倉田真由美さん「遠野なぎこさんの摂食障害のこと」「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.85
7月17日に本人のブログで訃報が報告された遠野なぎこさん(享年45)。倉田真由美さんは、彼女を「なぎさん」と呼び、10年来の友人だった。摂食障害を抱えていた遠野さんを倉田さんは気にかけていたのだが――。プライベートで会ったときの様子を振り返る。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新著『抗がん剤を使わなかった夫』(古書みつけ)が発売中。
なぎさんの摂食障害のこと
なぎさん、遠野なぎこさんとの付き合いは10年以上になりますが、プライベートで一番会ったのは去年、2024年です。
夫を亡くした私と、摂食障害を患ったなぎさん。お互いの心細さをお互いが気遣って、会う機会が増えていたような気がします。
なぎさんの摂食障害は深刻でした。
以前は健啖家で「よく食べ、とてつもなく飲む」という印象でしたが、病気になってから食事はほんの少し、すべて合わせても小さなお茶碗半分にも満たないくらいの量しか食べられませんでした。お酒はいつも何杯かおかわりはしていましたが、やはり以前ほどの量は飲めません。とはいえお酒でも少しはカロリーの摂取になるだろう、と彼女のおかわりの声を聞くと私は密かに喜んでいました。
なぎさんは、いや、なぎさんに限らず摂食障害に悩む人の多くはそうなのかもしれませんが、「もっと食べなきゃ」と言われるのをとても嫌がりました。それが分かっていたから私は彼女が食べるものについて、絶対に口を出しませんでした。
だからなぎさんも安心して私と会えていたんだと思います。彼女が少ししか食べないことを「そういうもの」として受け入れ、干渉しないことは、なぎさんと付き合うための必要条件でした。
マッチングアプリで…
彼女とは好きなことや趣味などは違うのに、話は合いました。
彼女が最後の猫を飼う前、マッチングアプリで男性と会うことにハマっていた時期がありました。
「ねえ、この人どう思います?」
飲み会帰り、電車の中でスマホを見せられたことがありました。画面には若いイケメンの姿。
「これから池袋で会うことになったんです」
「これから?」
「そう。さっきマッチングしたので」
一時期、なぎさんはマッチングアプリでたくさんの男性と出会いを重ねていました。食事の後トイレに行くと言ってそのまま食い逃げされた話などを話してくれて、二人で怒りながら笑ったのを覚えています。
この頃、なぎさん自身は多くの男性と会うことを「遊び」と割り切っていると話していたし、事実ほとんどそういう出会いだったようですが、どこかにずっと続く本気で付き合える相手を探したいという想いはあったように感じました。そしてそれは私も願っていました。
本気の彼氏ができたら、なぎさんの状態が改善するかもしれない。
なぎさんには言わなかったけど、私はずっとそう思っていました。
摂食障害という病気は、認知能力すら変えてしまいます。病気を自覚し、「体重を増やしたい」と言いながら、どこかでまだ太りたくないと思ってしまっていることは、一緒にいると様々な場面で伝わってきます。痩せている自分を、どこかで気に入っている自分がいるんです。
私は、なぎさんとの関係を壊したくありませんでした。
なぎさんに嫌われ、遠ざけられるのが嫌で、摂食障害という難病を抱えるなぎさんに踏み込んでいけなかったという自覚があります。
でも、彼氏ならそれができるんじゃないか。
彼女が嫌がってもそばにいて彼女の生活を支え、少しずつでも変えていけるんじゃないか。
それは自分の生活の大部分を捧げるほどの覚悟と実行力が必要なはずで、私にはできないことでした。なぎさんのことを本気で愛してくれる彼氏なら、そこまで踏み込めるんじゃないかと思っていました。(次回につづく)