「誰に喋っとんじゃ!」介護施設で劇場ルールが通じずブチギレされた レギュラーが語る介護レクの失敗と“明石家さんま流”笑いのコツ
「あるある探検隊」のリズムネタで一世を風靡したお笑いコンビ・レギュラーの西川晃啓さん(47歳)と松本康太さん(47歳)。現在、全国の介護施設を回ってお笑いライブを通じたレクリエーション活動に力を入れている2人は、2017年に「レクリエーション介護士」の資格を取得した。高齢者とのコミュニケーションにおける失敗談や、介護現場で笑いを生み出す秘訣について話を聞いた。【全3回の第2回】
「あるある探検隊」は理にかなった脳トレ。資格取得で見えたお笑いと介護のリンク
――お2人は2017年に「レクリエーション介護士」の資格を取得されましたが、きっかけは何だったのでしょうか?
松本さん:マネージャーからの提案です。ぼくらは以前から、介護施設でお笑いライブをする活動を続けていたのですが、その様子を見た資格を運営する会社の方から「レギュラーさんがやっているのは、まさにレクリエーション介護士の役割です。一度学んでみませんか」とお声がけいただいたんです。最初は「ぼくらはお笑いのプロやのに、今さら何を学ぶの?」と思いましたが、マネージャーのすすめもあり、ノウハウを聞きに行ってみようと受講を決めました。
西川さん:2週間ぐらいで資格が取れると聞いたので「じゃあ行ってみようか」と。ぼくらはすでに施設でのライブを経験していたので、今までやってきたことの「答え合わせ」ができた感覚でした。
松本さん:ぼくらが直感でやっていたお笑いの手法に、介護の世界ではちゃんとロジックや名前があったんですよ。「ぼくらが盛り上げるためにやっていたコレが『アイスブレイク』なんや」「この動きが『脳トレ』になるんや」と、頭の中で骨組みができあがりました。
――「あるある探検隊」のネタが、実は介護レクリエーションに理にかなっていると気付いたのはいつですか?
松本さん:認知症を研究されている先生と対談させていただいた時です。先生から「あるある探検隊って、めちゃくちゃ理にかなった脳トレですよ」と言われたんです。日常の「あるある」を聞いて記憶を思い出すことは、認知症ケアにおける「回想法」という手法に当てはまるそうなんです。
西川さん:さらに、手足を交互に動かしたり、右と左で違う動きをするのは「パラレルアクション」、声を出しながら体を動かすのは「デュアルタスク」になると教えていただきました。
松本さん:施設側からは「レクリエーションでは、とにかく体を動かしてほしい」とリクエストされることが多いんです。だからぼくらは、楽しいお笑いライブの中に自然とそういう動きを入れ込んでいます。「さあ、脳トレをしますよ」とは言わず、ただ笑っているだけで機能維持につながる。それが一番理想的だと思っています。
90歳の男性に激怒され尻餅。失敗から学んだ高齢者特有の「視野狭窄」
――高齢者に向けてエンタメを届ける中で、失敗談はありますか?
西川さん:やり始めた当初、ぼくが90歳の男性に本気で怒鳴られて、ショックで尻餅をついてしまったことがありました。完全にぼくの勉強不足でしたね。
松本さん:劇場のライブだと、大きめの声でおしゃべりしているお客さんがいた場合、芸人のテクニックとして、あえてその人をイジって巻き込むことがあるんです。そうすることでお客さんの視線が舞台に戻り、会場が一体になるんですね。ある施設でライブをしたとき、スタッフさんとずっとおしゃべりしている男性がいたので、西川くんがそのテクニックを使おうとしたんです。
西川さん:質問コーナーでほかの方にインタビューして回っていた流れで、そのおしゃべりしている男性のところへ行き、横から話しかけたんです。そうしたら、思いっきり顔を近づけられて「誰に喋っとんじゃコラ!」って、ものすごい剣幕で怒られてしまって。ぼくはびっくりして尻餅をつきました。
松本さん:空気がピリッとしましたが、そのまま「すいません」で終わらせたらアカンと思って、ぼくがとっさに「それは西川くん、やりすぎやわ!」ってツッコミを入れたら、周りの方が笑ってくれたんです。スタッフさんがその男性を別の場所へ誘導してくださり、なんとか笑いに変えて収めました。
――なぜそんなに怒られてしまったのでしょうか?
松本さん:そのときは理由が分からなかったんですが、後で介護の勉強をしたときに「視野狭窄」について教わったんです。年齢が上がると視界がどんどん狭くなる。だから、隣から急に話しかけられると、「わっ!」と驚いて恐怖を感じてしまうんです。
西川さん:ぼくは順番にインタビューしていて、その方の横から急に視界に入ってしまった。驚いた反射で防衛本能が働いてしまったんだと思います。
松本さん:まずは真正面に立って、目線をしっかり合わせてから話しかけるべきでした。ぼくらは劇場のルールは知っていても、介護現場のルールを分かっていなかった。失敗もしましたが、後からロジックが結びついて大きな学びになりました。
不穏な空気も笑いに変えるコミュニケーション術
――不穏な空気やハプニングを、お笑いに変えるために意識していることはありますか?
松本さん:高齢者の方には、とにかくリアクションを大げさに、分かりやすくすることを意識しています。イメージは明石家さんまさんですね。さんまさんって、音を消して映像を見ているだけでも、手を叩いて転げ回って笑っている姿から、「いまウケてるんだな」って一目で伝わるじゃないですか。耳が遠い方にも、ぼくらが楽しんでいることが視覚で伝わるように大きくリアクションしています。
西川さん:あとは、どんな状況でもこちらが引かずに笑いに変える姿勢です。ある施設で、いつもなら「一番楽しかった思い出」を聞くところを、何を思ったか逆を行こうとして「今までで一番悲しかったエピソードは何ですか?」と聞いてしまったことがあったんです。
そうしたら、ある方が「昔、家を放火されたんや」と答えて、会場がシーンと静まり返ってしまって。「やってしまった」と思いましたが、ここで引き下がったらアカンと腹をくくって、「放火!? 犯人は見つかったんですか?」と踏み込んで聞いたんです。すると「見つかった」とおっしゃるので、周りも「ああ、よかった」という空気になって。そこでやめずに、さらにぼくは「誰だったんですか?」と聞きました。
――どうなったのでしょうか?
西川さん:30秒くらい長い沈黙があって、みんなが注目する中、その方がおもむろにぼくを指さして、「お前や!」って言ったんですよ。
松本さん:あれはめちゃくちゃウケましたね。
西川さん:「えっ、ぼくですか!?」って驚くぼくに、「やったんか、相方!」って松本くんが返して、大爆笑になりました。時系列的にあり得ないんですけど(笑い)。その方もボケてくれてテンションが上がり、会場全体が盛り上がりました。
松本さん:認知症で何度も同じことを言ってしまう方にも、人間関係ができていれば楽しくツッコむことができます。毎日接しているご家族だと、つい強く言ってしまいがちですが、そこをユーモアを交えて「ま、確かにね」と受け流す。ぼくらのやり取りを見て、介護をされているご家族やスタッフの方々が、後で笑い話として誰かに話せるようなレクリエーションになればいいなと思ってやっています。
◆お笑いコンビ・レギュラー
西川晃啓(にしかわ・あきひろ)/1979年8月11日、京都府生まれ。松本康太(まつもと・こうた)/1979年5月16日、京都府生まれ。1998年にコンビを結成。「あるある探検隊」のリズムネタで大ブレイクし、バラエティ番組などで活躍。2014年より全国の介護施設への慰問活動を本格的に開始し、2017年にコンビ揃って「レクリエーション介護士」の資格を取得。現在は介護施設でのお笑いライブのほか、介護に関する講演会やイベントにも多数出演。笑いを取り入れた独自のレクリエーション活動を精力的に行っている。
撮影/TOYO 取材・文/小山内麗香
