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《介護中に悪性リンパ腫に》新田恵利の夫が明かす闘病中に向き合った「母親の最期」 遺品整理で苦戦した400着の着物と毛皮の“意外な行方”

 自分の病気と、親の死後の現実が同時に押し寄せる――タレント・新田恵利さんの夫である長山雅之さんは悪性リンパ腫の治療中に母を亡くし、看取りと同時に複雑な手続きにも追われた。見えない借金への不安、遺品整理や墓の問題。二つの看取りを経験した夫婦が見たのは、老後と死後に待ち受ける「もう一つの現実」だった。ライターの末並俊司氏がレポートする。【前後編の後編】

 * * *
 実母・和榮さんの体調が不安定になりはじめたころに、長山さんに悪性リンパ腫が見つかった。体調の異変をきっかけに検査を受けたところ、それが発見され、すぐに治療が始まった。病を受け止めるだけでも精いっぱいだ。

 治療は身体的な負担だけでなく、先の見通しをも不透明にした。自分はどうなるのか、どこまで回復できるのか。見えない不安を抱えながら日々を過ごすなかで、今度は母の容体が悪化していく。自分のことすらコントロールできない状況で、親の最期にも向き合わなければならない。時間も、気力も、余裕も足りない。

「正直、自分のことで精いっぱいでした。がんが見つかって、その中で母のことも考えなきゃいけない。あれはきつかったですね」(長山さん)

 新田さんは当時をこう振り返る。

「実母のときは見送ることに集中できました。でも義母のときは、夫の身体のこともあって、気持ちが追いつかないまま判断と手続きが続いていく感じでした」

 さらに浮き彫りになったのが、制度とお金の問題だった。新田さんが続ける。

「夫にリンパ腫が見つかったのが2023年です。その2年ほど前に私は母を看取っています。母は国民年金でした。支給額はほんのちょっとです。だから私は毎月じゅうぶんな生活費を渡し、管理は本人に任せていました。でもその結果、介護保険料が滞納されていたことが後になって発覚したんです」

 40歳になれば、介護保険料を支払う義務が生じる。これを払っておくことで、原則65歳以上で介護が必要になった場合、各種介護保険サービスを1〜3割の負担で利用することができる。

「介護保険の仕組みは母にも説明していたのだけど、渡したお金が日々のやりくりに紛れてしまっていて、介護保険料を払っていなかったんです。過去に遡って納付することでようやく利用が可能になったのですが、焦りましたよ」(新田さん)

 この経験から新田さんは、用途が決まっている費用は本人任せにせず、家族が直接管理する必要があると痛感したという。長山さんの実母の場合は、また違った金銭問題が発覚した。

見えない借金の恐怖

「母は銀座で商売をしていた女です。あの世界は横のつながりが太い。お金の貸し借りもあったでしょう。金融機関からの借金であれば、通帳などを見ればわかるのですが、個人間での貸し借りまではわかりません。もしかしたら大きな借金を抱えている可能性も考えました」(長山さん)

 放射線治療で体力が落ち込んでいる長山さんだったが、「それでも法律に詳しい友人に聞いたり、ネットで検索したり、手続きの方法を必死に調べました」。そして、大手新聞や官報に、和榮さんとのお金の貸し借りがある人は一定期間内に申し出ることを求める公告を出した。

「幸い申し出てくる人はいませんでしたが、母はなにせ豪快な人でしたから、すごい額の借金をしている可能性も否定できない。もうドキドキでしたよ」(長山さん)

ちょっと期待してたのに……

 死後の遺品整理でも、二人の母の違いははっきりしていた。新田さんの実母が晩年に残したのは、衣類、布団、洗剤といった生活用品が中心だったが、長山さんの実母・和榮さんの遺品はまったく違っていた。

「何しろ銀座のクラブのママですからね。着物だけでも300着〜400着とかありました。でも着物って、今は本当に値段がつかないんです。100点持っていって1万円くらい、そんな世界。大島紬みたいなものがあっても、驚くほど安い。毛皮も大変でした。昔は高級品だったんでしょうけど、今は着る人もいないし、そもそも絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制したワシントン条約以前のものですから売るに売れない。結局ほぼ全てを処分しました」(長山さん)

 新田さんが「あはは」と笑いながら「あとは高級バッグと宝石類ね」と続ける。

「バッグでいうとエルメスのバーキンとかケリーとか、ほんとにたくさん持ってたんですよ。宝石もかなりあったみたい。生前は“私が死んだら全部あんたのものよ”って言ってたんですけど、実際にはまーったく残ってませんでした。とにかく豪快な人だから、家を訪ねてくるお友だちにどんどんプレゼントしてたみたい。ちょっと期待してたんですけどねぇ(笑)」

 長山さんも「母らしいですよ」と笑う。

「良くも悪くも、ため込む人じゃなかった。そういう生き方だったんだと思います」(長山さん)

 墓についても、その性格が出ていた。

墓を持たないという選択 

「和榮ママは、生前から”私が死んだら骨は海に撒いてね”って言ってました。私たち夫婦には子どもがいないから、お墓があっても今後それを管理する人がいません。だから、長山家の代々のお墓は墓仕舞いをして、和榮ママのお骨はちょこっとだけ残っていた遺産を使って、ハワイまで行って、海に散骨しました」(新田さん)

 新田さんの実母・ひで子さんの方は、ちょっと複雑だ。

「父と母は再婚同士です。父は先妻と同じ墓に入っていて、母は宗派の違いもあってそこには入れないと言われていました。母自身も入りたくないと言っていたので、結局、今は兄が遺骨を預かっています。だから、うちはいわゆる“自家墓”がないんです。でも、それでいいと思っています。

私は昔から、お墓に入りたいと思ったことがないんですよね。樹木葬という言葉が広まる前から、死んだら“自然に帰りたい”という感覚がありました。山桜の下に還りたい、みたいなね。形より、どう還るかの方が大事なんだと思っているんです」

 二人の母の老い方は対照的だった。でも、話を聞き終えて残った印象はそう遠くなかった。老後とは、何を残すかではなく、最後まで何を手放さずに生きるかを問われる時間だ。

◆取材・文/末並俊司

すえなみ・しゅんじ)/1968年、福岡県生まれ。介護ジャーナリスト。2006年からライターとして活動。両親の在宅介護を機に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を取得。介護・福祉分野を専門に取材を続ける。著書『マイホーム山谷』は小学館ノンフィクション大賞を受賞。

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