《40歳以上の82.5%が排尿トラブル抱える》泌尿器科の専門医が解説するセルフチェックリスト&「老化が原因」となる仕組み
日本排尿機能学会による2023年の調査によると、40歳以上の82.5%が排尿トラブルを抱えている。とくに、頻尿や尿もれは命にかかわる症状ではないため、病院へ行くほどではないと考えている人も多いだろう。一方で、常にトイレがある場所を気にしたり、長時間の移動を控えるようになったりと、生活の質に影響してくることも多く、泌尿器科の専門医・高橋悟さんは「ほうっておいてはいけない」と語る。そこで、『頻尿・尿もれ 自力でできるリセット法』(アスコム)の著者でもある高橋さんに話を聞いた。
教えてくれた人
日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野主任教授・高橋悟さん
たかはし さとる。1985年、 群馬大学医学部卒業。 米国メイヨークリニック・フェロー、 東京大学医学部泌尿器科助教授、 日本大学医学部附属板橋病院病院長などを経て現職。2003年、 天皇陛下(現上皇陛下) が入院された際の担当医師団を務める。 日本排尿機能学会理事長、 日本老年泌尿器科学会理事長などの要職を務める一方、テレビ出演などを通して、 尿トラブルの啓蒙に力を入れている。
尿が出る仕組み
膀胱には、腎臓から尿管を通って尿がたまっていく。外へ排出される際に通る尿道へ勝手に尿が流れていかないように機能しているのが「尿道括約筋」だ。
「いわば、膀胱はタンク、尿道はホース、尿道括約筋はホースを締めたり緩めたりする金具のようなものです」(高橋さん・以下同)
尿がたまっていないときは鶏の卵ほどの膀胱は、最大限にふくらむと、なんとグレープフルーツほどの大きさになる。
「膀胱と尿道括約筋、尿道は連動していて、尿の悩みのほとんどは、この連動に不具合が起きていることが原因です」
不具合の原因を知る「排尿チェック」
高橋さんは、まずトラブルの原因を知るべきだと話す。以下のチェックリストを確認してみよう。
□トイレは1日に5〜7回。夜は行かないか、1回だけ行く
□いきまなくても出る
□勢いがあって、途切れずに30秒以内に終わる
□残尿感はない
□1回にコップ1杯くらい(200m以上)の量が出る
「すべてに当てはまれば、あなたの排尿に問題はありません。つまり、当てはまらないところがあれば、ちょっとおかしいかも…ということです」
例えば、トイレの回数は昼間5〜7回、睡眠中は0〜1回が平均的。これより多いと頻尿に当てはまる。排尿時間については、男女ともに平均21秒前後で、10秒から30秒ならば誤差の範囲と言える。
「いつも30秒より長くかかっている人は、膀胱に問題があるのかもしれません」
また、1回の尿量がコップ1杯分(200〜400ml)より多かったり少なかったりする場合も、なにかしらの問題による可能性がある。
“老化現象”による尿トラブル
膀胱と尿道括約筋、尿道の連動の不具合の主な原因は“老化現象”によるものだ。しかし、高橋さんによると、老化が原因だからとあきらめる必要はないという。
老化で弱る排尿に関係する筋肉
筋肉を動かして食べたり飲んだりすることができるように、自分の意思で動かすことができる筋肉を「随意筋」といい、胃のように自分の意思とは関係なく動く筋肉が「不随意筋」といわれる。
「随意筋」に分類される尿道括約筋に対し、膀胱の筋肉である「排尿筋」は「不随意筋」で、いずれも老化によって衰えていく。
「膀胱が過敏になって、尿が十分にたまっていなくても勝手に縮み始めてしまう『過活動膀胱』では、尿道括約筋や骨盤底筋が衰えていると考えられます」
そして、頻尿も尿もれも過活動膀胱が原因なのだという。
脊柱管狭窄症も排尿トラブルの原因に
過活動膀胱の原因には別の病気が関係していることもあるという。
「実は、脊柱管が狭くなると、泌尿器の近くにある神経にも影響があります。脊柱管が狭くなったために泌尿器にある筋肉が使われなくなり、その筋力は弱くなります」
その弱くなる筋肉が、尿道括約筋と骨盤底筋だ。さらに、神経に関わってくる病気である脊柱管狭窄症になると、尿意を感じにくくなることもある。
人生の不安を取り除くために意識を変える
「1000万人以上の日本人が過活動膀胱を抱えているとされる」と高橋さん。
頻繁にトイレに行ったり、突然トイレに行きたくなって我慢できずに漏らしてしまったりすることもある過活動膀胱。痛みや苦しさと違い、緊急性を感じる症状ではないといっても、不安を抱えて外出したり、夜間頻尿で睡眠不足になったり、毎日を心から楽しむことができないだろう。尿トラブルはほうっておいても改善しないため、「たかが尿トラブル」と思っている人は意識を変えて向き合うことで、これからの人生をより充実させることができるだろう。