介護施設訪問レポート|全室個室のユニット型!従来のイメージを覆す特別養護老人ホーム<前編>
高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、東京都目黒区にある特別養護老人ホーム(特養)「目黒中央の家」だ。
目黒中央の家
目黒区には長らく新設の特養がなく、「目黒中央の家」が区内7か所目で実に19年ぶり。中重度の要介護者の増加が区の課題となっており、入所希望者の長期待機解消が求められていたという。旧区立第六中学校南側跡地を活用して、区が選定した事業者である社会福祉法人「奉優会」が民設民営している。
運営する奉優会は1999年に設立され、都内を中心に特別養護老人ホームやグループホーム、小規模多機能型居宅介護などを運営。地域に密着した福祉サービスを提供してきた。
目黒区で初のユニット型特養
「目黒中央の家」は目黒区内では初めてとなるユニット型特養。特養には「従来型」と「ユニット型」の2タイプあり、従来型は4人部屋など多床室となっていることが多い。一方、ユニット型は、10人前後の入居者を1つのユニットとして専任の介護スタッフがケアにあたる。ユニット型は個室なのでプライバシーが確保され、一人ひとりの状況に合わせた個別ケアがしやすいとされている。
「目黒中央の家では、1ユニットに個室が12あります。ユニットケアの理念は、暮らしの継続です。ご自宅にいる時の暮らしををそのまま継続することを目指しています」(施設長の小林健太郎さん 以下「」は同)
従来型の特養では同じ時間に一斉に食事が始まる。そして、食後の口腔ケア、排泄ケア、就寝というように、基本的には時間で区切られた生活を送る。一方、ユニットケアでは、起きる時間からそれぞれのペース。そして、起きた時間に合わせて食事を提供するなど、一人ひとりの生活リズムに合わせて、ユニット専任の職員がケアをしていくという。
「『24時間シート』に一人ひとりの生活を記録していきます。何週間かデータを取ると、起床やお食事の時間が段々分かってきますので、それを基にサービスを提供していきます。生活のリズムが分かってくると、職員が次に何をすれば良いのかが予想できるため、入居者のことを考えて、効率よく動けます」
生活リズムが分かってくると、例えば排泄のための声がけや誘導もしやすくなるそうだ。また、居室には入居者が使い慣れた家具を持ち込めるので、慣れ親しんだ自分の部屋のようにして暮らせるという。このことも自宅での暮らしを継続することにつながるそうだ。
快適な生活を送るための充実した建物・設備
特養にどのようなイメージを持っているだろうか。介護付有料老人ホームと比べて、費用は安いが長い入居順番待ち、大部屋でプライバシーが守られにくく、レクリエーションなど生活の楽しみが少ない…。もし、このようなマイナスイメージを持っていたら、「目黒中央の家」はそのようなイメージを覆すかもしれない。
この日に行われていたのは理学療法士による体操。身体機能の向上や低下の予防に効果があるという。7月に開設してからまだ日が浅いので、入居者それぞれの心身の状態を見ながら行っているという。日々の体操だけではなく、「ハーモニカ演奏会」「読書会」「ご長寿祝賀会」などレクリエーションや行事にも力を入れていて、入居者にも好評のようだ。
全室個室なので、気兼ねなく家族が訪問して一緒に時間を過ごすことができる。各ユニットにある共同生活室は自宅のキッチンとリビングの役割を果たしていて、他の入居者との交流の場にもなっているそうだ。食事の際にはここでご飯を炊いているので、食欲が刺激されるという。
機能訓練室や理美容室、機械浴など他の共用部分も充実しているので、不足ない生活が送れそうだ。
「充実しているハード面に負けないように、ケアの質を日々高めています。そのために1階の交流スペースを利用して、職員の研修にも力を入れています。個別ケアに取り組んでいくためにも、24時間シートの内容をさらに充実させていきたいですね。大切にしているのは、その人らしさを尊重することです」
いかがだっただろうか。19年ぶりに目黒区に開設され、地域の福祉拠点としても期待されている「目黒中央の家」。全室個室のユニット型で、介護付有料老人ホームと比べても遜色ないハード面。今後、特養のイメージを覆すシンボルになっていきそうだ。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
【データ】
施設名:「目黒中央の家」
公式WEBサイト:https://www.foryou.or.jp/facility/megurochuo/w121/
所在地:東京都目黒区中央町2丁目32-23
最寄駅:東急東横線「学芸大学」駅から徒歩7分
類型:特別養護老人ホーム
事業主体: 社会福祉法人奉優会
敷地面積:2,218.72平方メートル
延床面積:4,718.16平方メートル
室数:96室(ショートステイ12室含む)
入居要件:原則、要介護3以上。
ただし、要介護1・2でも、やむを得ない事情で、居宅において日常生活を営むことが困難である場合(下の「特例入所の要件」に該当する場合)には、特例的に入所が認められる。
特例入所の要件:認知症である者であって、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られる。
知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さ等が頻繁に見られる。
家族等による深刻な虐待が疑われること等により、心身の安全・安心の確保が困難な状態である。
単身世帯である、同居家族が高齢又は病弱である等により家族等による支援が期待できず、かつ、地域での介護サービスや生活支援の供給が不十分である。(目黒区ホームページより抜粋)
構造:鉄筋コンクリート造5階建
開設年月日:2019年7月1日
料金:介護保険1割負担の場合の食費・居住費・各加算など込みの1か月(30日)あたりの利用料金は以下の通り。
要介護1:12万7683円
要介護2:13万56円
要介護3:13万2642円
要介護4:13万5014円
要介護5:13万7386円
食費:4万1400円(1日あたり1,392円)
居住費:5万9100円(1日あたり2,006円)
介護保険負担割合1割の場合。一定以上の所得のある場合は、負担割合が2割、3割となる場合がある。日常生活費・理美容・クラブ活動費などは、実費がかかる。
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
●住空間のデザインにこだわり抜いている介護付有料老人ホーム<前編>