《義母介護中の絶望》荒木由美子が語る「亡くなる確率は90%以上のがん」の疑いがあると診断を受けた経験 生き地獄の日々の末に訪れた“奇跡”と死の覚悟から学んだ「後悔しない生き方」
20年間におよぶ義母の介護の最中、医師から「亡くなる確率は90%以上」というがんの疑いがあると診断を受けたタレントの荒木由美子さん(65歳)。その後の意外な顛末と、一度は死を覚悟したからこそ見えた心の変化、また介護の準備について語る。
介護は1人で抱え込まずに、誰かに相談すること
――介護生活を振り返って、思うことを教えてください。
荒木さん:皆さんは大学を卒業してからの20年間って、社会人として成長する時期ですよね。私はその期間、育児や介護を通して成長 したと思います。母が86歳で亡くまでの 20年間、老いていくこと、生き抜くこと、死んでいくことを、その姿を通して教わりました。認知症の現実も知りました。
今振り返っても、その20年に後悔はありません。義母の体を拭き、おむつを替え、施設に入っても行ける限り面会に行きました。 湯原さんは仕事はもちろんのこと、私の心の支えになってくれましたから、私は介護・家事・育児も頑張ることが出来ました。
ただ、介護をしている間は話し相手が欲しかったですね。もっと早く、誰かに相談しておけばよかったとは思います。今は地域包括支援センターなど相談する場所はいくらでもあるので、お住いの地域にどんな介護サービスや施設があるのか、お金はいくらかかるのかを調べて、現実を知っておくのは重要だと思います。お金が必要なら準備する。インフレでどんどん値が上がるので、多めに用意できるといいですね。
施設を選ぶ際には、本人が元気なうちに見学に行けるといいですよね。 事前に連絡をすれば、見学が可能な場合もあります。 施設選びは自宅から 近い施設がいい人もいれば、知り合いから離れた遠くの施設がいい人もいる。選び方もさまざまです。
「亡くなる可能性は90%以上」というがん疑惑の衝撃
――義母の介護中、荒木さんご自身ががんの告知を受けたんですよね。
荒木さん:義母が亡くなる2年ほど前です。義母が入院しているので、私は1週間ほどの予定入院で直腸付近の手術をすることにしたんです。それは何の心配もしていなかったのですが、手術中に腸壁の内部にほくろのようなものを見つけたようで、先生たちが慌ただしくなったんです。局部麻酔だったので術中の様子がわかったんですね。
翌朝、夫の湯原(昌幸)さんが院長先生から呼び出されて、「奥様は悪性黒色腫にかかっている疑いがあります。その場合、亡くなる 可能性は90%以上です」と告げられたそうです。その話を聞いてから湯原さんが私の病室に来た時に真っ青な顔をしていたので、重大なことがあったのだと察しました。
1週間後に退院すると、紹介された別の病院の専門医に説明を受けました。人工肛門の手術を受けなければならないと知り、「どうせ助からないのなら、受けたくありません」と私は伝えました。その時、先生は「少しでも延命できるかもしれません」と煮え切らない様子でした。
それもそのはずで、医師の中でも「黒色腫ではないかもしれない」という意見もあり、医師チームでも意見が半々だったんです。結局、日本で数少ない専門医である群馬大学の教授に判断してもらうことになりました。
いつ死んでも後悔しないように、今を大切に生きている
――それから連絡が来るまでに、1か月ほどかかったそうですね。
荒木さん:祈るしかありませんから、毎日、生き地獄のようでした。泣いてしまうのを息子や義母に悟られないように隠していました。それまで義母の認知症の心配ばかりしていたので、自分が死ぬなんて考えてもいませんでした。息子ためにももっと生きたい、あれもしたかった、これもしたかったという思いが溢れました。
しばらくして「良性」だという検査の結果が出ました。手術をしなくていい、死なずに済んだという喜びで、高校から帰ってきた息子に思わず抱きつきました。がん告知について隠していましたから、この時に全て息子に打ち明けると、「子供扱いしないで、何でも話してくれよ」と言ってくれたのも、頼もしくて嬉しかったですね。
経過を見るということで、1年後に検査に来てくださいと言われたんですけど、「1年後でいいの?」と思いました。覚悟をしているつもりでも怖いじゃないですか。ほくろみたいなものがもっと増えていたならば確実に黒色腫だし、リンパに流れていたらもう駄目だってことでした。それで恐る恐る1年後に検査に行くと、ほくろみたいなものがなくなっていたんですよ。先生もびっくりしていました。
世の中には奇跡ってあるんですよね。がんがなくなっていたとか、小さくなってたとか。私にも奇跡が起き、与えられたものが今後あるんだなって思ったんです 。それに、一度は死ぬ覚悟をしたわけですから、いつ死んでも後悔しないように、今を感謝しながら大切に生きようと心がけています。
◆タレント・荒木由美子
あらき・ゆみこ/1960年1月25日、佐賀県生まれ。1976年、第1回ホリプロタレントスカウトキャラバンにて審査員特別賞を受賞し、芸能界デビュー。歌手・女優として活躍。1983年に歌手の湯原昌幸と結婚し、芸能界を引退。結婚2週間後に倒れた義母を約20年介護。2004年、その体験を綴った著書『覚悟の介護』出版を機に芸能界復帰。現在はテレビやラジオへの出演のほか、介護や家族にまつわる講演も行っている。
撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香