午後30分の仮眠が認知症、糖尿病、高血圧を予防する!専門家が教える「最高の昼寝」
もはや現代日本の国民病ともいえる「睡眠不足」。白昼堂々、舟をこぐ人がいても責めてはいけない。なぜなら、昼寝こそ睡眠不足を解決する鍵かもしれないのだ。“成功者”たちがこぞって行う、正しい昼寝の作法とは。
「お昼ご飯を食べるとついウトウト。夜はちゃんと寝ているはずなのに…」
誰もが経験する午後の眠気だが、「夜眠れなくなるから」「なまけていると思われる」と、がまんしてはいけない。
最新の常識によれば、上手に昼寝を活用することは、仕事や家事の能率アップだけでなく、認知症や生活習慣病などの予防にもつながるという。とはいえ、コツを押さえないと逆効果だそうだ。睡眠のスペシャリストたちに、「最高の昼寝」の作法を聞いた──
午後2時から4時は必ず眠くなるもの
昼食を食べればより眠くなりやすいのは確か。ところが、たとえ食事を抜いたとしても、この時間帯に眠くなるのは当然のことなのだ。
睡眠学の権威で中部大学生命健康科学研究所特任教授の宮崎総一郎さんによると、人間は体内時計の働きで、午後2時から午後4時の間は必ず眠くなるという。
「この“眠気を感じる昼間の時間帯”に適切なやり方で昼寝をすると、頭がスッキリして、脳が活発に働くようになります。その結果、午後の活動性が高まって多くのエネルギーを消費する。その分、疲れるので、結果的に夜ぐっすり眠れるようになるのが、昼寝の最大の効果です」
アルツハイマー型認知症にかかるリスクが1/6に
10分間の昼寝は、夜の睡眠の1時間分に相当する疲労回復効果があるともいわれている。さらに、昼寝には、驚きの“効能”がある。 「30分以内の昼寝を習慣的にしている人は、昼寝をしない人に比べて、アルツハイマー型認知症にかかるリスクが6分の1になるという報告があります。高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病になりにくくなることも明らかになっています」(宮崎さん・以下同)
なぜ昼寝をすることで病気のリスクが下がるのか。
「アルツハイマー型認知症は、脳の中にアミロイドβという“ゴミ”がたまることが原因だといわれています。これは本来、眠っている間に脳から排出されるもの。しかし、睡眠が不充分だと脳にアミロイドβがたまったままになるのです」
適切な昼寝をして夜ぐっすり眠れるようになれば、アミロイドβがしっかり排出されるようになるため、認知症リスクを下げられる。
「血圧も、睡眠中は下がって朝起きる前に上がるというサイクルを繰り返しています。睡眠不足だと血圧が充分に下がりきらないまま朝を迎えることになり、高血圧の原因に。また、糖の代謝もうまくいかなくなり、血糖値が高い状態が続いて糖尿病を発症しやすくなります」
成人の適正な睡眠時間は6~8時間
年齢や体質によって個人差はあるが、成人の適正な睡眠時間は6~8時間ほどだと語るのは、『脳が突然冴えだす「瞬間」仮眠』(SB新書)の著者で雨晴(あまはらし)クリニック副院長の坪田聡(つぼたさとる)さんだ。
「睡眠不足が続くと脳が“体が危機的な状況にある”と思い込み、脂肪細胞にカロリーをため込みやすくなるため、肥満の原因になります。さらに、日中ボーッとして活動量が減るため、基礎代謝が落ちてますます太ってしまいます」(坪田さん)
糖尿病、高血圧、さらに肥満が加われば、動脈硬化を起こしやすくなり、脳卒中や心筋梗塞といった重篤な病気のリスクも高くなる。
2015年に発表された米アリゾナ大学の研究グループが1409人を対象に行った調査では、慢性不眠症患者は、年齢や体重、喫煙といったほかの危険因子を除外しても、不眠症でない人に比べて死亡リスクが58%も高かった。
適切な昼寝を取り入れれば、睡眠不足が解消され、こうした病気のリスクも軽減される。
短時間で疲労を回復。午後のパフォーマンスが向上
夜の睡眠の向上だけでなく、短時間で疲労回復できるのも、昼寝のメリットだ。
「眠気と闘いながら仕事や家事をしても、効率が上がらないばかりか、ミスや事故を呼びます。脳の中でも特に活発に働いているのが脳の表面にある『大脳皮質』で、思考や言語、創造、記憶などを司っています。眠くなるのはこの大脳皮質の働きが落ちてきた証拠。脳は使えば使うほど熱をため込むので、昼寝で脳を“クールダウン”させることが、よいパフォーマンスにつながります」(坪田さん)
15分の「合格昼寝」で難関校に合格
受験専門の心療内科・本郷赤門前クリニック院長の吉田たかよしさんは、昼寝の疲労回復効果を利用した「合格昼寝」を提唱している。
「昼食後に、大学受験生ならコーヒー、高校受験生なら紅茶、中学受験生ならほうじ茶を1杯飲んでから、昼寝をするようアドバイスしています。目的は午前中の勉強で疲れた大脳皮質の『前頭前野』の回復。15分、長くて30分以内の短時間で起きるよう指導しています」(吉田さん・以下同)
15分の「合格昼寝」で難関校に合格したケースは多い。
ある小学6年生は、受験勉強による睡眠不足が原因で、午後になると簡単な計算間違いなどのケアレスミスが増え、成績も下がるばかりだった。ところが図書館で「合格昼寝」を実践するようになると、午後でも注意力が持続するようになり、“日本一偏差値が高い”といわれる灘(なだ)中学校に見事合格したという。
「自宅浪人していたある受験生は、午後になると“落ちるんじゃないか”とイライラが募り、家庭内暴力を起こしていました。しかし、合格昼寝を実践すると、不安とイライラが解消。東大合格を果たしました」
前頭前野は、疲労やストレスの影響を最も受けやすい。午前中はしっかり働いていても、昼になると疲労がたまってきて、ストレス性の反応が出てきてしまう。
「昼寝で効果的に疲労を回復させれば、午後も前頭前野がしっかりと働くようになります。心拍変動解析によるストレス指数評価では、条件を満たした昼寝をすると、平均して38%ストレスが改善するというデータがあります」
仕事の効率を上げるために「シエスタ(昼寝)制度」を取り入れている会社もある。「ごちクル」など主に法人向けのフードデリバリー事業を手がける人気企業、スターフェスティバルだ。
社員は1日30分、好きな時に昼寝していい。東京本社にはオフィスの一角に昼寝スペースとしてベッドやマッサージチェア、ハンモック椅子がある。寝る場所は自由で、ソファや机など、思い思いの場所で休憩している。
「リフレッシュ効果が高く、業務の効率アップを実感しています。寝不足の日や体調がすぐれない時だけでなく、“これが終わったら少し寝て、集中力を回復させよう”など、心に余裕を持てます」(同社人事広報部)
「最高の昼寝」とはどんなもの?
以前から自然に昼寝を取り入れてきたのが、プロのアスリートたち。“一流の選手ほどよく寝る”といわれ、サッカー界のスーパースター、リオネル・メッシ選手やクリスティアーノ・ロナウド選手は、昼寝を含めて1日に10~12時間は睡眠を取っているという。また、フルイニング出場と連続イニング出場の世界記録を持つ元阪神タイガースの“鉄人”こと金本知憲(かねもとともあき)さんも、
「人生でいちばん幸せな時間は昼寝」
と語り、自宅には昼寝専用のための部屋を設けているそうだ。
「アスリートの中には1日90分くらい昼寝をする人もいますが、これは日々体を酷使するプロの選手だから。一般人には長すぎます」と坪田さん。
では、私たちにとって適切な、「最高の昼寝」とはどんなものなのか。
■昼寝時間は最大30分まで
「昼寝は夜の睡眠不足を補うものではなく、あくまでもリフレッシュが目的。長時間昼寝すると深い睡眠に入り、起きた時に頭が覚醒せず、かえってボーッとしてしまう。睡眠のリズムが乱れて『夜、眠れない』状態に陥る原因になります」(坪田さん)
前述のように、30分以内の昼寝は認知症予防や死亡リスクの低下につながるが、「1時間以上の昼寝」を習慣にしている人は、逆に、アルツハイマー型認知症のリスクが2倍、死亡リスクが3倍になるとの報告もある。
「若い人ほど短時間で深い眠りに入りやすいので、20~40代の人は20分以内、高齢者でも30分以内で起きるようにしましょう」(坪田さん)
寝過ごしそうな人は、アラームをかけておけば安心だ。
■午後3時までに起きておく
「夕方以降に昼寝をしてしまうと、夜の眠りに影響して、寝つきが悪くなったり、睡眠の質が低下したりします。朝の睡眠からも夜の睡眠からも遠い、午後2時から3時までの時間帯がベストです」(宮崎さん)
会社勤めの人なら、30分で昼食を済ませ、15~20分程度昼寝する、というのが理想だ。
■カフェインは寝る前に
昼寝をする前にコーヒーなどを飲んでカフェインを摂取しておくと、スッキリと目覚めることができる。
「カフェインは飲んでから30分ほどで効果が出るので、寝る直前に飲めば昼寝中には覚醒効果が働かず、ちょうど目が覚める頃に効いてきます」(坪田さん)
1杯あたりのカフェイン量はコーヒーが90mg、紅茶は半分の45mg、ほうじ茶は30mg。「合格昼寝」で昼寝前の飲み物を使い分けているのは、ここに理由があるそうだ。
「1日のカフェインの許容量は、大人の場合は男性が400mg、女性が300mg。子供は体重1㎏あたり2・5mgなので、30㎏の子なら75mg。子供にはコーヒーだとカフェイン量が多すぎるので、紅茶やほうじ茶などで摂取させます」(吉田さん)
砂糖やミルクを入れても効果は変わらない。コーヒーが苦手な人でも、紅茶やほうじ茶で代用できそうだ。
■最大の鉄則「横にならない」
「寝る=ベッドで横になる」というイメージがあるが、完全に横になって寝てしまうと、眠りが深くなり、寝覚めが悪くなる。
「一見、横になった方が疲労回復効果が高いような気がしますが、夜眠る時と同じ体勢では、深い睡眠に入ってしまう。椅子やソファに座った姿勢で背もたれに体重をかけるか、机に突っ伏す姿勢が基本。リクライニングは120度までがいい。“ウトウト”するくらいがちょうどいいのです」(坪田さん)
昼寝から起きたら、ストレッチをしたり、冷たい水で手や顔を洗ったりすると、より覚醒効果が高まる。
■忙しい人は、“1分間シャットアウト”も効果的
昼寝をする時間が取れない人は、目をつむることで脳を休ませるとよい。
「五感から得る情報のうち80%は、目から入る視覚情報です。それを1分間シャットアウトするだけでも、脳の負担をかなり減らすことができます」(坪田さん)
オフィスや電車、トイレの中など、目を閉じるだけなら場所を選ばない。
「ちょっと疲れた」「効率が悪くなった」という時に取り入れたい。休憩中についスマホを見てしまう人も、「目をつむる」ことを優先すれば、午後の時間がより充実するだろう。
●頭も体もスッキリする「最高の昼寝」のコツ
◆昼寝は昼休み中、できれば午後2~3時までの間に
◆20~40代は20分以内、50代以上は30分以内で起きる (起きられるか不安ならアラームをセット)
◆昼寝の前にカフェインを摂取
◆時計、アクセサリー、ネクタイなどは外す
◆横になって深く寝入ると、起きた時に頭がボーッとする原因に。
◆椅子の背もたれを倒して寄りかかる、机に突っ伏すなどして“熟睡しない”ように。
◆“少しウトウトする”くらいがベスト。眠る前は、仕事のことや嫌なことなどは考えず、リラックスすること。
◆起きたら軽くストレッチをしたり、冷たい水で手や顔を洗う。
◆起きてスッキリしていなかったら“眠りすぎ”。昼寝の時間を短くする。
お昼ご飯の後、眠気をがまんしながらダラダラ過ごすのでは、かえって時間がもったいないし、健康にも悪い。食べてすぐ寝ると“牛”ならぬ“優秀”になれることがわかった今、積極的に「最高の昼寝」を取り入れたいものだ。
イラスト/いばさえみ
※女性セブン2019年10月24日号
●「寝不足脳」が健康を脅かす|睡眠時間6時間未満は認知症や糖尿病リスクが激増。正しい睡眠とは