新型コロナで施設の“争奪戦”が加速「月々15万円」用意できるかが入居の分かれ道に
「ステイホーム」が世界の合言葉となり、「家」で過ごす時間は何倍にも増えた。家の中で、いかに快適に過ごせるかが、新型コロナウイルス流行の収束には欠かせない。しかし、60才を過ぎると、住む場所を見つけるだけで一苦労だと悲鳴が上がっている。
年を重ねれば身体的な衰えは避けられず、けがや病気を患えば、病院での治療を受けることになり、状態によっては入院が必要になる。
ただし、社会の高齢化によって医療費が増大する昨今、いつまでも入院できるわけではない。早期の退院を推奨する国は、2001年の医療制度の改正で、緊急手術や重篤な病気の処置を行う「急性期」の入院は2週間、リハビリや療養に移行する「回復期」の入院は症状に合わせて1~6か月間と区切りを設けた。
早期退院して介護老人保険施設への移動を求められることも多いが、中には受け入れてくれる施設が見つからず、自宅で生活することになるケースも。
だからといって焦っていい加減に施設を選ぶと、後悔することになるため決して慌てないことだ。
「濃厚接触」を避ける施設職員が増加
なぜ、そこまで慎重に施設を選ぶ必要があるのか。それは、施設が「万能」なわけではないからだ。70代の母を持つ富田理恵さん(仮名・47才)は、途方に暮れていると語る。
「一昨年、久々に実家へ帰ったら母に認知症のような症状が見られました。軽い物忘れ程度でしたが、ひとりで暮らすより、施設の方が安心だろうと母とも話し合い、実家を売って同じ市内にある老人ホームへ入居しました。しかし、入居後に母の認知症が悪化し、夜中に大声を出して騒ぐようになったんです。『うちでは手に負えません』と、退去を命じられ、急なことに困っています…」
認知症が進み、ほかの入居者に迷惑をかけるようになると施設から退去を求められることは珍しくない。事前にしっかりリサーチしておけば、認知症が進行しても受け入れられる施設を探すことはできただろう。
ならば、追い出された後に受け入れてくれる施設へ転居すればいいと思うかもしれないが、現実は厳しい。ただでさえ、重度の認知症患者を新規で受け入れてくれる施設が少ないことに加え、新型コロナの感染拡大は高齢者施設にも大きく影響している。全国の施設で「クラスター」が発生しており、大きな課題となっている。介護評論家の佐藤恒伯(ひさみち)さんが指摘する。
「昨年、有料老人ホーム大手の『未来設計』が倒産したことが話題になりましたが、今後は、ますます倒産する企業が増えるかもしれません。さらに、“介護職のような、濃厚接触しなければならない仕事はやりたくない”と、仕事を離れる職員が増えることも懸念されます。人手不足からさらに施設数は減り、施設の“争奪戦”が加速する可能性が高い」
せっかく入居した施設を追い出された場合、新たな施設を見つけるのは容易ではない。
クレーマー、滅多に顔を見せない家族、料金の未払い
では、追い出されないためにはどうするべきだろうか。まず覚えておきたいのは、施設の“ルール”だ。介護アドバイザーの横井孝治さんが実体験を語る。
「施設が退去を求める理由で最も多いのが、医療措置が追いつかないことです。私の父が入居していた特別養護老人ホームでは、尿道カテーテルですら、『うちでは面倒を見られない』と言われました。そのときは、担当の医師やケアマネジャーの助けを借りてなんとか乗りきりましたが、あらかじめ『心身の状態が変化する』ことを前提としておくべきです。何かあったとき施設ではどこまで対応できるのか、対応できない場合の選択肢は何か、ケアマネやスタッフと相談しておきましょう」
さらに、意外と多いというのが、入居前の申請で疾患の度合いを低く申告しているケース。一刻も早く入居したくてごまかしたことが、トラブルへと発展する。佐藤さんが話す。
「入居前の面接で『うちの母は病気は持っていません』と言い張っていたのに、実は糖尿病で、『そんなの聞いていない!』と揉めることがある。利用者の中には、一旦、施設に入ってしまえば最後まで面倒を見てくれると思っている人が多いですが、『看取り』は行っていない施設も多い。さらに、『一般的な看取りはするけれど、合併症がある場合はできません』というケースもある。下手なごまかしはせずに、入居前に正直に腹を割って話し合わなければなりません」
入居した本人ではなく、その家族が煙たがられることも少なくない。施設に何かと文句をつける「クレーマー」は、職員を疲弊させる。佐藤さんが続ける。
「私が介護施設の施設長をしていたとき、入居者とその家族の間で、“ハンドタオルの置き方”について大問題になったことがあります。入居者本人は、『ハンドタオルは居室の棚に置いてほしい』と言うのに、半年に1回しか来ない娘さんは、『ハンドタオルは流しの引き出しと決まっている』と譲らない。こういったトラブルの積み重ねで印象は悪くなります」
クレーマーになるのは、決まって、滅多に顔を見せない家族だ。頻繁に見舞いに来る家族は、現場の大変さを目の当たりにしているため、クレーマーに転じることはほとんどないという。
「こちらも人間ですから、顔を見知ったご家族に対しては、『ちょっと問題行動が増えても、○○さんのためならがんばろう』となります。施設に入居後は、信頼関係を築くことが追い出されないための必須事項です」(佐藤さん)
もってのほかだが、「料金の未払い」も退去につながる。施設に親を預けっぱなしで、やがて親の口座の残高がなくなり、3~4か月の滞納が続いて退去勧告が出されることは意外に少なくないという。
佐藤さんは、追い出された場合、新たな施設に入れるか否かの境界線は、「月々15万円用意できるか」だという。
「最低でも毎月15万円払うことができるなら、有料老人ホームを新たに見つけることができるでしょう。また、お金がなくても、要介護度が3以上なら、月々9万円程度で特養に入居することも可能です。ただし、特養は100人以上の順番待ちもザラ。追い出された後、すぐに入居できるとは思わない方がいい」
つまり、月々15万円を支払えず、要介護度が2以下の人は、在宅で介護するしかないということ。振る舞いひとつで、大きな苦労を背負うことになるかもしれない。
※女性セブン2020年5月7日・14日号
https://josei7.com/