「電子レンジが1万円以下」にのけぞって驚いた林家ペーさん(83歳) “時代が止まったまま”の高齢者の生活を支えることの課題 元マネジャーは「支援する人がいたら火事はなかったんじゃ…」
自宅マンションが火事になった林家ペー・パー子夫妻。ペーさんは83歳と高齢であるにもかかわらず、“現役”で活動を続けていることにも改めて注目が集まった。だが、生活の方は何かと課題が多いようだ。元マネジャーで現在の2人を支えるオバ記者ことライターの野原広子氏(68歳)が考える「高齢者の生活」──。
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83歳とは思えないペーさんだが…
「林家ペー、パー子自宅火事!」から1か月。3か月前、25年ぶりに再会をして40歳のときの私の写真を受け取った時は、こんなことになるとはゆめゆめ思わなかったわよ。あのとき私は自分の変化にぼう然としたっけ。25年の歳月は私の体重を10kg以上増やしていたの。ぺーさんも会うなり「あれぇ、こんなに大きい人だっけ?」としげしげと眺めていたっけ。
その2か月後、「ぺーさん宅、火事!」の一報を受けて以来、さまざまな用事で三日にあげず会っている。会うたびにさまざまなことを考えさせられるよね。
先に結論を言うと、ぺーさんは歩く速さ、頭の回転の速さ、髪の毛の多さ、舞台での立ち姿まで並の83歳とはかけ離れている。たしかにお顔のほうは中年期をやや過ぎた感じはあるけど、私生活でもピンクずくめのせいか、「おじいちゃん」というイメージはない。まぁ、ひと言で言えば“不思議な人”よ。
「電子レンジは1万円」にのけぞった
でも、その“不思議な人”も、ああ、この人にも歳月は流れたんだなと思うことがあるの。たとえばぺーさん宅には電子レンジがない。「なんで? ないと不便でしょ?」と聞くと「だって高いじゃない」と言うんだわ。これまで使っていたのは「マツコさんがくれたのよ」という。ならその前、自分で最後に買ったのはいつだったか。
「高いといってもオーブン機能付きの電子レンジでケーキ焼いたりしないでしょ? なら2万円で買えるよ」と、いつの間にかタメ語になったと私が言うと「えっ! うそっ!」と大声でのけぞるんだわ。
「いやいや、ぺーさん。あっためるだけなら1万円以下でもあるよ」と言うと「いや〜、驚いたね〜」だって。
聞けばぺーさんの電子レンジの価格イメージは20万円くらいなんだよね。たしかに1980年代はそのくらいしたと思う。そこで固定しちゃったんだな、とこちらが理解するまでけっこうな時間がかかっている。かと思えば「洗濯機もないけどこれはいらないね。近所に自動で洗ってくれるところがあって、もう、一度にいっぱい洗えて便利、便利」と言う。コインランドリーと言う言葉は出てこないけれど、ご近所の支援者から教えていただいたそうな。
生活面でいえば、私も他人事じゃないと思うこともあるの。今回、火事の原因ではないかと疑われている電気コードなんだけどね。私の場合、けっこうな頻度で引っ越しをしているから、そのたびに電気コードは長い、短いが出てきて買い替えているけど、ぺーさんは25年、同じマンションに住んでいる。25年前の電気コードをそのまんま使っていたっておかしくない。
もし、ぺーさんの家の中に入って「これ、そろそろヤバいんじゃないの?」と言ったりして支援してくれる人がいたら、今回の火事はなかったんじゃないか。そんなことを思わずにいられないんだわ。
電子レンジだって最新式のに替えて、高齢者が生活に便利なものをそっと提案する。子供が近くに住んでいたらやってもらっていることだろうけど、私も含めてそうでない高齢者が山ほどいる。
高齢者特有の「愛着心」が邪魔に
しかし問題はここからよ。閉ざされた高齢者の家に誰が出入りするの? うちだって最後に人を引き入れてから半年、いや、もっと経つか。そうなんだよね。高齢者の特徴は「昨日のことのよう」と本人は思っているけど、現実の暦は昨日どころか去年どころか、ヘタしたら10年、20年経っていたりする。このギャップが歳と共に大きくなっていくんだわ。
さらに厄介なのが高齢者特有の愛着心の強さで、これが生活の利便性より何倍も大事だったりする。ぺーさんだって「マツコさんからもらった」という電子レンジを何年使っていたかは知らないけれど、動いているうちは使ったんじゃないかしら。ヘタしたら動かなくなっても新たな電子レンジの横に置いて飾っていたかもね。耐用年数? そんなの書いてあったところでどうせ細かい字でしょ。わざわざ見ないって。
ここ10年、街を歩いても電車に乗っても、ぺーさんじゃないけどビンシャンと現役で働いている高齢者が当たり前にいるんだよね。そういう私もライターのほかに議員会館でアルバイトをして、最近ではぺーさんから「ジェネラルマネージャー」とかおだてられて、テレビ局の対応から営業の付き人まで。あまりの忙しさに「歳をとるひまもないわ」と人にはこぼしているけどいやいやいや。部屋の中はかなりのことになっていて、夜中にトイレに起きたときに蹴つまずいたりしている。この間は、鍋をかけて原稿を書いていたら、焦げていることに気づかなくて、ひゃーっという思いもしている。68歳のひとり暮らし、いつ、何が起きてもおかしくないない。
それをどうケアするか、誰にケアしてもらうか。こういうプチ介護が必要なアラカン、アラコキ人はこれからますます増えていくよね。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。2021年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。実母の介護も経験している。
