わが家の介護マニュアル作成のススメ|要望はヘルパーさんに「紙」で伝えるのが◎
盛岡在住で認知症の母を東京から遠距離で介護している工藤広伸さん。父、祖母の介護経験もある。「しれっと」がモットーで、無理のない介護を目指し、実践する工藤さんに、頑張らない介護のヒントを教えてもらうシリーズ、今回のテーマは「ヘルパーさんへの要望の伝え方」だ。
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母がお世話になったホームヘルパー(訪問介護員※)の人数は、7年で約20人。現在も週5日のペースで盛岡の家に来て頂き、母の介護をお願いしています。
ホームヘルパーには2つの役割があって、1つは要介護者の入浴や排泄の介助、ベッドから車椅子に移す移乗介助など、体に触れて行う「身体介護」。
もう1つは要介護者の家の掃除や洗濯、買い物や調理、配膳、片付け、ゴミ出し、病院の付き添いなど、身の回りの世話をしながら、日常生活をサポートする「生活援助」 です。
どちらも要介護者の習慣やルールを把握しなければなりませんし、性格を理解しながら接する必要があります。母にも独自のルールがありますし、習慣があります。
わたしはそういった工藤家のルールや要望は「口頭」ではなく、「紙」に書いてヘルパーさんに渡すようにしています。なぜ、わざわざ手間のかかる「紙」を使うのでしょう?
※訪問介護とは?
利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、訪問介護員(ホームヘルパー)が利用者の自宅を訪問し、食事・排泄・入浴などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活の支援(生活援助)をします。通院などを目的とした乗車・移送・降車の介助サービスを提供する事業所もあります。
訪問介護では、次のようなサービスを受けることはできません。
・直接利用者の援助に該当しないサービス。(例)利用者の家族のための家事や来客の対応など
・日常生活の援助の範囲を超えるサービス(例)草むしり、ペットの世話、大掃除、窓のガラス磨き、正月の準備など
(厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索 介護サービス情報公表システム」より)
母の「取り繕い」がマニュアル作成のきっかけに
母が一番利用している生活援助は、買い物です。
手足が不自由なので、ひとりでスーパーまで歩いて行けません。また、認知症なので、冷蔵庫の在庫が記憶できませんし、料理に必要な材料が分からなくなることもあります。
そのため、ヘルパーさんが冷蔵庫の中をチェックし、必要なものを母と相談しながら買い物リストを作成して、近所のスーパーで買い物をします。
すんなり買い物リストができればいいのですが、母はリスト作りがおっくうになると、
「もうちょっとしたら息子が家に来るから、買い物は息子にお願いします。だから、ヘルパーさんは、買い物に行かなくていいです」
という「取り繕い」をします。
わが家の事情を知らないヘルパーさんは、母の取り繕いを信じて、買い物をキャンセルしますし、わたしは実家へ行く予定もありません。結局、実家の冷蔵庫が空になるという事件もありました。
数人のヘルパーさんが交代で介護をしてくれていたのですが、母の言動をヘルパー全員に口頭で伝えるのが面倒になったわたしは、母の習慣やルール、言動をまとめた紙のマニュアルを作成したのです。
マニュアルは、ヘルパーさんがいつでも見られる場所に貼る
家族が要介護者の習慣や性格・特徴をまとめて紙に記載する作業は、大変かもしれません。
しかしヘルパーさんに紙に書いたマニュアルを渡せば、何度も口頭で伝える必要がなくなります。またヘルパーさん側も、何人もの利用者を抱えているため、紙で伝えてもらうと助かると言っていました。
わが家のマニュアルには、冷蔵庫にストックしておいて欲しいものや、緑内障の母の目の状態、目薬の差し方、母の言動集(言い訳や癖)などが書いてあります。
冷蔵庫にストックして欲しいものは冷蔵庫の横に貼り、ヘルパーさんがいつでも見られるようになっています。母の好きなものや、決まった銘柄以外は口にしないなど、細かく習慣を記載しています。
マニュアルがあっても、ヘルパーさんの介護には違いが出る
介護家族は、1人のヘルパーさんに要介護者の習慣や性格、家族からの要望を伝えておけば、同じ事業所に所属する他のヘルパーさん全員に情報共有されると思いがちですが、そこまでヘルパー間の連携は取れていないように思います。
もし、どのヘルパーさんにも同じような生活援助や身体介護をお願いしたいのなら、口頭ではなく紙のマニュアルを作成して、訪問介護事業所に居るサービス提供責任者に渡して、そこからヘルパーさんに伝えてもらったほうがいいでしょう。
そこまでやったとしても、ヘルパーさんが提供する介護には、違いが生まれます。それは、ヘルパーさんごとに、母と話す内容、母の好みの把握、家の気になる場所が違っているからです。
むしろ違いがあったほうが良く、わたしも知らない母の可能性を、ヘルパーさんが引き出しているようにも見えます。
「母が生きていればいいので、あとは自由にやってください」
わたしは紙のマニュアルをヘルパーさんに渡す際、1度は「口頭で」内容について、説明するようにしています。実際に家の様子を見てもらいながら伝えたほうが、さらにヘルパーさんの理解が深まります。
紙のマニュアルを用意することで、ヘルパーさんからわたしへの質問が減ります。身体介護や生活援助で疑問があれば、ヘルパーさんはまずマニュアルを読みます。
家族は希望する介護が受けられますし、ヘルパーさんにとっても効率がいいので、最初は手間ですが、マニュアルを作るメリットは大きいです。
ちなみに、マニュアルを用意したからと言って、わたしはヘルパーさんに細かく指示するタイプではありません。マニュアルの説明の際、最後にこうつけ加えます。
「母が生きていればいいので、あとは自由にやってください」
生活援助で気になることがあれば、ヘルパーさんに言いますが、それ以外は自由に訪問介護をしてもらっています。そのほうが、長年一緒に暮らした家族ですら知らない、要介護者の新しい好みや生活パターンを知ることができると思うからです。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)
●お知らせ
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