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介護現場におけるハラスメントの実態を専門家が考察「約半数が身体的攻撃を経験」というデータも|「ハラスメントを生まない組織作りに向けて語られたこと【シンポジウム・レポート】

「介護現場のハラスメント問題は深刻化していると感じます」と、この問題に20年以上取り組んできた介護ジャーナリストで介護福祉士の小山朝子さんは語る。自身が企画プロデュースを務めたシンポジウムで明かされた実態とは?介護現場で起きているハラスメントの課題や対策について、登壇者の声から考察する。

この記事を執筆した専門家

小山朝子さん/介護ジャーナリスト/洋画家の祖母を10年に渡って在宅介護した経験から、執筆や講演、番組への出演など多方面で活躍。介護福祉士の資格も持つ。著書『介護というお仕事』(講談社)のほか、2023年に発売した『ひとり暮らしでも大丈夫! 自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)はロングセラーに。今夏、新刊『介護じょうずは逃げじょうず 重圧からあなたを解放してくれる選択肢(仮題)』を同社から発売予定。

介護現場のハラスメントにまつわるシンポジウム

 任意団体『ケア現場の想いを繋ぐ会』が主催するシンポジウム「女性介護職の実体験から考える介護現場におけるセクシャルハラスメント』(一般財団法人上野千鶴子基金助成事業)が開催された。

 20年近くこの問題を追う筆者が企画・司会を務め、現場の介護福祉士、職能団体役員、経営者らが登壇。その実態や発生背景、職員を孤立させない組織的対応策について具体的な報告がなされた。その内容をレポートする。

介護現場のハラスメント「約半数が経験あり」

 最初は公益社団法人日本介護福祉士会副会長の淺野幸子さんが登壇し、同会が2022年度に実施した「介護現場におけるハラスメントの実態と対応策に関する調査」をもとに報告した。

 厚生労働省のマニュアルに準拠し、利用者や家族からの身体的・精神的暴力、セクシャルハラスメントを総称して「介護現場におけるハラスメント」と定義した上で、現場でのハラスメント経験率は身体的攻撃が約50%、精神的攻撃が約60%、セクシャルハラスメントが約30%で、多くの介護職が日常的に被害に直面している現状を数字で可視化した。

 淺野さんは、身体的・精神的攻撃に比べ、セクシャルハラスメントは「相談割合が数字上低い」という特徴を指摘。背景には、介護現場の7割を女性が占める一方で、管理職は男性が多いというジェンダーバランスの偏りがあり、「相談窓口等の体制が整っていても実際に相談できるかどうかは別である」という課題も浮き彫りになった。

 2026年10月からはカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化が予定されており、「介護の専門性向上」と「組織的なハラスメント対策」を車の両輪として進める重要性を強調した。

 さらに、職能団体による相談窓口の設置や、契約時の重要事項説明書へのハラスメント禁止事項の明記など、行政とも連携しながら取り組んでいきたいという姿勢を示した。

「ヘルパーなんか」と介護職を見下す発言も

 続いて、ライターであり重度訪問介護従事者研修講師・介護福祉士として35年に及ぶ現場経験を持つ白崎朝子さんが、「『記憶』と向き合うケアの深層 ―ハラスメントの背景にあるトラウマの連鎖」をテーマに、独自の視点から報告した。

 白崎さんがこれまで介護現場で働いてきた中で、利用者が抱えるトラウマに起因するとみられる性暴力や発言、排泄介助時における不適切な性的言動、実際に起きた実例を交えながら介護現場の実態を語った。また、ご自身も利用者や職員からのハラスメントによって、大量の嘔吐や喘息発作などの身体症状を患い、何度も転職を余儀なくされた経験を明かす。

 白崎さんは、被害に遭いやすい介護職の傾向として、「他者とのバウンダリー(境界線)が弱く、複雑性PTSD(長期なトラウマ体験によって引き起こされる複雑な心の状態)などの特性を抱えていることも要因のひとつと考えられる」と分析する。一方、加害者側にも家庭内暴力の連鎖などの背景を持つケースがあるのではないかという。

 また、言葉による暴力も問題視されている。有名大学を出ている施設長に向かって「こんなところでこんなことしてないで、ちゃんとしたところに就職しなさいよ」と発言した利用者もいたという。

「介護という仕事の社会的認知を上げない限りハラスメントはなくならない」と訴えた。

職員間に生じる理不尽な分断、ユニットケアの閉鎖性

 主催団体の代表を務め、現在は特別養護老人ホームに勤務する池田みずきさんは、「『支える仕事」の中で孤立するということ ―なぜ現場は『被害者」を一人にさせてしまうのか』というテーマで実体験も交えて語った。

 被害職員が現場で孤立していく背景には、環境の閉鎖性だけでなく、職員間の感情のすれ違いや組織の対応が生む二次被害があると告発した。

 特定の職員にセクハラ被害が集中した際、周囲の職員から「可愛がられている」といった誤解や嫉妬が生まれ、ハラスメントを受ける職員と受けない職員の間に軋轢(あつれき)が発生、職員間に理不尽な分断が生じたという。

 さらに、少人数の固定型でケアを行う「ユニットケア」という閉鎖的な空間が、この問題を外から見えにくくさせている一面もある。職員数が限られているなか、他の職員への交代を求めることすら困難な現場の実情を打ち明けた。

 加えて、解決に向けて上司から求められる記録や申し送りによる言語化がその時の恐怖や不快感を追体験させ、やがて夢にまで出てくるようになったと当時を振り返る。

 問題が組織全体で共有されず、「個人の出来事」として処理され続けた結果、過去に複数の退職者を出してしまった実例を挙げ、閉ざされた環境の中に問題を埋もれさせない仕組みづくりの必要性を訴えた。

「防ぐ対策」からの脱却ーーハラスメントを生まない組織づくりの本質

 最後に、有限会社あい代表取締役で介護福祉士の三友愛さんが登壇した。

 三友さんは経営者かつ介護職として、「啓発活動を行う前に、まず私たち自身でできることがもっとあるのではないか」と疑問を呈した。

 三友さんの事業所では、「プロとしての適切な距離感」の維持を徹底している。介護現場で散見される「ため口」や「家族同然の関係」は、親しさではなく「馴れ馴れしさ」であり、対等なビジネスのバランスを崩す原因となると指摘した。

 その上で、万が一発生した際の具体的な組織的バックアップとして以下の2点を職員に明言し、安心の土台を築いている。

【1】毅然とした態度での拒絶:不快な言動には冷静に拒絶の意思を伝える

【2】途中退室の権利と会社の保護責任:暴力行為、酷い暴言、セクハラがあった場合は、業務途中であってもサービスを中断して帰宅してよい。その後の顧客への対応は会社が責任を持って対応する。

 三友さんは、社員や入社前の面接に来た人材を大切にしていると強調した。報告の中の「人間は大切にされたら大切にしようと思う」という明快な発言が、介護現場のセクシャルハラスメント対策の根幹を物語っているようで印象に残った。

 組織がまず職員を尊厳ある存在として大切に守り、それによって満たされた職員がプロとしての誇りを持って利用者に接するという「尊厳の好循環」が生まれることを期待したい。

シンポジウムで感じたこと【まとめ】

 長年、この問題を追ってきた筆者の目から見ても、本シンポジウムで語られた内容は、介護現場におけるセクシャルハラスメントが「職員と利用者の相性の問題」や「一部の悪質な利用者に限定された問題」といった表面的な次元にとどまるものではなく、さまざま要因が幾層にもなり多面的な視点から考察するべき課題であることを改めて突きつけるものであった。

 介護という労働に対する社会的な軽視や、「そのくらい受け流すべき」という自己犠牲の強要、周囲の沈黙、転じて被害者が「自分が悪いのではないか」という感情の麻痺を強いられる「感情の搾取」という、構造的な人権侵害が生じている。

 同時に、三友さんが指摘したように、利用者を「加害者」として捉える啓発活動のあり方自体にも立ち止まる必要がある。現場側の意識改革として「専門性の向上」や「プロとしての適切な距離感の維持」の徹底、さらに組織が職員を孤立させずに全面的に守る姿勢を明確に打ち出し、契約時の重要事項説明書への明記など、行政や社会全体を巻き込んだ実効性のある「尊厳を担保する仕組み」が求められる。

「介護職だから仕方ない」という諦めの風潮を打破し、ケアに関わるすべての人の尊厳が守られる環境を築くことが今後の介護現場の持続可能性を支える道ではないだろうか。

撮影/中村まみこ

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