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《シングルマザーの決意》「先生に息子のこと理解してもらいたい」から始まった介護職の道 芸人・柏崎桃子が発達障害の息子を育てながら見つけた「やりがいしかない天職」

 高校在学中の妊娠と出産、息子の発達障害、そして24歳での離婚。シングルマザーとして過酷な状況を乗り越えながら、介護職の世界に飛び込んだお笑い芸人の柏崎桃子さん(47歳)。育児で直面した壁をきっかけに福祉の道を志した彼女は、介護の仕事について「やりがいしかない」と語る。波乱万丈の半生と介護職への思いを聞いた。【全3回の第1回】

「幸せな家庭を作りたい」18歳での出産、発達障害の息子との生活

――高校在学中に妊娠、中退後に出産をご経験された柏崎さん。当時の環境や心境はどのようなものでしたか?

柏崎さん:当時の家庭環境があまりよくなかったんです。学校では明るく振る舞っていましたが、家では心が休まらず常に緊張状態でした。早く家を出たいという気持ちが心のどこかにあったのだと思います。そんな中で子どもを授かりました。

――高校を卒業したい、というお気持ちはなかったのでしょうか。

柏崎さん:当時は美術系の高校に通っていて、将来は美術の先生など絵に関わる仕事に就きたいという夢がありました。でも妊娠を機に、出産して温かな家庭を築くという道へシフトしていきました。

――息子さんが5歳の頃、軽度の発達障害があると分かったそうですね。

柏崎さん:1歳頃から言葉の遅れに違和感を覚え、少しでも発達が促されればと早めに幼稚園に入れましたが、周りにうまくなじめない部分がありました。役所の発達相談では「様子を見ましょう」と言われるばかりです。早く療育を受けさせたい一心で息子を病院に連れて行き、5歳のときに受けた知能テストで、医師から「2歳程度の知能しかありません」と告げられたんです。

 絶望的な気持ちと同時に、原因が分かってよかったという思いもありました。状態が分かれば、この子に合った対応をしてあげられますから。それでもやはりショックは大きく、「分かってよかったね」と口にしながらも涙が止まりませんでした。まだ5歳なのに、将来自立できるのか、結婚できるのかと不安になっていました。10歳上の主人はそれほど深く考えているようには見えず、私の深刻な思いとは温度差があり、一人で抱え込んでいるような感覚になっていきました。

シングルマザーの決意と介護職への入り口「先生に息子のことを理解してもらいたい」

――その後、ご主人の借金や不倫などが原因で柏崎さんは24歳で離婚され、シングルマザーとして生きていくことになります。不安は大きかったですか?

柏崎さん:いざ一人で育てていくとなると、一番の不安はやはりお金でした。また、男の子なので父親がいることで得られる経験もたくさんあったはずです。それをこれから私が全部一人で背負ってやっていけるのか、というプレッシャーは大きかったです。

 当時は専業主婦のような状況だったので、離婚してすぐに働かなければならず、最初は友人のつてで物流関係の会社でお世話になりました。ただ、時給が750円ほどで、どれだけ仕事をしても手取りは10万円程度にとどまりました。これでは生活できないと、ステップアップを考えるようになりました。

――そこから、なぜ介護職へ進まれたのでしょうか。

柏崎さん:ちょうど子どもが小学校に入るタイミングだったのですが、学校側の理解を得られず悔しい思いをしたのがきっかけです。私は特別支援学級を希望していたのですが、「心配なことがあれば、あとから移れますから」と通常学級に入れられました。案の定、入学してすぐに先生から「お子さんがこんな感じで困っています」と言われました。そちらのすすめで通常学級に入れたのに、と学校と教育委員会に不信感を持ちました。

 それなら、私が福祉の知識を身につけて、少しでも先生たちに息子の状態を伝えて理解をしてもらいたいと思ったんです。また、祖母が夜中に大騒ぎするような激しい認知症だったこともあり、高齢者や介護について学びたいという気持ちもありました。そこで、当時一番早く資格が取れるヘルパー2級(現在の初任者研修)の講座に通い始めました。

――介護現場に飛び込むことに不安はありませんでしたか?

柏崎さん:ありませんでした。もともとお年寄りが好きでしたし、資格取得時に介護施設の実習にも行かせていただいたので、ある程度のイメージはついていました。実は実習中、認知症の方の介助に入ったときに弾みで「新人です」と言ったら、「新人なんかにやられたくねえよ!」と顔をガリッと引っ掻かれ、流血したことがありました。咄嗟に「全然大丈夫ですよ!」って笑顔で返せたんですよね。「私、この仕事やれる!」って思い、迷いなく介護の世界に入りました。

 ただ、最初はデイサービスに入職したのですが、すごくギャップがありました。介護職はほんわかしているイメージがあったのですが、現場は時間に追われてピリピリとした雰囲気。スタッフは割り切って仕事をしていて、利用者さんに対して冷たい態度をとることも少なくありませんでした。「介護が好きじゃなくてもいいけど、せめて好きなふりくらいはしたらいいのに」と、施設の空気に違和感を覚えました。

――その施設で印象に残っているエピソードを教えてください。

柏崎さん:初めて一人で排泄介助を任されたときのことです。体重が80kgくらいある大柄な男性の利用者さんで、新人にはハードルが高かった。絶対にこの人をきれいにするんだと必死で、初めてなので手袋をしていても手に排泄物がついてしまうのですが、においなんて気にならず、オムツと格闘しました。結果、利用者さんは無反応でしたし、先輩からも「時間かかりすぎ」という視線を向けられました。でも、初めて自分でやり遂げたことが1つの自信につながりました。

 けれども、施設の空気がどうしても合わなくて、その施設は2か月で辞めてしまいました。生活がかかっていたので休む間もなく今度は派遣社員として工場で働き始めたのですが、毎日機械を相手に箱詰めをするだけの作業がつまらなくて、1か月で辞めました。そのとき、やっぱり私は人と関わる介護の仕事が好きなんだと気づいたんです。

「柏崎さんがいなくなったら困る」やりがいしかない天職への道

――その後、再び介護施設を探されたのですね。

柏崎さん:はい、ハローワークに通って探しました。でも、「2か月で辞めた人」という履歴があるので、どこも雇ってくれませんでした。そんな中で、たまたま自宅近くの特別養護老人ホームとデイサービスが併設された施設が採用してくれたんです。周りからは「あそこは評判が悪いからやめといた方がいいよ」と言われたのですが、入ってみないと分からないと思い、まずは1年間、文句を言わずに続けてみようと腹を括りました。

――フルタイムで働きながら、障害のある息子さんの子育てを両立するのは大変だったのではないでしょうか。

柏崎さん:まずは学童保育を確保するのが大変でした。息子はよだれが出てしまうこともあり、いじめの原因になるから預かれないかもしれない、と最初は難色を示されました。でも「いじめがあったら対応します!」と強くお願いしました。近くに住む親にも助けてもらいながら、なんとか時間をやりくりして働きました。

 働き始めた施設では、最初はトイレ介助やお風呂の順番をうまく回せず、先輩から陰口を叩かれることもありました。でも、その施設にすごく尊敬できる主任さんがいたんです。その方は、利用者さんにもご家族にも、そしてスタッフに対しても常に真摯に向き合う人でした。新しい利用者さんが入るたびに、「こういう人が来る予定だけど、みんな対応できそう?」と現場のスタッフに確認してくれるんです。

 その主任の下で1年ほど経つと、頭の中でシミュレーションができるようになり、業務を円滑に回せるようになって自信がつきました。余裕が出てくると、利用者さん一人ひとりをしっかり見られるようになります。主任が介護計画書の作成なども手伝わせてくれたおかげで、ただのお世話ではなく、「この人の生活をどうすれば豊かにできるか」というプロの視点で介護を考えられるようになりました。

――デイサービスでのご家族との関わりも大きかったそうですね。

柏崎さん:デイサービスはご家族と接する機会が多いんです。介護に疲弊しているご家族を支えることは、私自身が障害を持つ息子を育て、専門家の先生たちに支えられてきた経験と重なりました。ご家族から「柏崎さんがいなくなったら困っちゃうよ」と言っていただけたときは、本当にうれしかったです。人から必要とされ、誰かの生活を支えることができる。この仕事には、やりがいしかありません。これからも自分らしく、笑顔を届けながら介護を続けていきたいですね。

◆芸人、介護福祉士・柏崎桃子

かしわざき・ももこ/1979年7月31日生まれ、栃木県出身。17歳で結婚し、18歳で長男を出産。シングルマザーとして軽度の発達障害がある息子を育てながら、26歳でヘルパー2級、30歳で介護福祉士の国家資格を取得。デイサービスなどの施設長を経験した後、35歳でお笑い芸人を目指し上京。テレビ番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)の出演などで注目を集める。現在も介護職と芸人として活躍しながら、講演活動やSNSを通じて介護や育児のリアルを発信し続けている。

撮影/杉原賢紀 取材・文/小山内麗香

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