65才以上の3割以上が悩む《耳鳴り》原因や対処法、耳鳴りを併発する危険な病気を医師が解説【専門家が教える難聴対策Vol.22】
耳鳴り――静かな環境で耳の奥で「キーン」と音がする。眠ろうとすると耳の中で音が気になる。加齢によっても増えるという耳鳴り。耳の病気なのか、難聴とはどう関係しているのか。「耳鳴りの悩みを抱えるお客様もいらっしゃる」と、補聴器専門店の代表で認定補聴器技能者の田中智子さん。気になる耳鳴りについて、専門医にリサーチしてみました!
教えてくれた人
■医師・神崎晶さん
独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部 聴覚障害研究室 室長。耳鼻咽喉科専門医・指導医、耳科手術暫定指導医、補聴器適合判定医、補聴器相談医、騒音性難聴担当医、めまい相談医、アレルギー専門医、気管食道科専門医。慶應義塾大学医学部卒業、静岡赤十字病院、静岡市立清水病院を経て慶應義塾大学医学部大学院に入学し、2002年大学院医学研究科修了(医学博士)。1999₋2001年ミシガン大学聴覚研究所にて内耳遺伝子治療の研究のため留学。現在、難聴と認知症に関する臨床研究を行っている。
■認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
気になる「耳鳴り」難聴との関係は?
普段の生活の中で、ご自身や身近なご家族に「耳鳴りが気になる」という悩みを抱えているかたはいませんか?
日本聴覚医学会「耳鳴治療ガイドライン」(2019年版)によると、現在65才以上の高齢者のうち、約30%以上の人がこの耳鳴りで苦痛を感じているとされています。
実際に来店されるお客様の中にも「若いころから耳鳴りがひどくて」「耳鳴りがしんどくて夜なかなか眠れないのよ」などと、耳鳴りに悩まれている人も少なくありません。
補聴器業界では、耳鳴りがあるかたには「必ず耳鼻咽喉科を受診するように」と指導する取り決めになっています。
意外と身近なこの「耳鳴り」ですが、原因や対処法について、国立病院機構 東京医療センター・聴覚障害研究室の室長の神崎晶さんにお話を伺いました。
※一般社団法人 日本聴覚医学会「耳鳴治療ガイドライン」。
https://audiology-japan.jp/guideline/
耳鳴りの正体は?
「一昔前までは、耳鳴りの原因は耳(内耳)の異常で起こるものだとされていました。その後、1991年に新たな学説が発表されました。『耳鳴りとは、脳に伝えられる電気信号が少なくなることで、脳内で音を作り出し、それを音として認識してしまうことが原因』とされ、その後もこの説を裏付ける研究が進みました。
2019年にはこうした研究をふまえ、私も策定に携わった『耳鳴治療ガイドライン』が20年ぶりに改定されました。このガイドラインは、その後の耳鳴りや難聴治療の方向性を大きく変えるきっかけとなりました。つまり耳鳴りとは、耳の異常ではなく、脳が音を作りだしているということになります」(神崎さん、以下同)
耳鳴りの診断方法とは?
「耳鳴りは、様々な観点から診断をします。聴力検査のほか、MRIやCTなどの画像診断を行なう場合もあります。
日常生活でどの程度の問題があるか調べるために、『耳鳴のせいで集中するのが難しい』『耳鳴りのせいで疲労を感じることが多い』など、いくつかの質問に回答していただき、点数化します。点数が高いほど日常生活に支障をきたしているため、点数を参考にしながら適切な治療を行っていきます」
耳鳴りの原因や考えられる病気とは?
「耳鳴りの多くは深刻な病の予兆というわけではなく、疲れやストレスなど精神的なことが原因となっていることも多いですね。
また、耳鳴りによって難聴が進行するということはありません。
しかしながら、別の病気を併発していることもあるので注意が必要なケースも。たとえば、耳鳴りの症状がある人の多くは、内耳の蝸牛が障害を受けることにより難聴になる『感音難聴』を併発していることが多いんです。
詳しく見ていくと、『音響外傷』『突発性難聴』や、薬物による聴覚障害『薬物性難聴』、内耳の疾患によって激しいめまいなどが起こる『メニエール病』などもあります。また、耳の内部の骨の異常が原因の『耳硬化症(じこうかしょう)』も耳鳴りを伴う場合が多い病気です。
耳鳴りが急に大きくなったなど、症状が気になる場合は早めに耳鼻咽喉科に相談してくださいね」
耳鳴りの治療とは?
「実は、耳鳴りの根本的な治療法はいまだ確立されていないため、対処療法が中心となります。ビタミン製剤や血流改善薬、ステロイドなどの薬物療法もありますが、耳鳴りそのものの改善に確実に繋がるわけではありません。
代表的な対処療法には、耳鳴りを気にならないようにする、症状を軽減することを目的とした『TRT』と呼ばれるものがあります。
Tは、耳鳴りを意味するTinnitus(ティニタス)、Rは、再訓練のRetraining(リトレーニング)、最後のTは、治療のTherapy(セラピー)の略となり、「耳鳴り再訓練療法」と訳されています。
TRTは、他の音を入れることで、耳鳴りを気にならないようにする音響療法を行います。難聴の場合には、他の音が聞こえないことがあるので、補聴器をして音を聞いたりすると、耳鳴りが気にならなくなるという研究成果もあり、実際に補聴器を音響療法に使用するケースもあります。
このほか、耳鳴りについて理解を深め不安を解消し、改善目標を立てるといった前向きなアプローチを促すカウンセリングも実施しています」
神崎さんが実施している耳鳴りのカウンセリングのポイントは以下のようになっている。
耳鳴り克服に向けたカウンセリングのポイント
理解する
まず聞こえの仕組み、耳鳴りの発生と耳鳴り憎悪のメカニズムを説明する。
不安を取る
患者さんの不安や疑問に答え、決して耳鳴りが何か重大な病気の予兆というわけではない、耳鳴りにより難聴が進行するものでもないといった一般的な経過を説明する。
また、耳鳴りはストレスや疲れ・不眠などでも悪くなるもので、よいときもあれば悪いときもあることも伝える。
目標を決める
耳鳴りによる苦痛な状態が軽減すること、気になることが少なくなることを目標にすることを伝える。耳鳴りが消えることはまだ難しいが、耳鳴りがあっても改善できることを説明する。
日常生活の中でできる耳鳴りの対処法
「静かな場所だと周囲の音が少ないために、耳鳴りが際立ってしまって、いつも以上に気になると言う人も多いかと思います。特に眠るときなどは困っていると言う人もいるのではないでしょうか。
そういう場合は、音響療法のひとつとして『滝の流れる音』や『川のせせらぎの音』などの自然の音が入った環境音を流すことをおすすめしています。
別の音を聴くことで、相対的に耳鳴りを小さく感じさせたり、耳鳴りに注意を向けさせないようにしたりするわけです。
普段から耳鳴りをネガティブなものと捉えていると、余計に気になってしまい、音が大きく感じ、不安も大きくなってしまうもの。日常生活に支障がない場合は、誰にでも起こる加齢のひとつと捉え、意識を向けないようにできたらいいと思います」(神崎さん)
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耳鳴りは、実は脳が音を作り出していて、今日の耳鳴りはどうかな?と意識を向けてしまうと、余計に音が大きくなってしまう、ということは驚きでした。
適度な運動をして寝つきをよくしたり、お気に入りのヒーリングミュージックを小さな音で流しながら眠りについたり、日常生活の中で工夫をしてみるのがよさそうです。「あれ? いつの間にか耳鳴りがなくなった」となるのが理想ですね。
★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!

耳鳴りをきたす疾患の3分の2は感音難聴と言われています。補聴器が治療に使われることもあります。まずは耳鼻咽喉科を受診して、相談することが一番です!
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな