MCI(軽度認知障害)とは?発見方法と予防策を識者が解説
年をとるにつれて物忘れも増え、「いつか私も認知症になるのでは」と不安を覚える人は多い。だが、最新の研究では、「認知症は予防できる」ことが明らかになってきた。
全国に約500万人いる認知症患者は、2025年に最大730万人に達する。2025年には65才以上の高齢者の5人に1人が認知症となる―─厚労省がそんな試算を発表して、世間に衝撃を与えた。
どんどん日本人の平均寿命は延び、誰もが認知症のリスクに直面するなか、その認知症予防の重要なカギを握るのが、「MCI(軽度認知障害)」だ。
認知症予防の第一人者で、日本認知症予防学会理事長の浦上克哉鳥取大学医学部教授が解説する。
MCIは認知症のレベルには至らないグレーゾーン
「MCIとは、記憶力や注意力といった脳の認知機能が正常より低下しているが、認知症のレベルには至っていないグレーゾーンを指します。
私たちの脳内ではさまざまな部位が結びつき、多様な『脳内ネットワーク』を形成しています。ところがMCIになると、このネットワークの結びつきが弱くなり、認知機能の低下などの各症状をもたらすと考えられています」
MCIと診断されると、12%の人が1年以内に、半数が5年以内に認知症を発症するという研究がある。
MCIとは、いわば認知症の「予備軍」なのだ。日本では65才以上の高齢者の4分の1がMCIで、計400万人いると推定されている。
テレビの企画でMCIと診断された蛭子能収氏
今なぜMCIが注目されるのか。
従来、認知症というと、遅いか早いかという差はあるものの進行を止めることはできず、悪化への「一方通行」とされてきた。しかし、MCIの段階で対策を講じることで、認知機能の低下が回復したり、認知症の発症を防げることが世界中の研究で明らかになりつつあるからだ。
MCIで早期診断できれば、まだ「後戻り」ができるというのだ。
漫画家でタレントの蛭子能収さんはある時から物忘れがひどくなり、孫や息子の嫁、マネジャーの名前が出てこず、前の日に食べた夕食が思い出せなくなった。
そんな頃にあるテレビ番組の企画で医師の診断を受けると、MCIと診断された。
MCIは老化による物忘れとの区別が難しい。蛭子さんのケースのように認知機能が低下しても、判断力や方向感覚には問題がなく、日常生活に不自由がないどころか、仕事にも大きな支障をきたさないと、なかなか気づくことができない。
さらに認知症と違い、脳の画像や血流量からは診断できないことも難点だ。
そんなMCIをどうしたら発見できるのか
「女性の場合は『料理』をする場面に注目してください。料理は複雑な作業を同時進行で行うため、『脳内ネットワーク』の衰えの影響が出やすいんです。
たとえば、いつもと味が変わってきたら、何か手順を忘れていたり、何度も同じ調味料で味付けをしていることが考えられます。また、レパートリーが減ったり、家にあるのに同じ食材を買ってきてしまったり、水を出しっぱなしにすることが多くなったりしたら、MCIが疑われます」(前出・浦上教授)
米・ニューヨーク州のイェシバ大学の研究チームは、世界17か国の「認知症ではない60才以上の男女」約2万7000人を対象に調査した。その結果、MCIの人は歩行速度が遅く、歩幅が狭くなることが明らかになった。
歩くという行為はとても単純そうに思えるが、実は「脳内ネットワーク」をフル活用している。視覚で周囲を捉え、状況を理解し、障害物がないか、地面に段差はないかなどを判断し、リズミカルに足を出すことが求められる。脳内ネットワークが衰えると、それがスムーズにいかなくなる。
1分あたりの歩行距離がおおよそ60mになると「遅い」と判定されて認知機能低下のリスクが高まり、1分あたり36mになると「明らかに異常」とされるという。
よく不動産物件の広告に使われる「徒歩○分」は、「1分あたり80m」で計算されるというから、「駅から徒歩5分」の物件に7分かかると「遅い」、12分以上だと「明らかに異常」となる。
【MCIが疑われる症状まとめ】
・料理の味つけが変わる
・料理のレパートリーが減る
・家にあるのに同じ食材を買ってくる
・調理中、水を出しっぱなしにする
・歩く速度が遅くなる
・歩幅が狭くなる
最近では、画期的なMCI検査法『MCIスクリーニング検査』がバイオベンチャー企業MCBI社によって開発された。
「検査方法は被験者から採血した7ccの血液を2週間ほどかけて分析し、80%の精度でMCI発症のリスクを判定します。一度の採血ですむので体への負担が少ないことが特徴です。50~60代の検査希望者が多く、保険適用外なので費用は2万~3万円です。現在、全国約700か所の医療施設で検査を受けることができます」(MCBI社担当者)