背が縮むと老けて見える 自分で改善できる傾向と対策
老化が見た目に表れるのは、何もしわやたるみだけではない。骨や筋肉量の低下に拍車がかかり、体を支える背骨にもダメージを与えるのだ。だが、もしそのことに気づけば、年々縮む身長に今からでもストップをかけられる。意外と簡単な対処法を伝授します!
年齢とともに背が縮んでいく理由
「お母さん小さくなった?」
久々に帰省した息子にそう言われた主婦の遠藤祥子さん(57才・仮名)。鏡に映る姿を見ると、確かに──
なぜ、年齢とともに背が縮んでいくのか。『身長が2センチ縮んだら読む本』の著者で、市谷八幡クリニック院長の古賀昭義さんは、「年齢とともに体の筋肉量が落ちていくのが、大きな理由」と話す。
「加齢によって太ももの筋肉が衰えると、ひざが体重を支えきれなくなるのでひざをまっすぐにして歩けなくなり、骨盤が後ろに傾きます。するとバランスをとるために腰が曲がってしまい、背が縮んでしまうのです」
筋肉が衰え始めたサインは、日常生活の中でのふとした動きに表れている。
「椅子に座っている時に、つい手を太ももや机に置いて体を支えてしまう人は、筋力が弱っているといえます。顔を洗ったり料理をしたりする時、気づくと洗面台や台所のシンクにひじをついている人も要注意。体のバランスが崩れています」(古賀さん)
下に記載したチェックリストと併せて振り返ってみてほしい。筋力が衰えた末に、日頃から腰を曲げて過ごしていると、骨が変形してしまうという。
「背骨は『椎骨』という骨が複数つながってできていて、椎骨の間にはクッションの働きをする『椎間板』という軟骨があります。日頃から腰を曲げているとその椎間板がこすれてすり減っていき、腰が傾いて元に戻らなくなっていく。結果として背が縮んでしまうのです」(古賀さん)
腰曲がり防止におすすめの「胸郭ストレッチ」
では、腰曲がり防止に有効な対策はあるのだろうか。古賀さんがおすすめするのは、背伸びした状態で腹式呼吸をする「胸郭ストレッチ」だ。
「まず、両足のかかとを上げて、つま先で立ってください。この時、足の付け根の関節で全体重を支え、前をしっかり向くようにします。片手で椅子や机につかまって体を支えても構いません。次に、肺が大きくふくらんでいくイメージをしながら10秒かけて鼻から息を吸います。その後、20秒かけて口からゆっくり息を吐き出します。吐ききったら、かかとを一気にストンと落とします。目安はこれを1日30回。支えがなくても立てるようなら、右手を胸の前、左手を腰に当てて行ってみて。姿勢をまっすぐ保ちながら行うのがポイントです」(古賀さん)
もはや現代において必須アイテムのスマホやパソコンも、猫背や前かがみといった悪い姿勢を長時間続けることになるため、椎間板にダメージを与えると近畿大学医学部教授の伊木雅之さんは言う。
「若いうちは問題ありませんが、悪い姿勢を続けていると加齢とともに椎間板が硬くなり、伸ばそうとしても伸びなくなってしまいます。長時間同じ姿勢をとることは避けて、休憩してストレッチをするなど体を柔らかく保つことが大事です」
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)チェックリスト
□片脚立ちで靴下がはけない
□家の中でつまずいたりすべったりする
□階段を上がるのに手すりが必要である
□家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)
□2㎏程度の買い物をして持ち帰るのが困難である(1Lの牛乳パック2個程度)
□15分くらい続けて歩くことができない
□横断歩道を青信号で渡りきれない
ロコモティブシンドロームとは、骨や関節、筋肉などが衰え移動機能が低下している状態。背が低くなったように見える原因に。1つでも当てはまればロコモの心配が。(出典:ロコモチャレンジ!推進協議会 公式HP「ロコモONLINE」より)
圧迫骨折で脚が長くなる
女性の場合、骨がスカスカになる「骨粗しょう症」によって背が縮んでいることも。
「骨粗しょう症が引き起こす背骨の圧迫骨折によって、身長が縮むことがあります。骨粗しょう症で骨がもろくなると、些細な外力で椎骨がつぶれてしまう。椎骨は前側がつぶれることが多く、前側がつぶれると背骨全体が前に曲がっていきます」(伊木さん)
骨粗しょう症の患者数は全国で1300万人。約8割が女性だと推計されている。閉経に伴う女性ホルモンの減少によって骨からカルシウムが失われるため、女性の罹患者が多いのだ。
「骨粗しょう症は60代後半から増えて、70代では2人に1人がなっているとも。痛みなどの自覚症状がなく、気づかないうちに症状が進行して、転倒から骨折して初めてわかるケースも少なくありません。対策としては、なる前からの予防と自分の骨密度を知っておくことです。多くの自治体では40~70才の女性を対象に検診を実施しているので、検診を受けておきましょう」(伊木さん)
一方、「最近、脚が長くなったんじゃない?」と言われて喜んでいたら、骨粗しょう症だったという皮肉なケースもある。
「骨粗しょう症による背骨の圧迫骨折が原因で、背骨がつぶれて上半身が短くなる。それによって脚が長く見えてしまっていただけ。60、70代になって急にスタイルがよくなったと褒められたら、圧迫骨折を疑った方がいいです」(古賀さん)