施設、病院で家族に面会ができない!葬儀にも参列できない…コロナ時代こんなに変わる
不幸なことに新型コロナは、特に高齢者に高リスクだ。それだけに、人生の黄昏にこそ、これまでとまったく違うライフスタイルが求められる。それは高齢者本人だけではなく、寄り添う家族にとっても大きな問題だ。高齢者施設、病院では、家族との面会がかなわず、「オンライン面会」も普及してきた。葬儀にも参列できない…コロナ時代の人生の終わり方を考える。
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故人をしのぶより、コロナが気になってしまう
故人との最後のお別れの場である葬儀も、状況は一変している。葬儀に関するサービス事業を行う鎌倉新書の小林憲行さんは「最近は遺族の希望どおりの葬儀をすることが難しい」と言う。
「ご遺族に聞いた話です。緊急事態宣言が出たばかりの4月、由緒ある家のおばあさまが94才でご逝去されました。本来ならば親族や近所の人たちなど100人くらい集まって葬儀をしたいという希望だったのですが、『3密』を避けなければならない。だれに声をかけていいのか困ったそうで、結局、近親者のみ7、8人しか参列できませんでした。参列できなかった親族の中には小さいお子さんがいる家庭もあり、『おばあさまに会わせてあげたかった』と、残念そうにおっしゃっていました」
読経時、僧侶もマスク装着
葬儀の場での常識も変化している。いままで、喪主や受付の担当者はマスクをつけないことが「マナー」だったが、現在は読経時に僧侶もマスクをつけるほどだ。品薄でマスクが手に入らなかったため、参列を避けたという声もある。
少人数の身内だけで執り行う「家族葬」では、これまでは専用の小さな会場で行うのが一般的だったが、最近は大きな会場でいすの間隔を広く空けて行うプランも人気だという。
「通夜振る舞いの食事では、折詰にして持ち帰る形式も登場しました。ただ、これからの季節は食中毒の問題もあるので、葬儀の際に食事をするという慣習そのものが少なくなる可能性もあります。コロナ禍の葬儀では、故人を失って悲しいという気持ちが感染の不安で薄まってしまい、故人をしのぶ雰囲気になりにくいのも事実です」(小林さん)
「お別れ」以上に、新たな感染者を生み出さないことが優先されるコロナ禍では、大切な人の死を目の当たりにしても、気持ちの落としどころを見つけることが難しい。さらに、岡江さんや志村さんのケースからもわかるように、故人がコロナ感染者となると、別れの瞬間はさらに厳戒態勢となる。
黒い納体袋に入った父の遺体と対面、それでお「会えるだけよかった方」
80才になったばかりの父を新型コロナ肺炎で5月下旬に亡くした三浦夏江さん(仮名・56才)は、火葬場での光景に言葉を失ったという。
「もちろん病院にいる間は面会ができません。志村さんの報道も見ていたので、遺骨になるまで会えないとあきらめていました。ですが、東京以外では家族の立ち入りを許可する自治体もあるようで、病院から亡くなったその日に火葬の段取りの連絡が来たんです。『あまり近づかないでほしいけれど、大丈夫です』と言われ、まさか最後のお別れができると思わなかったのでとてもうれしかった。しかし、火葬場へ到着してみると、父の遺体は真っ黒な『納体袋』の中で、近くで顔を見ることもできませんでした」
納体袋とは、遺体を収容する専用の袋。思いがけない姿での再会にショックを隠せなかったが、火葬場の従業員には、「会えるだけよかった方です」と声をかけられたという。
オンラインで「画面越し」面会、それでも患者の表情が変わった
なんとか家族の顔が見られないものか―そんな切実な声から、病院や高齢者施設では、テレビ電話を使った「オンライン面会」の導入が進む。
永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛さんは緩和ケア病棟に「テレビ電話面会」を導入するため、インターネット上のサービスであるクラウドファンディングで設備への支援を呼びかけたところ、2日間で800万円という予想を超える支援金が集まった。テレビ電話の効果はてきめんだと、廣橋さんは話す。
「ずっと暗い表情だった患者さんが、画面越しに家族の顔を見るだけでハッと目を開けて、シャキッとした表情に変わるんです。患者さんのつらい気持ちは、薬だけで充分に緩和することはできない。家族とのかかわりで緩和する部分もあるのだとわかりました」
水野介護老人保健施設施設長の岡田さんの施設でも、スカイプというテレビ電話のアプリを使って家族と入所者が連絡を取れる工夫をしている。
「家族が映った画面を保存して、写真に印刷したものを入所者にお渡しすることもあるのですが、みなさん、その写真をお守りのように大事そうにされています」(岡田さん)
オンライン葬儀が増えくる可能性も
葬儀の現場では、参加できなかった親族や知人に見せるため、写真や動画を撮りたいと希望する参列者が増えたという。
「以前から、体が弱って歩けなかったり、遠方に住んでいて葬儀に参加できない親族のために、葬儀の様子を動画で配信する『オンライン葬儀』はありましたが、いま改めて注目されています。今後、コロナが収束しても葬儀のやり方が元に戻るとは限りません。コロナ禍の葬儀を体験した若い世代が喪主を務めるとき、いままでとは違う新たな葬儀の形ができている気がします」(小林さん)
新型コロナによって、「最期」に至る道は激変した。廣橋さんは、「コロナ時代の死に方」について考えるべきだと指摘する。
「“死”はだれにとっても縁遠いものではありません。自分が死を迎えるなら、どうありたいのかを考えておいてほしい。一瞬一瞬を大切にして、次の瞬間はないかもしれないという価値観を持つことが『コロナ時代の死に方』には欠かせないのではないでしょうか」(廣橋さん)
※女性セブン2020年7月2日号
https://josei7.com/
●人生の終い方|4000人を看取った日野原重明さんの尊厳ある生き方に学ぶこと