「期待した通りの生き方をしない子供たちが心配です」嘆く母親に毒蝮三太夫がアドバイス「そろそろ子離れを」|「マムちゃんの毒入り相談室」第68回
親と子どもは別々の人格である。当たり前のことだが、親はしばしばそのことを忘れてしまう。教育には力を入れてきたのに、自分が思い描いた人生を歩んでいない二人の我が子に対して、深い失望を感じて先々を心配している70歳の母親。マムシさんは共感を求めて差し伸べた手をやさしくかわし、子離れすることの大切さを説く。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:二人の子どもが自分には理解できない生き方をしている
今年は各地で雪の被害が大きいみたいだな。でも、このところビックリするぐらいあったかい日もあって、春はちゃんと近づいてきてる。近所の公園じゃ、もう梅が咲いてた。寒さで縮こまってたジジイやババアも、背筋を伸ばして元気に春を迎えようじゃないか。
この時期は、受験生はたいへんだ。全員が第一志望に合格することを願ってるけど、そりゃ無理な話か。ハハハ。でも、どんな結果になったとしても、キミたちの前途は洋々だ。今回の相談は、受験シーズンにピッタリと言えばピッタリかな。70歳の女性からだ。
「40歳の長男と37歳の長女がいます。小さいころから習い事に通わせるなど、教育には手間もお金も惜しまずに育ててきました。いわゆる『教育ママ』だったかもしれませんが、それも子どもの将来を考えてのことです。
おかげさまで二人とも、いわゆる一流大学に合格しました。ところが、長男はせっかく入った大学を途中でやめ、世界中を放浪して、やがて友人と会社を作るなど、まったく理解できない生き方をしています。どうやら生活はできているようで、孫も二人います。でも、実家には寄り付こうとしません。長女も長女で、大学を卒業して名の通った企業に就職したまではよかったのですが、数年で辞めて聞いたことがない会社に転職し、結婚もしないで都会で働き続けています。長女も、ほとんど実家には帰ってきません。
いつまでもフラフラしている子どもたちが心配でなりません。今からでも、息子や娘の考えをあらためさせることはできるでしょうか。夫は『子どもには子どもの人生があるんだよ』と言うだけで、まったく話が通じません」
回答:「お子さんたちは、立派に成長してるよ。そろそろ頑張りを認めてあげよう」
なるほどね。あなたが子どものことをとっても心配していることは、よくわかった。ただ、俺には「こうすれば息子や娘が変わる」というアドバイスはできないな。あなたはガッカリするかもしれないけど、俺はご主人と同じ意見だ。子どもには子どもの人生がある。親がコントロールしようとしちゃいけない。それは子どもにとっちゃいい迷惑だよ。
あなたが思い描いた将来像とは違うかもしれないけど、息子さんも娘さんも、立派に成長したってことなんじゃないかな。お母さんの期待に添えなくて申し訳ないと思う気持ちもあったかもしれないけど、それを振り切ってよく頑張ったよ。親の期待に縛られて身動きが取れなくなって、自分の人生を見失っている人は少なくないからね。
その点、あなたの息子さんと娘さんは、しっかり自分の道を見つけて自分の足で歩いている。だけどあなたの目には「いつまでもフラフラしている」としか映っていない。そろそろ頑張りを認めてあげてもいいんじゃないかな。子どもたちがかわいそうだ。そりゃ、顔を見たら文句やお説教ばかりの母親がいる実家なんて、帰りたいとは思わないよ。
あなたはきっと、子どものことを何より優先して全力で子育てしてきたんだろう。それは素晴らしいことだ。だけど、一流大学を出たからこういう人生を送るべきだとか、名の通った企業に勤めるのが幸せだとか、そういうことに縛られ過ぎてるんじゃないかな。40歳と37歳の子どもに対して、親が何かアドバイスできると思うこと自体が、大きな勘違いだ。
的外れな心配だったら申し訳ないけど、もしかして今、ダンナとの関係がうまくいってないんじゃないか。二人の生活を楽しんでないから、子どもに関心が向くのかもしれない。70歳と言えば、まだまだこれからだ。今のあなたにとっていちばん大事なのは、子どもの心配をすることじゃない。ダンナと円満な関係を築いて、毎日の生活を楽しむことだ。
子どもの心配を捨て、ダンナと街へ出よう。天に星、地には花、食卓には会話をだ。たまには旅行に行くのもいいし、映画だってありがたいことに高齢者は割引がある。今の自分たちが子どもにしてやれることがあるとしたら、それは母親と父親が仲良く楽しく暮らしている姿を見せることだ。言葉で言っても聞いてはもらえない。背中で伝えよう。
あなたが一生懸命に自分たちを育ててくれたことは、子どもだってちゃんとわかってるよ。感謝だってしてるはずだ。我が子を信じてあげようじゃないか。そろそろ子離れして、お互いに大人同士として接すれば、また新しい関係を築いていけるよ。
今みたいに距離があるままだと、自分たちが死んだあとで、子どもが「もっと仲良くしておけばよかった」と後悔するかもしれない。気持ちを切り替えて「お母さんは今まで間違っていた。あなたたちは自分の人生を立派に歩んでいることに、やっと気づいた」って、言ってあげるのもいいんじゃないか。たぶんそれが、あなたの子育てのフィニッシュだよ。
なんて、子どもがいない俺が生意気なことを言っちゃったかな。いないからこそ周囲の親子を見て岡目八目でいろいろわかったってことで、ま、勘弁してくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。88歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。