【高血圧、糖尿、コレステロール】生活習慣病の治療薬の減薬・断薬メソッド「医師の指導の元、段階的に」【医師解説】
医者は薬の始め方は教えても、やめ方は教えない。それが仕事だからであろう。だが薬を減らす、やめる方法は確実に存在する。生活習慣病に関する減薬・断薬メソッドに精通する医師が指導する。
教えてくれた人
谷本哲也さん/ナビタスクリニック川崎院長・PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)で審査専門員を務めた経験がある
石原藤樹さん/北品川藤クリニック院長・著書に『誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方』
戸田佳孝さん/整形外科医・戸田整形外科リウマチ科クリニック院長
減薬・断薬は段階的に「量」を減らす
「多くの人が服用する高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病の治療薬には依存性があるわけではない。しかし、そもそも根本治療の薬ではないため、自然にやめ時が訪れるわけではありません。一度薬を処方されると、延々と服用が続くといった事態に陥りがちです」
そう話すのは、医薬品の承認審査や市販後の安全情報の収集などを行なう厚生労働省所管のPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)で審査専門員を務めた経験があるナビタスクリニック川崎の谷本哲也院長だ。
長期服用の背景には日本特有の事情もあると谷本医師は続ける。
「日本は先進諸外国に比べて医療費や薬代の患者負担が軽めで、医療にアクセスしやすいため“医師に言われた通りに薬を飲んでいれば安心”という意識が働きがちです。
また薬を減らすための生活習慣指導や食事指導は時間がかかる割に保険点数が十分とは言えない。制度上、短時間診療が前提のため薬を処方するほうがスムーズに進んでしまう現状があるのです」
北品川藤クリニック院長で、『誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方』の著書がある石原藤樹医師も言う。
「生活習慣病の治療では、薬の追加・変更に関する指針はあっても、減薬ややめ方の指針などはありません。減薬や断薬をするには、薬による治療を続けながら、食事や運動などで生活習慣を改善することが大前提です」
ただし、“自己流”は禁物だ。
「生活習慣病の薬を急に中止すると、数値が急激に上昇するリバウンドのリスクがあります。薬をやめたいと思ったら、必ず主治医の指導のもと経過を観察し、時間をかけて段階的に減薬するようにしてください」(同前)
高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の治療薬について、石原医師の推奨する「減らし方」「やめ方」を解説した。
共通するのは、投薬治療で『基準値を一定期間以上維持』してから減薬を検討し始める点だ。
「例えば高血圧の治療薬を減らすには、適正な数値を3か月以上維持できてから主治医への相談が可能になります。そのうえで減塩や運動などの生活習慣の改善を続け、第一選択薬とされるカルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬のうち1種類だけの服用に変更し、経過を観察するようにします」(同前)
薬を1種類に減らして1か月の経過観察を行ない、数値が安定していたら、次の段階に移る。
「1か月以上かけて、1回分の薬の量を段階的に『最少用量』まで減らします。その後、最少用量で3か月以上、数値が維持できれば、断薬を検討できるでしょう」(同前)
ただし、例外もある。
「自己免疫疾患の1型糖尿病や、遺伝性疾患の家族性高コレステロール血症は減薬検討の対象外です。また、2型糖尿病でもインスリン分泌が非常に少なく、どうしても注射が必要なケースもあります。脂質異常症治療薬を心筋梗塞や脳梗塞などの『再発予防』で服用する場合も、減薬の例外であることを付け加えておきます」(同前)
減薬・断薬で悩んだら主治医に相談を
主治医に減薬や断薬を相談したい時にはどうすればよいか。「いきなり『薬をやめたい』と言うより、『薬の量を減らすにはどうすればいいか』と尋ねるのがベター。『生活習慣の改善を条件に減らしましょう』と取り組んでくれる医師が多いはずです」(石原医師)
相談しても医師が対応してくれないなどの場合はセカンドオピニオンを求めるのも一手だという。
【1】まずは医師に相談。「量を減らす、やめるにはどうすればよいか」聞く
多剤併用について問題意識を持つ医師は少なくない。迷ったら気後れせず相談。
【2】自身の判断で薬を「やめる」「量を減らす」は命とり
特に生活習慣病は、患者個別の状態で処方が異なる。安易な素人判断をしない。
【3】「痛みが和らぐ」「なんとなく安心」で薬に頼る習慣は危険
鎮痛薬や胃薬の服用で「楽になった」と安心しない。根本的な原因を見逃す可能性あり。
生活習慣病治療薬の減らし方&やめ方
【重要】各治療薬を「やめる」検討は、減薬メソッド【1】で“目安”の値を3か月間維持してからでOK!
※生活習慣病の表は各学会のガイドラインや日本医師会の手引き、『治療薬ハンドブック』『日経メディカル処方薬事典』などを参考にし、石原藤樹医師への取材をもとに本誌作成。
「降圧剤」の減薬検討の目安
診察室血圧:上/130mmHg未満、下/80mmHg未満を3か月以上維持
家庭血圧:上/125mmHg未満、下/75mmHg未満を3か月以上維持
※主治医への相談が必須。減塩や適度な運動など生活習慣を改善し通院を続けることが前提。
「降圧剤」の減薬メソッド【1】(使用薬が1種類の場合)
第一選択薬(カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬)のいずれか1種類を服用している場合は「1か月以上かけて」段階的に1回分の量を最少用量に減らす。
「降圧剤」の減薬メソッド【2】(2種類の薬を併用の場合)
第一選択薬+「β遮断薬」「サイアザイド系利尿薬」などを併用している場合、まずは第一選択薬のいずれか1種類にする。血圧の値に気を付け1か月間経過観察後、減薬メソッド【1】を行なう。
「糖尿病治療薬」の減薬検討の目安
HbA1c「6.0~8.0%未満」を3か月以上維持(年齢等により異なる)
※主治医への相談が必須。年齢や罹病期間、臓器障害の有無を考慮し、慎重な判断を。
「糖尿病治療薬」の減薬メソッド【1】(使用薬が1種類の場合)
第一、第二選択薬(ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬)のいずれか1種類を服用している場合は「1か月以上」かけて段階的に1回分の量を最少用量に減らす。
「糖尿病治療薬」の減薬メソッド【2】(複数の薬を併用の場合)
第一、第二選択薬+「SU薬」「グリニド系薬」「α-グルコシダーゼ阻害薬」などを併用している場合、2種類なら併用薬をやめて、3種類なら2か月以上かけて第一、第二選択薬のいずれか1種類にする。1か月間経過観察後、減薬メソッド【1】を行なう。
「糖尿病治療薬」の減薬メソッド【3】(注射薬の場合)
1回分の量を「3か月以上」かけて最少用量に減らし、1~2種類の飲み薬に変更。3か月間経過観察後、減薬メソッド【1】か【2】を行なう。
「コレステロール薬」の減薬検討の目安
非喫煙者など低リスクの人:LDLコレステロール160mg/dL未満を3か月以上維持
喫煙・高血圧のリスクがある人:LDLコレステロール140mg/dL未満を3か月以上維持
※主治医への相談が必須。減薬した後も、体重管理や適度な運動に留意。通院も続ける。
「コレステロール薬」の減薬メソッド【1】(使用薬が1種類の場合)
第一選択薬(スタチン系)1種類を服用している場合は「1か月以上かけて」段階的に1回分の量を最少用量に減らす。
「コレステロール薬」の減薬メソッド【2】(2種類の薬を併用の場合)
第一選択薬(スタチン系)以外の薬をやめて減薬メソッド【1】を行なう。
痛み止めに頼りすぎない
整形外科で処方され、肩や腰、ひざの「痛みが和らぐ」「ラクになる」からと常用しがちな鎮痛薬なども、減薬・断薬を考える対象だ。
整形外科医の戸田佳孝さん(戸田整形外科リウマチ科クリニック院長)は、患部に貼る「湿布薬」について重大な注意点があるという。
「消炎鎮痛成分入りの湿布薬は、同じ場所に連続して貼ると深刻な皮膚トラブルを起こすことがある。また、複数枚を長時間貼り続けることで、皮膚から吸収された成分が血液に入り、全身に副作用を及ぼすことがあります。実際に自己判断で貼りすぎて胃潰瘍を起こした症例が報告されていますが、これは消炎鎮痛成分が血液中に過剰に増え、胃の粘膜を守る働きまで抑え込まれたことが原因と考えられます」
患部に貼るだけの湿布薬は使いやすい利点があるが、「内臓疾患の持病がある人は、痛い箇所がたくさんあっても湿布は1日1、2枚にとどめるべき」(同前)という。
坐骨神経痛による慢性的なしびれや神経痛がある場合などに処方される神経障害性疼痛の薬にも注意が必要だ。
「神経が圧迫されたり傷ついたりして生じるビリビリ、ジンジンといった独特の痛みを抑える薬ですが、特に高齢者が漫然と飲み続けると危険です。脳の神経活動を抑える作用により強い眠気やふらつきが生じやすいため、転倒・骨折のリスクが非常に高まります」
神経痛が長期にわたると痛みを感じる脳の回路が過敏になり、弱い刺激でも痛みを強く感じることがあるという。
「慢性痛対策では痛み止めの薬に頼る習慣をまず最初に見直し、心療内科を受診するなどして認知行動療法などを取り入れ、『痛みの捉え方』を変えたり、痛みを誘発する行動パターンを避けるなど、生活習慣の見直しのほうが大切だと考えます」(同前)
※週刊ポスト2026年7月10日
●日本初「薬やめる科」外来の断薬専門医が教える降圧剤のやめ方・減らし方
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