尊厳死協会新規会員は年間5~6千人!「尊厳死のための法律必要」
長寿大国ニッポンでは“長く生きること”が尊いことだった。しかし今、“命を延ばすこと”の是非が問われている。
日本尊厳死協会副理事長・医師の鈴木裕也さんが「延命」について見解を述べた。
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「延命治療を中止しても罪に問われない」という法律がない
延命治療を巡る議論で難しいのは、患者が拒否したくても、今の医療現場には一度始めた延命治療を中止する勇気や技術がないことです。最初からしないことも難しいのですが、中止するのはさらに難しくなります。
たとえば脳梗塞で倒れて、患者の意思を確認する間もなく人工呼吸器をつけたけれど、回復の見込みがなくなった患者がいたとします。後で患者や家族の希望がわかっても、人工呼吸器は外すとすぐに呼吸が止まって亡くなってしまう。そんなときに呼吸器を外せないのが、現状です。
延命治療を巡るいくつかの医療事件も無関係とはいえないでしょう。射水市民病院事件では、人工呼吸器を外した医師が殺人容疑をかけられ、不起訴が決まるまで3年もかかりました。事件から10年以上たちますが、いまだに医師から「“延命治療をやめても罪に問われない”という法律がないから、患者らの同意があっても延命治療を中止するのは難しい」という声を多く聞きます。
日本尊厳死協会の発足から42年。毎年約6000人が入会し、ここ最近の会員数は約11万人です。尊厳死協会が目指しているのは、患者の意思を尊重し、人として幸せな最期を迎えられる社会の実現です。もちろん、たとえ意識がなくても、延命治療を受けてその人が生きていることが家族にとって大事というケースもあります。
尊厳死についての法制定が待たれる
以前、延命治療を続ける高齢の男性に、毎日付き添っている奥様がいましたが、おふたりで大切な時間を過ごしていらっしゃった。一方で誰もお見舞いに来ないまま、何か月も延命治療を続けている患者もいます。本来は医療者と家族らがしっかり話し合うべきですが、日本は海外に比べて高齢者の医療費負担が少ないこともあり、延命治療が長びく傾向にあります。
尊厳死協会の会員は「延命治療を受けない」という意思を示す「会員証」を持っていますが、医師に話しても治療をやめてもらえずに亡くなるかたが年に2~3%はいる。その背景にあるのが前述したような、法律がないことが主たる原因です。
患者の意思を尊重し、最期までその人らしく生きるためには「尊厳死」についての法律が待たれます。延命治療の中止にあたっては、医療従事者の教育も必要でしょう。家族らがよく考えてお別れする時間を充分にとり、医師や看護師が立ち会って、本人や家族がよかったと思えるようにしなければいけません。
※女性セブン2018年5月3日号
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