兄がボケました~若年性認知症家族との暮らし【第114回 絶賛!カラオケ依存中】
若年性認知症を患う兄と暮らすライターのツガエマミコさんのストレス解消法は「一人カラオケ」。しかし、緊急事態宣言に伴い、カラオケ設備を提供する店は自粛要請がされてしまいました。ようやく10月1日に宣言は全面解除になりましたが、今回は、緊急事態宣言中、ツガエさんに起きた緊急事態のお話です。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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カラオケは「最後の駆け込み寺」
私事ではございますが、最近気になっていることがございます。「ジーンズなどのパンツ類を脱ぐとき、必ず生地が裏返ってしまう」という現象でございます。幼児期ならいざ知らず、人生の大半は意識しなくても裏返ることは滅多になかったのでございます。ところが気づいたら裏返る頻度が圧倒的に多くなり、どんなゆとりある太めパジャマでもだいたい踵が裾にいい具合にひっかかってしまうのです。「あ、このままじゃ裏返る」と思って足首を修正するのに結局裏返し脱ぎになってしまう。何が以前と違うのでしょうか。体が硬くなっている証拠?「老化だぁ」と自ら笑ってしまったツガエでございます。本当にどうでもいいことで恐縮です。
こんなどうでもいいお話しができるのには、じつはさらにどうでもいい理由がございます。
ついせんだってまで緊急事態宣言下でしたが、そんな中、「カラオケ」に行けたのでございます! 拍手!!!
歌いたくても「休業」ではどうすることもできず、溜まり続けるストレスに「我慢だ、我慢だ」と言い聞かせているうちにわたくしの精神は「無気力」に向かっておりました。いつしか腰痛で腰が伸ばせずに日常生活に支障をきたす二重苦三重苦。
なんとかしないとぺちゃんこに潰れてしまうと思ったわたくしは、藁をもすがる思いでネット検索してみたのでございます。すると、なんと、大手カラオケチェーンでも、休業店の中に数店舗だけ時短で営業中のお店があったのです。
「無気力」だったわたくしに光が差したことは言うまでもございません。たったそれだけのこと?とおっしゃるなかれ。猛暑でもエアコンがあるのとないのとでは、気持ちの上で雲泥の差があるのと同じです。
「最後の駆け込み寺」があると思えば頑張れるというもの。気のせいか腰痛が軽くなり、腰が伸ばせなかったことが不思議なくらい持ち直しました。
しかし、情勢が変われば対応が変わるのが世の中の常。数日後に同じサイトを開くと、「時短営業」だった店舗が全部「休業」に転じておりました。大ショックで開いた口が塞がりません。しかし、諦めずにカラオケ店を検索しまくること数時間。仕事もせずに見続けた結果、あったのです。ついに救世主を発見いたしました! そして「今行かないと、ここも休業になってしまうかもしれない」という思いがわたくしを急き立てました。
というわけで先日、兄がデイの日、往復2時間かけて、カラオケだけをしに行ってまいりました。
久しぶりすぎて、声が出ない。でも2時間半歌いまくって大満足いたしました。
帰宅して兄を迎えに行ったときにはあまり感じなかったのですが、翌日になると明らかに朝の気分がいい。朝一番に掃除機をかけるわたくしは無意識に鼻歌を口ずさんでおりました。そして無気力から脱し、兄が食べこぼした床の汚れに涙するのではなく、しっかりムカつくことができるようになったのです。怒りは心が生きている証拠なのだと思いました。
そんな風にわたくしを救ってくださったカラオケ店ですが、ネットの口コミでは「この緊急事態宣言の中で営業しているのはおかしい」とか「休業すべき」という意見を拝見いたしました。世間はキビシイ。でもそれはわたくしが「こんなときにパチンコなんてしなくてもいいんでない?」と思ったこととまったく同じであることに気づきました。
と、ここまで考えてふと、「わたくしはカラオケ依存症なのでは?」という説が浮上してまいりました。いやまぁ依存症でもいいでしょう。皆様にご迷惑をかけない程度に依存してまいります。どうかあのカラオケ店が休業に追い込まれませんように、今はただ手を合わせ、天に祈るばかりです。
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文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、7年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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