《仕事激減で直面した危機》レギュラー「このままやったら生きていけへん」から“介護芸人”へ 自立支援と笑いの新しいカタチ
「あるある探検隊」のネタで一世を風靡したお笑いコンビ・レギュラーの西川晃啓さん(47歳)と松本康太さん(47歳)。ブームが落ち着き、仕事が激減した時期に、先輩芸人の誘いで訪れた介護施設での経験が2人の運命を変えた。2014年に『介護職員初任者研修』を修了し、現在は『介護レクリエーション』のスペシャリストとして全国の施設を回っている。そんな2人に、介護の世界へ飛び込んだいきさつと、お笑いとの両立について聞いた。【全3回の第1回】
「このままやったら生きていけへん」仕事ゼロからの転機は先輩のボランティア活動
――「あるある探検隊」で大ブレイクしたお2人が、介護の道に目を向けたきっかけを教えてください。
松本さん:ブームが落ち着いて、仕事が全然なくなった時期があったんです。当時、周りのキャラ芸人たちも「このままやったら生きていけへん」と、空いている時間を使っていろんな資格を取り始めていました。例えば、髭男爵のひぐち君ならワインエキスパート、ムーディ勝山ならマイクロバスなどを運転できる中型免許といった感じで、お笑いとは別の何かを探していた時期でした。
ぼくたちも何かできることはないかと考えていたときに、お世話になっていた次長課長の河本準一さんに声をかけていただいたのが始まりです。河本さんはご自身の地元である岡山県で、毎月ボランティアとして老人ホームや児童養護施設、障害者施設などを回る活動をされていました。「まっちゃん、手伝ってくれへんか」と誘われて、最初は岡山県でおいしいものを食べて遊びに行くぐらいの軽い感覚でついて行ったんです。
――そのときは、西川さんもご一緒だったのですか?
西川さん:ぼくは行っていないです。松本くんと河本さんだけでした。
松本さん:施設では、河本さんが鼻で吹く笛を使って「イントロ当てクイズ」をやったり、お話ししながらボケたりして場を盛り上げていました。ぼくも紹介されて、あるある探検隊のネタをやったのですが、そのときはウケた手応えがなくて。帰りの新幹線の中で、「ご飯や交通費まで出していただいたのに、お力になれずすみません」と河本さんに謝ったんです。
すると河本さんが、「何言ってんの。あるある探検隊のときに、皆さん手拍子してたやん」と。「今日行ったところは介護度が高い施設で、ベッドで寝たきりの方もいた。その方がリズムを取っていたって、すごいことやで。あるある探検隊は聞き心地もいいしリズムもあるから、仕事がないんやったら福祉の勉強をしてみたら?」と言ってくれたんです。
「介護のネタはイメージが悪い」相方の猛反対を乗り越え、2人で資格取得へ
――そこから本格的に介護の勉強を始めたのですね。
松本さん:いや、西川くんに相談したら「嫌や」って即答されました(笑い)。
西川さん:だって、ぼくらのネタの中に「ジジイかババアか、わからない」っていうフレーズがあるんですよ。そんなネタをやっている人間が福祉をやるって、世間から見たらイメージがよくないんじゃないかと思ったんです。それに、勉強が嫌で芸人になったのに、なんで今さら勉強せなあかんねん、という気持ちもありました。
松本さん:それでぼく1人で勉強しに行きますと河本さんに伝えたら、「いやいや、あかん。1人だけに仕事が入ると、コンビとしての活動ができなくなるから、やるなら西川くんを説得して2人でしなさい」と言われまして。最終的には、河本さんの言葉もあって、西川くんを口説き落としました。
――2014年に「介護職員初任者研修」の資格を取得されています。お顔が知られているなかでの学校通いはいかがでしたか?
松本さん:4回以上休んだり遅刻したりすると資格が取得できない厳しいルールだったんです。芸人の稼ぎどきである夏休みと講習の時期がかぶっていたんですが、それでも当時のマネージャーに「2か月間、スケジュールを空けてほしい」と頼みました。そうしたら、「大丈夫です。2か月間で仕事が1つしかないですから」と言われて(笑い)。千葉県勝田台にある施設で受講したのですが、福祉業界の方々は本当にウェルカムで「介護現場にはお笑いが足りないんです」と温かく迎えてくれました。
西川さん:ただ、勉強自体は本当に大変でした。座学はもちろん、車いすへの移乗や服の着脱、車いすを押して歩く実習などがあって。何十年ぶりかの勉強で、毎日朝から夕方まで授業を受けて、家に帰って復習して……。嫌々ながらも「何かやっておかなあかん」という焦りがあったから、なんとか食らいついていきました。相方が「勉強が苦手や」と言うので、ぼくが噛み砕いて教えたりもして、2人で行ったからこそ受かったんだと思います。
「何でもしてあげるのが介護ではない」自立支援の理念と、お笑いへの好影響
――資格取得の過程で、介護に対するイメージは変わりましたか?
松本さん:1回目の授業から衝撃を受けました。それまでぼくは、高齢者の方がいたら優先席を譲ったり、とにかく手助けしたりするのが介護だと思っていたんです。でも講師の方から「それは介護じゃない。介護の理念は『自立支援』です」と教わりました。過度な手助けをしてしまうと、逆に筋力や能力が低下してしまう。本人の持っている力を引き出し、促すことこそが本当の介護なんだと知って、目から鱗が落ちる思いでした。
――当初、西川さんが懸念されていた「お笑いへの影響」についてはどうですか?
西川さん:最初のうちは、「介護はデリケートなテーマやから、お笑いにできひん」と松本くんに言っていました。認知症や車いすの方をいじったり、笑いに変えたりするのは不謹慎なんじゃないかと。
松本さん:でも現場に出てみると、施設のスタッフさんから「そこを笑いに変えてください」と言われるんです。例えば、認知症の方がクイズで同じ答えを繰り返したとき、「違いますよ」と否定するのではなく、「さっきもそれ言いましたやん!」とツッコミを入れて笑いに変えたほうが、そのかたも救われる。「もっと楽しくしてください」と背中を押してもらい、お笑いとの線引きが分かってきました。
西川さん:介護の現場を経験したことで、芸人としての精神的な安定にもつながりましたね。
松本さん:高齢者の方は、楽しんでいても表情や声に出にくいことがあるんです。昔は舞台でリアクションがないと「スベってる!」と焦って心が折れていましたが、今は「こんなに笑ったの初めてです」と喜んでいただける。人それぞれ楽しみかたが違うと分かったので、ほかの現場で反応が薄くてもどっしりと構えられるようになりました。現場の人たちが応援してくださることが、今のぼくたちの大きな自信になっています。
◆お笑いコンビ・レギュラー
西川晃啓(にしかわ・あきひろ)/1979年8月11日、京都府生まれ。松本康太(まつもと・こうた)/1979年5月16日、京都府生まれ。1998年にコンビを結成。「あるある探検隊」のリズムネタで大ブレイクし、バラエティ番組などで活躍。2014年より全国の介護施設への慰問活動を本格的に開始し、2017年にコンビ揃って「レクリエーション介護士」の資格を取得。現在は介護施設でのお笑いライブのほか、介護に関する講演会やイベントにも多数出演。笑いを取り入れた独自のレクリエーション活動を精力的に行っている。
撮影/TOYO 取材・文/小山内麗香
