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暮らし

認知症予防のためにペットを飼う際はバックアップ体制が大切

 認知症――自分、あるいは親がその当事者になる可能性。それは誰にも否定できません。その可能性を回避するために、今からできることとは? さまざまな方法を識者に尋ねます。

 今回は、予防のために「ペットを飼う」ということについての後編。獣医師・臨床心理士として、動物・人間双方を診る立場から、長年、高齢者や知的障害者と動物との関係とそのQOLの向上について実践・研究している川添敏弘さん(ヤマザキ学園大学准教授)にお話をうかがいました。

 * * *

 前回は、認知症予防にペット飼育がいい理由と、おすすめの犬と猫についてのメリットや注意点をご紹介しました。今回は、高齢の親御さんがペットを飼う場合に留意しておきたい、大切なことをお話します。

飼う前に家族会議をすることは必須

 高齢者がペットを飼育するうえで最も大切なのは、バックアップ体制です。ペットが病気になったり、飼い主が病気や怪我などで食事やその他のお世話がきちんとできなくなったりの、不測の事態にもフォローできるよう態勢を整えておく必要があります。理想は、やはり家族(子世代)が一緒に、あるいは近くにいることです。

 親御さんと離れて暮らしている場合は、ご近所さんなり近くの親類・友人などで信頼できる方にサポートをお願いできるなら、ということになります。

 もし介護保険で派遣されるヘルパーさんを利用しているとしても、その人にはペットのお世話は頼めないので、注意が必要です。介護保険の制度上、ヘルパーがお世話できるのは被保険者本人(高齢者)のことのみ。ペットのお世話をするのは違反になってしまうのです。介護保険外(完全自費)でお願いするヘルパーさんなら契約内容次第で大丈夫でしょう。また、専門職として「ペットシッター」というサービスもあります。そのあたりもしっかり調べて、手当てしておきましょう。

 これらを踏まえたうえで、みんなで「家族会議」をして、家族全体として受け入れを決めることが大切です。それから、どういう種類の動物にするのかを話し合いましょう。大きさや種類によって、必要な散歩の量や経済的なコストも変わってきます。そのうえで、「家族の一員」として受け入れていくというのがいいのではないでしょうか。受け入れの方法として、保護された犬や猫の譲渡会へ出かけたり、犬種などにこだわりがあるならブリーダーに相談するなどの方法もあります。

 話し合いもしないうちから、子世代が勝手にペットショップで買ってきて押し付けるとか、親と一緒になんとなくペットショップに行って一目ぼれしたからと買って帰ったり、というのはおすすめできません。もちろん、話し合って決めて行ったけれど、ショップで「目が合ってしまって」どうしてもこのコを連れて帰りたい、というケースもあるでしょう。それならその場で、皆で話し合って決めてもいいと思います。ペットと人間との間にも「相性」はあるので、その直感を大切にするのも、いっぽうでは大事なことですね。

ペットの食事は飼い主の考え方も尊重

 今のペットは昔に比べてはるかに長寿になりました。それはペットフードが良くなったからです。昔はねこまんまなど、人間が食べているものの残り物を餌にすることも多かったのですが、今ではそれだとペットには塩分過多で病気の原因になるという考え方が浸透しています。

 それでも、高齢者のなかには、自分が食べているものを傍らのペットに分け与えるという人も少なからずおられます。獣医学的視点からはNGですが、介護的視点からは、むやみに否定できない部分もあります。高齢者は、ひとりで食事するより、一緒に生活している愛犬・愛猫と同じものを共有することでより愛情が深まったり幸福を感じたりすることもあるのです。

 ペットが病気にならない程度であれば、心が結びついている行動を重視したいものです。ペットが長生きしても距離のある関係性になってしまっては少し残念です。「自分の食べるものをあげちゃダメ!」と目くじら立てるよりも、飼い主の生活スタイルや考えを尊重してあげるのがいいと思います。

「自分の方が先に死ぬから」と言われたら…

 親にペットを勧めたら、「自分の方が先に死ぬから…」と逡巡されるというのは、よくある話です。将来的に世話ができなくなることを心配して、ペットを迎え入れることをあきらめてしまう高齢者もたくさんいます。が、その問題をフォローする仕組みも徐々に整いつつあります。

 高齢者が不安を減らし、安心してペットを飼い続けることにより、健康の増進や社会とより広い交流をしていただくことを目的としたNPOも増えてきています。世話ができなくなることを心配して、動物との健康的な生活を放棄するよりも、社会的な支援を利用しながら豊かな生活を続けていくことの方が幸せに繋がると思います。

犬・猫以外のペットやアニマルロボットも

 最後に、犬や猫のほかにも人気のあるペットについてもご紹介しておきます。

 まず小鳥。鳴き声だけでもうれしい。通常、小鳥の寿命は7~8年のものが多く、オカメインコなどは15年と長生きです。小鳥は犬猫よりも場所を取らず世話もしやすいところがおすすめです。

 うさぎは、見た目がかわいくよくなつききます。鳴かないので騒音問題がありません。が、表情が読み取りづらく、音もなく寄ってくるため知らずに踏みつけて骨折させたりの危険もあります。寿命は7~10年。

 モルモットは手がかからず、抱っこもできておすすめです。寿命は5~6年です。ハムスターは小さくてかわいいものの、人には慣れにくく、週に1度は寝床の掃除が必要で少々手がかかります。逃げると捕まえるのが大変です。寿命は2~3年です。これらは、「ネズミの仲間」と聞いて嫌がる(菌を持っているのでは?と警戒)高齢者もいます。

 番外編的に、アニマルロボットの「パロ」。生きている動物が怖い人や認知症の人でもOK。病気の心配がなく、AIで感情交流も可能ですが、高価なことが泣きどころです。

 小動物は一般に寿命が短く、高齢者にペットの死を体験させるのは介護予防的にも良くないので、できれば寿命が長めのものが望ましいでしょう。

 我々がめざすアニマルセラピーとは、動物を介在させることで、人と人とを紡いでいくことに目標があります。ペットを飼うことは、ペットと老親との関係だけでなく、自分とその子も含め三世代での交流を考えるきっかけにもなってくれると思います。

認知症ペット_川添_2-3

川添敏弘(かわぞえ・としひろ)/ヤマザキ学園大学動物看護学部動物看護学科准教授。獣医師・臨床心理士。「人と人とを動物を使って紡いでいく」ことを目標に、動物と子供・知的障害者・高齢者との関係について実践・研究。現在、学生やボランティアの人々とともに障害者や高齢者の施設で、さまざまなレクリエーション活動を主宰。地域コミュニティのなかでさまざまな困難を抱える人々との交流を重ね、独自のアニマルセラピーを実践中。

撮影/相澤裕明 取材・文/小野純子

【この記事の前編】

認知症予防のペットは猫か犬の室内飼いが理想的

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