倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.92「元気なうちに話しておきたいこと」
漫画家の倉田真由美さんは、最新著『夫が『家で死ぬ』と決めた日 「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』の発売記念イベントに登壇した。在宅緩和ケア医・萬田緑平さんとの対談形式で行われたイベントを通じて、改めて考えたこと、確信したことがあるという。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』ほか、著書多数。
対談トークイベントの話
先日、こちらのコラムをまとめた単行本のトークイベントを東京・下北沢の『本屋B&B』で行いました。
対談形式で、お相手は在宅緩和ケア医の萬田緑平さん。萬田さんは、今年の8月から世界一周の船旅に出ており、現在も船上の人です。対談には、アフリカ辺りの海の上からオンラインで出ていただきました。実はイベント開始が19時半からだったんですが、萬田先生と直前まで連絡が取れず、開始2、3分前というギリギリでつながったというちょっとハラハラする場面もありました。
来場いただいた方たちの数は多くありませんでしたが、広すぎない会場で一人一人の顔を見ながらお話できたのは、私にとってとても充実した時間でした。誰かと同じ空間で、同じテーマで思考を巡らせるのは得難い体験でもあります。「自宅で死ぬという決断」という一見重いテーマでも、萬田さんやお客さんとそれぞれ分かち合うことで、最後まで笑顔で過ごせました。
これって、トークイベントという特殊な形じゃなくても、同じことが言える気がします。
「死ぬ時のこと」
私たちは普段あまり、「死ぬ時のこと」について真剣に考えたり人と話したりしません。歳を重ねると「病気」や「身体の不調」について友人知人と語り合うことは増えますが、「死」についてまではなかなか、夫のように余命を宣告されたりといった特別な事情がなければ話題の俎上に上らないものです。
でも、元気な時ほど「死ぬ時のこと」を考え、人と話したり自分の考えをまとめたりするべきなんじゃないかと最近は感じています。私たちは「死」をタブー扱いしすぎていて、いざその段になると不本意な終わり方をしてしまうケースが多いんじゃないでしょうか。実際、「自宅で死にたい」という人は過半数を超えるのに、それが叶う人は2割以下です。
夫の死を真横で見たことで、私も自分自身の「死ぬ時のこと」がぐっと身近になりました。まだまだ先かもしれないし、案外すぐかもしれないし、それは誰にも分からないけど、いつか必ず来ることだけは確か。元気な、判断能力もしっかりしている今のうちに、「死ぬ時のこと」を想像しています。
たとえば夫のように余命宣告をされる病気になったら。
突然の事故や病気で意識不明になり、延命措置をしなければ死ぬという状況に陥ったら。
そうなった時、どうするか。自分だけでも考えますが、家族や友だちに話すことで新しく見えてくることもあります。タブーとして忌避するよりも、言葉にしてまとめて、心のどこかにしまっておくんです。いつでも上書きしたり変心することもできるのだし、何もない状態でその時を迎えるよりいいことがいっぱいあるはずです。
誰もが絶対に避けられないことなのだから、真正面から向き合ってある種の覚悟をしておくこと、五十路を越えた私には少なくとも悪くないことだと確信しています。
撮影/五十嵐美弥