんがなかなかお帰りならず、ずっと夫の話をしていてくださったと聞きまして、ありがたいですよね」(山村さん、以下「」同)
藤原紀香さん、長谷川京子さん、内田有紀さん、ともさかりえさん、石黒賢さんら俳優陣も目立った。宅間さんプロデュースの作品に出演した「宅間組」と呼ばれる人たちだ。
なかでもゆかりの深い藤原紀香さんが、『7秒間のハグ』の帯に推薦文を寄せている。
「コメントをお願いしたら、ご自分から『直筆で書きます』と言ってくださって。紀香さんがデビューされたときからのおつき合いで、夫は妹のようにいつも気にかけていました。快く引き受けていただいて、夫も喜んでいると思います」
優しさに満ちあふれた装丁を見て涙が出た
装丁は、温かく、優しい雰囲気だ。
「素敵でしょう? デザイナーの西村真紀子さんが手がけてくださいました。タイトルのフォント(書体)も、優しい色調もとても気に入っています」
山村さん自身、舞台のチラシづくりでも文字の配置やフォントへ思いをこめることの大切さは実感していた。
そして、幸せの陽だまりに本が包まれているような温もりある装画。宅間さんが漕ぐボートの向かい側に山村さんがいて、愛犬のカレンとセリーナも一緒に乗っている。木々はとりどりの花や実をつけ、その上空を鳥たちが気持ちよさそうに飛ぶ。
「初めて装丁の絵を拝見したとき泣いてしまいました。なんて優しく、静かな時間が流れているんだろうと。描いてくださったのはイラストレーターの磯崎(崎の文字、正しい表記は大ではなく立)菜那さんで、お会いしたことはなかったんですけど、私のブログを丁寧に読んで描いてくださったんですね。“慈しみ”の気持ちを感じました。後日、原画をプレゼントしてくださったんですよ。さっそく額装をしてもらって、今は玄関に飾らせていただいています」
子育てや介護の相手にも“ナナハグ”を
優しさと温もりは本のタイトルにもあふれている。『7秒間のハグ』にした理由を聞くと、山村さんは少しいたずらっぽい表情になった。
「『ナナハグ』とお呼びください(笑い)。ナナハグするとオキシトシンという脳内ホルモンが出るって、医学的にも証明されているそうです。オキシトシンは『幸せホルモン』とか『ハッピーホルモン』って呼ばれていますよね。私はすごく効果があると感じました」
《いつも抱き合う時は、7秒と決めていた。入院生活が始まった頃に、7秒のハグは絆が強くなるとどこかで読んだらしく、1日に1回は7秒抱き合おうと秋史が提案したからだ。》
「7秒間のハグで、乗り越える」
《その日も、いつものように、自動販売機の裏で抱き合った。
7秒間抱き合う。
「1、2、3、4……」
二人して声を合わせ、囁くように、ゆっくりと、秒数を数える。
「5、6、7」
秋史が提案した7秒間のハグ……。
回した手に秋史の背骨の突起が感じられて、細くなっているのがはっきりとわかる。でも、この7秒のハグがあるから、私は全て乗り越えられるような気がした。秋史の温もりが、私の中に入ってジュンワリ巡り、そして、また秋史に戻って行く。きっと秋史も、7秒チャージして、今日も頑張ろうって思ってくれてたんだと思う。》
「ラウンジのランデブー」
“ナナハグ”と「あいてま、なさい」
7秒間のハグ以外にも、決めていることがあった。
《結婚した当初、二人で取り決めたことがある。
出かける前には、ハグとキスすること。寝る前には、おやすみなさいと共に、「愛しています」ということ。この二つ。》
《そう、死ぬ直前までこのルールは守られて、私は秋史にチュッてしていた。
寝る前の「愛してます」も続けられた。入院していて会えない時は、メールやラインで。でも「愛しています、おやすみなさい」が省略されて、「あいてま、なさい」となってはいたけれど。》
「夫婦、ハグ、キス、あいてま、なさい」
ナナハグするとハグしたほうも、ハグされたほうもオキシトシンが分泌される。すると安心感が広がり、愛情や信頼の気持ちが強くなって、それが幸福感をもたらす。
「コロナ禍で人との距離が遠くなってしまったけれど、やはり会って触れて、温もりを感じる時間は大切だと思うんです。ご夫婦や恋人同士だけでなく、お子さんを1日1回、ギュッと抱きしめてあげるとか。介護するお父さんお母さんに対してもそうですよね。家族がいなかったら、ワンコでもネコちゃんでもいいと思います。7秒ってけっこう長いから、1日に1秒ずつ延ばしていくといいですよ」
7秒間で体温が伝わり、その体温にのせて相手との間になにかが循環する。山村さんが描いた温もりの「7秒チャージ」だ。
相手がテレたり面倒くさがったりしたら、「これは実験だから」と説得してでも試してみてと山村さんは微笑む。
「当たり前の奇跡」
藤原紀香さんが推薦文に「愛する人と一緒にいられる“当たり前の奇跡”を、大切にしたいと思える1冊です」と書いている。
“ナナハグ”しようと思えばできる相手がいることも、“当たり前の奇跡”と知るときが来るかもしれないのだ。
「本を読んで、温かい気持ちになったと言ってもらったんですが、とてもうれしかったです。友人で脚本家の大石静さんに『大切な人と別れることが、人間の宿命だから』という言葉をかけてもらったんですね。そう思うと、改めて、大切な人との1秒1秒が、どれだけかけがえのない時間であるかを実感しますよね」
最愛の夫と過ごした36年半を赤裸々に記した『7秒間のハグ』。山村さんは、著書を通して仲間とは、愛とは、そして生きるとは…今を懸命に生きる人すべてに優しく語りかける。
<つづく>
プロフィール
山村美智(やまむら・みち)さん
1956年三重県生まれ。津田塾大学卒業後、フジテレビジョン入社。お笑いバラエティ番組『オレたちひょうきん族』の初代ひょうきんアナウンサーなどで活躍。1984年、宅間秋史さんと社内結婚。1985年に退職して女優業を本格化。最新作は2022年公開予定の映画『今はちょっと、ついてないだけ』。2021年10月、初の著書『7秒間のハグ』(幻冬舎)を出版。
取材・文/柴田敦子 撮影/横田紋子