「日本人は過緊張気質!」些細なことと見過ごさず、セルフケアをすることが大切と専門家が警鐘 自律神経失調を招く前に心がけたい「3つのレスト」
過緊張は複雑な知的作業を行うビジネスパーソンや仕事もプライベートも忙しい人がなりやすい症状。「日本人は過緊張気質です」と精神科医・産業医の奥田弘美さんは話す。些細なことだからと放置しておくとすると症状が進んで病気になってしまうことも少なくない。と奥田さんが警鐘を鳴らす過緊張の症状やその対処法について、著書『それ、すべて過緊張です。』(フォレスト出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人
精神科医、産業医・奥田弘美さん
精神科医(精神保健指定医)、産業医(労働衛生コンサルタント)、執筆家、株式会社朗らかLabo代表取締役。
1992年山口大学医学部卒業。精神科医として約25年、産業医としては約12年のキャリアを持ち、現在も首都圏のクリニックでの診療や、約15か所の企業の産業医として、老若男女の心と身体の健康を日々サポートし続けている。「メンタルヘルス」「心と体のケア」「より良い生き方」などをテーマに、執筆活動も行っており、著作は20冊以上。
近著『会社がしんどいをなくす本 いやなストレスに負けず心地よく働く処方箋』(日経BP)、『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』『不安と折り合いをつけて うまいこと老いる生き方』(中村恒子との共著・すばる舎)は、いずれもベストセラーとなり、中国や台湾などでも翻訳出版されている。
過緊張とは「ストレスにより交感神経系の緊張が過度に続いている状態」
「仕事が終わって家に戻ってからも、職場での出来事が頭から離れず、なんだか落ち着かない」、「あのときの自分のした対応が、ちょっとまずかったかなあと気になって、休日も不安で楽しめない」、「介護中の親から言われた言葉を、何回も思い出してしまいイライラして、家族にあたってしまう」、「明日しなくてはならないことが、夜寝る時間まで、ずうっと気になって寝つきにくい」・・・。
このような苦痛は「過緊張」と呼ばれます。正確に表現すると「ストレスにより交感神経系の緊張が過度に続いている状態」です。
過緊張は、仕事をしている人なら、誰しもが日常で経験します。
私は精神科医としては約25年、産業医としては約12年、日々多くの働く人のメンタルケアに関わっていますが、かくいう私自身も過緊張に時々陥ります。仕事の負荷や心労が増えてきたり、人間関係がうまくいかなくなってきたりすると、おどろくほど多くの人が容易に過緊張になってしまうのです。
この過緊張が、早めに、自然に、解消されれば、基本的に問題ありません。
しかしうまく解消されずに、週単位、月単位で継続してしまうと、必ずといっていいほど、心身に本格的な不調があらわれてきます。なぜならば、過緊張が続くということは自律神経系のバランスの乱れが続くということであり、それが長引けば長引くほど「自律神経失調」状態になるからです。
過緊張を放置すると、不眠症、自律神経失調症、うつ病、になりやすく、交感神経の緊張状態が長引くと高血圧や糖尿病、さらには狭心症や脳卒中のリスクも高まります。がんや認知症の恐れも否定できません。
自律神経失調状態になると、頭痛、めまい、腹痛、微熱、ひどい倦怠感などの身体の不調や、不眠、気力低下、集中力低下、憂うつさなどの心の不調が本格的に出現してきます。そして仕事をはじめ日常生活が、正常に送れなくなります。
こうした症状が気になるのは、「この過緊張を、ちゃんとケアしてくれ!」という心や身体からの無意識のメッセージを受け取っているのかもしれません。
介護中も過緊張は他人事ではない
特に、介護職は感情労働といわれ、介護対象者に常に笑顔で優しく接すること無言のうちに強いられます。自宅で親などを介護する場合でも同様のプレッシャーを感じる人も多いでしょう。
そのためストレスを抱え込みがちになり、過緊張になりやすい方も多いでしょう。
例えば、仕事が大変な時期に、帰宅後、介護対象者からも嫌なことを言われたりして、夜になっても色々なことが気になって眠れない…という状態は、明らかに過緊張です。
過緊張ケアが早め早めにできるようになると、心や身体の不調を未然に防止することができるようになります。
良い体調や、気力・集中力をコンスタントに維持できるため、パフォーマンスが継続して出せるようになります。
過緊張に必要な、3つのレスト(休息)
過緊張を自覚したら、三つ3つのレスト(休息)を確保してください。
1:まずは何がなんでも睡眠時間をたっぷり確保する。
2:栄養バランスのとれた食事タイムをたっぷり確保する。
3:「時間に追われない休息時間」をたっぷり自分にプレゼント
この3つのレストを行ったあとに、自分の好きなリラックス行動(散歩、動画を見る、マッサージに行くなど)を、体力に無理のない範囲で徐々に行っていくとよいでしょう。
気分転換しようと、いきなりハードなレジャーやスポーツ、遠方への旅行に出かけるのはNGです。気力や体力を要するレクレーション行動は、8割以上、体調が戻ってきてから行わないと、過緊張を悪化させる恐れがあります。もし、睡眠や食事が、自力で十分にとれないときには、できるだけ早めに医療機関に相談してください。
精神科医、産業医として長年にわたって働く人を見てきた私が感じるのは、過緊張が悪化して、うつ病などの本格的なメンタル不調になって休職に至る人が非常に多いということです。これはとてももったいないことです。長い人生において、「安定したパフォーマンスを着実に積み重ねていくこと」は、非常に大切です。
これは、介護においても同様のことがいえます。自分1人で頑張ろうとせず、介護サービスや家族やプロの援助をお願いするなどして、できるだけ自分をケアする時間を捻出してください。
一時期には、心身に鞭 むち打ちながら必死で頑張っても、そのあとに体調を崩してしまい、思うように動けなくなってしまえば、結果的に多くの人が困ってしまう状況に陥ってしまいます。
些細なことと見過ごさず、「過緊張」に素早く気づき、どうぞセルフケアの達人になってください。
取材・文/水原敦子