新『半沢直樹』1話|半沢の変化に注目!もうおじさんで銀行に戻れるかどうか瀬戸際か
堺雅人主演『半沢直樹』新作が先週スタート。第1話の視聴率は22.0%、高い数字から「待ってました!」の掛け声が聞こえてきそう。前シーズン、衝撃のラストを受け、ストーリーは半沢の出向先から始まる。「日曜劇場研究」ライター、近藤正高さんがまず注目するのは「おじさんになった」ことを強調する半沢の変化である。
今夜放送第2話の前にじっくりおさらいを。
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半沢直樹が出向になった不可解な理由を推察
『半沢直樹』の新シリーズがいよいよ先週より始まった。舞台も前シリーズの東京中央銀行から、子会社の東京セントラル証券へと移った。東京セントラル証券は、前シリーズのラストで描かれたとおり、堺雅人演じる主人公の半沢が中野渡頭取(北大路欣也)より命じられた出向先である。
それにしても、前シリーズで大和田常務(香川照之)の不正を暴きながら、半沢はなぜ銀行の外に出されなければならなかったのか?
大和田がヒラの取締役へ降格されたとはいえ銀行にとどまったことを思えば、不可解な処分ともいえる。これについて筆者は、前週の特別総集編・後編を見てからずっと考えていた。
そこでひとまず出た結論は、理由は大和田への処分と同じなのではないか、ということだ。大和田への寛大な処置は、特別総集編でナレーションによって説明されていたとおり、中野渡頭取が彼に恩を売ることで、行内の派閥を抑えるためであった。ここから察するに、半沢が子会社に出向となったのは、彼の存在が派閥争いの火種になりかねないと判断されたからではないか。いくら相手の不正をただすためとはいえ、私怨で土下座までさせるような人間は危なっかしすぎる。とはいえ半沢は、普段は真面目だし、仕事ではどんな難しい案件にも応えてみせる。そこで頭取としては、ひとまず頭を冷やすためにも半沢を外に出し、頃合いを見計らってまた銀行に戻そうという腹積もりではなかっただろうか。
ドラマを見るかぎり、中野渡頭取は調整型のリーダーと思われる。そもそも東京中央銀行は、東京第一銀行と産業中央銀行が合併して生まれたメガバンクだけに、それぞれの出身の行員による対立も激しかったはずだ。中野渡はそれを抑えるため長らく苦労し続けてきたに違いない。そんな彼をまたしても悩ませそうな空気が、新シリーズが始まってさっそく漂い出した。
賀来賢人、尾上松也登場
今回の行内闘争の火付け役は、証券営業部の部長である伊佐山(市川猿之助)だ。伊佐山はもともと大和田を慕っており、その大和田の不正を暴いて失脚させた半沢を憎むようになる。それでいて、自らの出世のため、力を失った大和田に見切りをつけ、新たに副頭取の三笠(古田新太)に接近を図るところが抜け目ない。とにかく伊佐山という男は出世第一で、そのためにはどんな汚い手を使おうが躊躇はない。何しろ初回からいきなり、東京セントラル証券で半沢たちが進めていた重要案件を横取りして、まったく悪びれた様子を見せないのだから。
伊佐山と半沢の対立に引き金を引いた重要案件とは、大手IT企業・電脳雑技集団によるライバル企業・スパイラルの買収計画だ。1500億円もの買収計画は、東京セントラル証券には破格の大型取引であった。出向先の同社で営業企業部長となっていた半沢は、電脳雑技集団の社長・平山(土田英生)とその夫人で副社長の美幸(南野陽子)から買収アドバイザーを依頼される。だが、2週間後、アドバイザー契約は一方的に破棄され、別の会社に奪われてしまう。その奪った相手こそ親会社の東京中央銀行であり、伊佐山だった。
これを知った半沢は、銀行から案件を取り返すべく反撃ののろしをあげる。そこでともに行動するのが部下の森山(賀来賢人)だ。じつは森山は買収先のスパイラルの社長・瀬名(尾上松也)とは中学の同級生だった。旧友のため、少しでもスパイラルに有利になるよう計画を立てる森山に、半沢は上司として精一杯力になろうとする。
「おじさん」になった半沢
ところで新シリーズが始まって、私が気になったのは、半沢に対し、妻の花(上戸彩)や銀行の同期の渡真利(及川光博)が「もうおじさんなんだから」と口にしていたことだ。「おじさん」というのは、劇中の時間の流れを考えるうえで一種のマジックワードになっているように思われた。
それというのも、この言葉のおかげで、前シリーズからそれなりの歳月が経っていることがわかるからだ。それでいて、具体的にどれぐらいの時間が経ったのかは、視聴者に想像の余地が生まれる。前シリーズでは半沢は39歳だったから、40代になっていることは間違いない。前シリーズから流れた時間と同じく7年が経っているのなら46歳と、演じる堺雅人の実年齢とほぼ同じということになる。ちなみに子会社に出向した銀行員にとって40代後半という年代は、銀行に戻れるかどうかという瀬戸際でもある。
おじさんになった半沢は、森山に対してもどこか“若い頃の自分を見るような目”で見ている気がした。そのうえ、自分と同じく森山も学生時代に剣道をやっていたと知って、半沢はますます親近感を強めたのか、いきなり傘を竹刀替わりに彼を背後から攻めかかったのには笑ってしまった。実際にあんなことをすれば、いくら剣道経験者でもよけきれないと思うのだが、それを森山はすばやく察して同じく傘で見事に立ち回ってしまうのがいかにも『半沢直樹』らしい。すでに前シリーズから指摘されるとおり、今回も猿之助扮する伊佐山の悪役ぶりといい、どこか時代劇っぽさを感じさせるのがこのドラマの持ち味だ。
顧客第一、部下想い…円熟した半沢
先ほど、出向した銀行員にとって40代後半は銀行に戻れるかどうかの瀬戸際と書いたが、半沢の部下で同じく銀行出向組の諸田(池田成志)と三木(角田晃広)は、まさにそれをエサに伊佐山にそそのかされ、買収案件を横取りする策略に噛んでいた。とりわけ営業企画部次長の諸田は、半沢よりさらに年上(演じる池田の実年齢からすれば50代後半)と推測されるだけに、焦燥感はかなりのものだったろう。それは、伊佐山の指示で動いていたことが半沢にバレたときの「一度でも銀行に勤めたことのある人間はまた銀行に戻りたいと思っている」と言い訳するセリフにはっきり表れていた。
半沢としても、頭取になるという入行以来の野望をかなえるには、銀行に戻るタイムリミットが確実に迫っている。しかし、彼はけっして私情には走らない。常に顧客を第一に考える姿勢は、新シリーズが始まってますます強くなっているように思われた。そこには、伊佐山のような人間に丸め込まれるぐらいなら、銀行に戻れなくてもいいという覚悟さえ感じられる。森山や浜村(今田美桜)ら若い部下への接し方、あるいは慕われ方を見ていても、半沢が出向先で人間として一回りも二回りも大きくなったことは間違いない。円熟味さえ感じさせる彼が、伊佐山に対しどんなふうに戦っていくのか。今後の展開にますます期待が高まる第1話であった。
南野陽子の行動にびっくり
余談ながら、第1話で気になった場面をもうひとつだけ。電脳雑技集団副社長の平山幸子が、伊佐山たちの提示した再建プランを見るや急に興奮し出して、そのあとで夫にいきなり抱きついていたのは何だったのだろうか。儲け話に性的興奮を感じる体質なのか?
幸子を演じる南野陽子といえば、いまから30年前、いつもとは声色を変えて歌った、その名も「へんなの!!」という曲をリリースしているが、筆者はくだんの場面を見ていて、あの曲を初めて聴いたときと似たざわつきを胸に覚えたのだった。
『半沢直樹』(新シリーズダイジェスト)は配信サービスParaviなどで視聴可能(有料)
『半沢直樹』(前回シリーズ)は配信サービスParaviで視聴可能(有料)
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。
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