【高齢者のおせち料理の楽しみ方】飲み込む力や噛む力が衰えた高齢者が食べてはいけないNG食材は?食べ方のポイントを管理栄養士が指南
おせち料理は、家族で一年の始まりを祝う大切な食事。だからこそ、家族で楽しく食卓を囲みたいもの。しかし、おせち料理は特別な食材を使っているものが多いうえ、久しぶりに会う親や施設から一時帰宅した際に、食べるときには注意が必要だ。そこで、管理栄養士の川鍋仁美さんに、食べる際の注意点や、声かけなどを教えてもらった。
少しの油断が事故につながる
おせち料理は年始には欠かせない伝統食だが、高齢者にとっては誤嚥や窒息、塩分過多といった健康リスクを招く心配がある。
「施設から一時帰宅したり、年末年始に帰宅したりして、久しぶりに合う親御さんは、嚥下の状態が変化しているかもしれません。また、食べられる量を正確に把握できていないこともあるでしょう。
高齢者ご本人は自分の嚥下能力を過信しやすく、家族も“このくらいなら大丈夫”と油断しがちなんです。
お互いの過信が重なると、誤嚥や窒息のリスクが高まります」と、川鍋さん(以下同)は指摘する。
「特におせちは、見た目が柔らかそうでも実際には噛みにくいものが多いので、食品の固さや大きさには必ず気を配ってほしいです」と強調する。
また、おせちは味付けが濃いものが多く、お雑煮などの汁物も加わることで「知らないうちに塩分過多になりやすいという。
保管方法にも注意が必要だ。
「一度箸をつけたものは常温で置いておくと菌が繁殖しやすいので危険。必ず冷蔵庫で保管するようにしましょう」
食材別・おせち料理の注意ポイント
「大きさ、かたさ、味付けの観点から考えると、嚥下機能が落ちた高齢者にとって、おせち料理は積極的におすすめできるものではないんですが、日本人ならではの季節を感じる特別な食事なので、食べるときには注意が必要です。大きさや、かたさ、味付けなど少し工夫することでグッと食べやすくなります」
おせちの食材別に解説してもらった。
■筑前煮(お煮しめ):にんじんや里芋などを柔らかく煮て食べやすい大きさにカットして提供を。
■伊達巻:柔らかくて食べやすいが、口の中でぽろぽろとばらけやすいので誤嚥に注意。小さく切って、とろみあんをかけると食べやすくなる。市販のものは糖分が多いのも気になる点。手作りする際は、甘さを控えめに。
■魚の幽庵焼き:骨を取り除いてほぐした状態であれば食べやすい。ほぐすと口の中でばらけやすいので、とろみあんをかけると食べやすくなる。
■栗きんとん:裏ごしして滑らかな状態のものを少しずつ食べる。喉に詰まったり口の中で貼り付いたりしやすいので要注意。糖分過多にも注意が必要。
■茶碗蒸し:高齢者に食べやすいと思われがちな茶碗蒸しだが、卵液など柔らかいものと具材(固形物)が混ざっているものは、飲み込みにくく、誤嚥しやすいので注意。具材の数を少なめにして、小さく刻んだり柔らかく煮たものを選ぶこと。
■黒豆:皮までやわらかく煮たものが理想。豆の粒は誤嚥のリスクが高い。軽くつぶしたり、ペースト状にしたりするとより安心。
誤嚥が不安な人はNG!避けた方がよい食材4選
■噛みにくいもの
昆布巻き、たたきごぼう、煮物(特にタケノコ・しいたけ)など/繊維質でかたく、小さく切っても噛みにくいため避けた方が安心
■弾力のある食材
えび、たこ、いか、貝類の煮物、かまぼこ、こんにゃく/弾力の強い食材は噛み切りにくく、誤嚥しやすい
■塩味が強く消化しにくいもの
数の子/味が濃く、消化しにくい
■酸味が強いもの
なます/酸味が強いとむせやすくなり誤嚥しやすい
噛む力が弱い人でも工夫次第で食べられる
「飲み込む力に問題がないかたであれば、煮る時間を長くしたり、隠し包丁、繊維を断ち切るなど調理の工夫を。
食べる前には、食べやすい大きさにカットするといいでしょう。
高齢者向けの市販のおせち料理を活用したり、あらかじめ柔らかく調理された食材を上手に取り入れて作る方法もあります」
食べる時は側で見守り、声かけを
「食べ慣れないものを食べるときは、できるだけ一人にせず、側で見守るようにしてください。
「『少し熱いよ』『ちょっと硬いかも』『汁物を飲んで口を潤してね』など、ちょっとした声かけで誤嚥を防ぐ対策ができますし、本人に安心感も生まれます」
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おせち料理は、家族で一年の始まりを祝う大切な食卓。 だからこそ、ほんの少しの気配りと工夫が、シニア世代にとって安心で楽しい時間につながる。
食べる量や食材の選び方、声かけなどを意識しながら、無理なく、安全に。家族みんなが笑顔で迎えられる、穏やかなお正月を過ごせますように。
