高齢者の体重減少は、怖いフレイル・サイクルの入り口かも
人生100年時代がすぐそこまで来ている今、老後の生活設計や生活の質に大きな影響を与えるのは、健康でいられるかどうかだ。日本の平均寿命は男性80.98
フレイルって何? その基準は?
とくに大きな病気やケガがなくても、高齢者が徐々に歩けなくなったり動けなくなったりするのは、加齢とともに筋力が痩せてゆき、心身の活力も低下していくことが大きな原因だ。まだ要介護状態にはなっていないが、そうなりそうな状態、それをフレイルと呼ぶ。
次の5つが「フレイル」の基準だ。この5つのうち1つでも当てはまればフレイルの前段階である「プレフレイル」、5つのうち3つ以上当てはまれば「フレイル」とされる。
(1)体重減少
1年間で体重が4.5㎏以上減っている。もちろんもともとの体重が軽い人は、減少量がもっと少なくてもフレイルにあてはまることがある。
(2)著しい疲労感の自覚
自己評価で「先月頃よりいつも以上に疲労感があるなあ」「ここひと月で弱くなったなあ」と感じている。
(3)(握力などの)低下
握力(握力計で簡単に測ることができる)がおよその目安は女性で17~18㎏未満、男性で29㎏未満。
(4)歩行速度の低下
1メートル歩くのに1.5秒以上かかっている。
(5)活動レベルの低下
これは生活活動量などを総合的に判断して評価する。
フレイル・サイクルにはまったら、やがて寝たきりに
1つでもあてはまるとなぜ怖いのか。それは、次のようなフレイル・サイクルにはまってしまいかねないからだ。
活動量が低下する→エネルギー消費量が低下する→お腹が空かなくなり食べる量が減る→体重が減り低栄養状態になる→筋肉量が低下する→活動量が減る……こうした悪循環がフレイル・サイクルだ。
筋肉や骨量はただでさえ加齢によって低下するのに、活動量の低下や低栄養状態がその減少に拍車をかけてしまうのである。その先に待っているのは、寝たきりだ。
その先に待っているのは、寝たきりだ。
「ちょっと歩くとくたびれるようになった」「体重がどんどん減っていく」「歩くのが目に見えて遅くなった」……こういう症状が自分や家族に現れたら、「年を取ったんだから仕方ない」で済まさないで、近くの医療機関を受診したり、心がけてしっかり活動量を増やしたほうがよいだろう。
動かないことは危険「不動・廃用症候群」
フレイルでなくとも、高齢者は、病気やけがで、安静状態でいなければならない場合が多くなる。そこで注意しなければならないのが不動・廃用症候群だ。これは、動かない・動かせない状態が長期間にわたって続くことで生じる2次的な障害である。
寝たきりになると、褥瘡(じょくそう)といって、ベッドや布団と接している部分が体重によって圧迫されて深い傷になることがある。床(とこ)ずれともいうが、これは不動・廃用症候群のひとつだ。
不動・廃用症候群は必ずしも老化だけがきっかけではない。たとえば骨折をしてギブスをはめていると関節が固まって動かなくなることがあるが、これも不動・廃用症候群のひとつだ。
また、飛行機のエコノミークラスの狭い座席に長時間座っていると足や下腹部の静脈に血栓ができ、この血栓が肺につまって呼吸困難やショックを起こす「エコノミークラス症候群」を起こすことがある。原因となる血栓を作ってしまう深部静脈血栓症もまた、不動・廃用症候群のひとつなのだ。ちなみにエコノミークラス症候群は、長時間同じ姿勢を取り続けて下肢がうっ血することで起こるので、エコノミークラスだけでなく、ビジネスクラスでも起こりうるし、長距離長時間運転などでも起こる。
そう考えると、高齢者はもちろんだが、若い人も十分に注意しなければならないものが、この不動・廃用症候群なのだ。
ちなみに不動・廃用症候群には、次のようなものがあるという。
関節拘縮、筋萎縮・筋力低下、褥瘡、骨萎縮・骨粗しょう症、起立性低血圧、深部静脈血栓症、尿路感染症、精神機能低下
川手先生は「人間は動くもの。動かなくなると途端に骨や筋肉が減ってきます」と言う。とくに筋肉が落ちやすいのは、足のあの部分だ。これについては「つまづく、転ぶ。それは、あそこの筋肉が衰えてきたから」で解説。
◆取材講座:「生活の中での体力づくりとは?─活動を大切に─」(昭和大学公開講座/昭和大学藤が丘病院)
取材・文/土肥元子(まなナビ編集室)
初出:まなナビ