「転んだ夫を心配したら怒鳴られた」嘆く妻に毒蝮三太夫が教えた男心と対処法|「マムちゃんの毒入り相談室」第82回
長年連れ添った夫婦でも、すべて「以心伝心」でわかり合えるわけではない。言葉を出し惜しんでいると、誤解や疑心暗鬼を招くことになる。転んだと聞いて心配する妻を「うるさい!」と怒鳴りつける夫は、何にイラついているのか。マムシさんは「あなたが一枚上手をいったほうがいい」と諭しつつ、言葉にして伝える大切さを説く。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「足腰が弱ってきた夫。機嫌を損ねず運動をさせるには?」
いやいや、オレも3月31日で、ついに90歳だよ。卒寿ってヤツだ。人生100年の時代だし、120歳まで元気に生きるつもりだから、単なる通過点だけどな。ハハハ。まあ、いろんな時代をくぐり抜けて、今も元気で過ごしていられるのは、本当にありがたいことだ。
関東でも桜が咲き始めたな。花見もたくさんしたけど、今でも強烈に覚えているのは、若い頃に立川談志と上野公園に行ったときのことかな。西郷さんの近くの石段で、ホームレスのおっちゃんたちが輪になって酒盛りをしてる。「おっ、盛り上がってるね」なんて言ったら、「お前らもここに来て飲め」って招かれて、茶碗に入れた酒を出された。
せっかくだから飲んだら、「うまいだろ。これはブレンドの特級酒だ」って言うんだよ。横を見ると、銘柄の違う酒の瓶が5,6本転がってる。瓶の底に残ってたのを混ぜちゃったんだな。たしかにオツな味だった。談志といっしょに輪に入って、しばらく大笑いしながら飲んだよ。あれは面白かったなあ。
さて今回は、足腰が弱ってきた年上の夫を心配する64歳の女性からの相談だ。
「73歳の夫のことで相談です。先日、夫が家で転びました。私が留守のあいだの出来事だったので、どういう状況だったのかはわかりません。帰宅すると夫が足を引きずっているので、どうしたのか聞いたところ、一言『転んだ』と。
びっくりして、頭は打たなかったのか、どこで転んだのか、いつなのかなど矢継ぎ早に聞いたら、『うるさい! 大丈夫だ。ほっといてくれ!』と怒鳴られました。幸い、その後も大事には至らなかったのですが、その日を境に、私は、夫の足腰が弱っていることが気になり、このまま寝たきりにでもなったらどうしようと心配でたまらなくなりました。
夫は、運動が大嫌い。散歩に誘ってもまったく動きません。スーパーへの買い物や外食などでなんとか連れだそうとしていますが、それだけでは、ますます弱ってしまいそうです。夫の機嫌を損ねず、うまく体を動かすように促す方法はないでしょうか? 夫は頑固で人づきあいも苦手です。とほほ」
回答:「ダンナはいじけてるな。ここはあなたが一枚上手を行こう」
えーっと、ダンナは9つ上か。心配だよな。でも、怒り出したダンナの気持ちも少しわかる。もちろん聞きたくなるのは当然で、あなたには何の非もない。ただ、70代になって足腰が衰えたんじゃないかって、自分でも不安なんだよ。自覚もあるかもしれない。つつかれたくない痛いところをつついちゃったわけだ。
人間、不安なときは疑心暗鬼になりがちだけど、それもあるんじゃないかな。あなたにいろいろ聞かれて、素直に「心配してくれてありがたいな」と受け取れずに、「どうせ、オレが倒れたら面倒だと思ってるんだろう」なんて、ひねくれた解釈をしちゃったりね。
たしかに、夫に倒れられたら妻はたいへんだ。だけど、そんなことよりも「夫にいつまでも元気でいてほしい」「まだまだいっしょに楽しく暮らしたい」という気持ちのほうが、はるかに強いはずだ。それなのにダンナはすっかりいじけてるから、あなたのやさしさや愛情を受け止められないんだよな。
以前から言ってるんだけど、歳を取ったら避けたほうがいい「3つの“いじ”」がある。それは「いじけない」「意地を張らない」「いじめない」だ。ダンナはいじけてて、しかも意地を張ってるから、奥さんの言葉も悪く解釈しちゃうし、もっと運動したほうがいいという現実からも目をそらしちゃうんだよね。
ここは、あなたが一枚上手を行ったほうがいい。まずは「もしかしたらあなたは、夫が倒れたら手がかかるって、私が自分の心配してると思ってるかもしれないけど、そうじゃないのよ」とダンナの疑いを先回りして伝える。その上で「そうじゃなくて、ずっと元気でいてほしいし、まだまだふたりで楽しく暮らしたいから言ってるのよ」と話してみよう。
日本では「言わぬが花」とか「以心伝心」とか、口にしないことを美徳とする考え方がある。だけど、そんなのは幻想だよ。たとえ長く連れ添った夫婦でも、言葉にしないと本当の気持ちなんて伝わりっこない。言葉を使えるのは人間だけなんだから、ごちゃごちゃ言い訳しながら言葉を出し惜しんでないで、ちゃんと言葉で伝えようじゃないか。「言うが花」だよ。
ただ、運動が大嫌いで頑固なダンナがどうやったら体を動かすようになるかは、なかなかの難問だ。やっぱり言葉の力を利用するのが効果的だろうね。「あなた、やるわねー」とか「見直したわ」とか、おだてたりすかしたりすればダンナも頑張るんじゃないかな。
しかし、あらためて読むと、こりゃノロケの一種だな。今はダンナがいじけてケンカみたいになってるけど、とっても仲がよさそうだから、きっとすぐにいい関係に戻れるよ。ダンナをおだてて少しずつ運動させながら、いつまでも楽しく幸せに暮らしてくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。89歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。最新刊は玉袋筋太郎と熱く語り合った対談集『愛し、愛され。』(KADOKAWA)。毒蝮の「毒」と玉袋の「粋」が熱く融合し、混迷の時代を生きる私たちに勇気と希望を与えてくれる。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。