倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.99「森永さんとなぎさんのこと」
漫画家の倉田真由美さんは、一昨年夫の叶井俊太郎さんが旅立ち、そして今年、親しい人を2人立て続けに失ってしまった。がんにより逝去された森永卓郎さん(享年67)、自宅で帰らぬ人となった遠野なぎこさん(享年45)だ。亡くなった人のことを想い、発信し続ける理由とは。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』が発売中。
森永卓郎さん、遠野なぎこさんを失って
2025年がもうすぐ終わります。
2024年には夫を亡くしましたが、今年25年には私にとって特別な存在だった経済評論家の森永卓郎さん、女優の遠野なぎこさんの2人を失ってしまいました。
大事な人、親しい人、心を通わせることができる人というのは、それほど多くありません。少なくとも私はそうです。そして失ったからと代わりの人が現れるわけでもありません。失ってしまったら最後、失ったままです。
森永さん、なぎさん。
2人について思うことはそれぞれ違うけど、どちらにも同じように後悔していることが一つあります。
それは、「もっと会っておけばよかった」ということ。
夫の場合、最期のその時まで一緒にいられたから、二人に感じるような後悔はありません。「旅行にはいっぱい行ったけど、もっともっといろんなところに行けばよかった」「日常とは違う姿をもっとたくさん見ておけばよかった」という思いはありますが、過ごした時間の長さに悔いはないです。
でも、森永さん、そしてなぎさんとは、会う時間が足りなかったと感じます。
森永さんとは、仕事で毎週顔を合わせていた時期がありましたが、プライベートで会ったのは6年ほど前、女友だちと3人で行った居酒屋での食事会だけです。普段森永さんが話さない、森永さんの過去のエピソードなど聞けてとても楽しい時間でした。「また行きましょう」と約束していたのに、実現しないままになってしまいました。
そして、なぎさん。なぎさんには、「もっと会って、もっと話していれば、なぎさんの何かが変わっただろうか」と何度も自問しました。
でも、いつも「変わらなかっただろう」という答えにたどり着きます。摂食障害というなぎさんの病気、なぎさん自身を変えることは私にはできなかった、これは何度考えても変わらない結論です。でもなぎさんの想いや考えていること、気持ちをもっとたくさん受け止めることはできたはずで、そこには後悔が残っています。
亡き夫のことを書き続ける理由
私が今でも夫のことを書くのは、夫の考えていたこと、好きなもの、面白かったり笑えたり感動したりのさまざまなエピソードなど、夫が私にだけ遺したいろいろをこの世界に残しておくため。私が死んだら私と一緒になくなってしまうものを、私の外に出しておくためです。
なぎさんに関しても、もっとなぎさんを知って、なぎさんという正直で誠実でユニークな女性のことを私自身に刻みたかったという思いがあります。
昨年も今年も、「過去に戻れたら」と何度も何度も夢想しました。
もう一度会いたい。でも絶対に叶わない。
何度会っても結局足りないんだけど、でも1度より2度、2度より3度…と多くあっていればそれだけ思い出は増えます。
大事な人とは、用事がなくても会っておく。
「会おうね」という約束はなるべく速やかに実行する。
いつ何があるか分からないのだから、そしていなくなってしまった人は戻らないのだから、「今度でいいか」は封印していこう。強くそう思わされた一年でした。
