【法改正】ヤングケアラーが支援対象に「本当に必要な支援」について当事者が思うこと「見守ることは何もしないこととは違う」
子ども・若者育成支援推進法の改正により、「ヤングケアラー」が法的な支援の対象として明記された。しかし、幼いころから母親のケアを続けている元ヤングケアラーのたろべえさん(高橋唯さん)は、当事者として複雑な思いも抱えている。ある講演会をきっかけに感じた「本当に必要な支援」とは? 我々ができる支援とはなんだろうか。
執筆/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/
ヤングケアラー支援法制化への喜びと戸惑い
昨年、ヤングケアラーに関する大きなできごとがあった。
2024年6月、子ども・若者育成支援推進法が改正され、支援に努めるべき対象としてヤングケアラーが明記された。ヤングケアラーへの支援が法的根拠をもったことは大きな前進だ。
しかしながら、筆者個人としては複雑な思いも抱いていた。
子どものころの私は特に自分が困っているという自覚がなく、実際に支援がなくても学生生活に支障がなかったため、支援が必要な存在と言われるようになったことに、戸惑いを覚えたのだ。
最近では相談窓口も増えて、家事支援や配食といった具体的なサービスもつくられてきており、必要なヤングケアラーにはぜひ届いてほしいと思う一方、
「困ったらいつでも相談してくださいと言われても、私は困らなかったから相談しないかな」「いろんなサービスも便利そうだけど、自分が使うイメージがわかないな」とも思っていた。
講演活動も回を重ねるうち、迷いが生じていった。
「私は最近よりもむしろ少し前の方がヤングケアラーという言葉に頼って救われることが多かった気がする。これからはもう私はヤングケアラーという言葉に頼っても救われないのかもしれない」
「支援が必要だと思えない私は、ヤングケアラーではないのかも。そんな私が当事者経験を話して、啓発活動をしてもいいのだろうか」などと、悶々としながら活動していた。
現在、学校に通っているヤングケアラーの子どもたちの中にも、学生時代の私と同様に「自分には支援が必要である」という自覚がなく、周りから支援が必要な存在と思われることに戸惑いや拒否感を覚える子もいるだろう。
とはいえ、子ども本人が「困ってない」と言うのであれば、周りの大人は放っておいていいのかというと、それもまた違うと思う。
私に必要だった支援とは、ヤングケアラーに必要な支援とは、いったいなんなのだろう。模索しながら講演を続けた2024年だった。
はじめて支援のありがたさに気がついたときのこと
2024年も終盤の11月。ある講演をきっかけに、気がついたことがあった。
講演の中で、ヤングケアラー有識者の先生から質問をいただいた。
「支援者の人に自分のやりたいことを伝えて、それが叶った経験はありますか?」
正直、自分のやりたいことが思いつかないので、やりたいことを伝えた経験も、それが叶った経験もない。だけど、思い出したことがあったので、それをそのまま答えた。
「やりたいことが叶った経験とはちょっと違うかもしれませんが、たまたま相談員さんが支援計画のためかなにかで、私に電話をくれたんです。
『最近、お母さんはお家ではどんな感じ?』と聞かれたので、話の流れで『毎日、私が家でお風呂に入れています』と答えました。
すると、次の日くらいにまた電話がかかってきて、『もしよければ、週1回だけだけど、デイサービスでお母さんにお風呂に入ってもらうことができるよ。あなたの負担も減ると思うけど、どうかな?』と申し出ていただきました。
正直、そこまで負担だとは思っていませんでしたが、家の狭いお風呂で無理に入れるより、施設のちゃんとしたお風呂に入れてあげた方がいいと思って、お願いすることにしました。
負担だとは思ってなかった、と言いましたが、いざ週1回、母がデイサービスでお風呂に入ってきてくれるようになると、なんというか、ほっとするというか、”あっ、今日はお風呂入れなくてもいいんだ”と思うと心が楽になりました。
1日30分もないくらいの時間ですが、それでもその時間、自分の時間になることがありがたくて。毎週楽しみでした」
具体的な支援や相談の前に必要なこととは?
私は決して「母をお風呂に入れるのが大変なんです、助けてください」と相談したわけではない。だけど、結果的にデイサービスで母をお風呂に入れてもらえるようになって、とてもありがたいと感じた。
私にまず必要だった支援は、具体的な支援や相談の前に、まず自分の状況を話して知ってもらうことや、話せる環境があるということだったのかもしれない。
相談窓口や具体的なサービスの情報を広く周知することは大切だが、正直なところヤングケアラーが自分で必要性を認識してケア相手や家族に説明をして相談や申し込みをするのは難しいと思う。
その一歩手前で、まずは自分のケアの状況をわかってくれている人がいれば心強いし、その人が勧めてくれればサービスを利用したり、利用してみて自分に必要な支援がわかったりといった、次の段階に進めるのではないだろうか。
「ただ見守る」のは「何もしないこと」とは違う
支援する側も「何かしなきゃ」と思うだろうけれど、そのためにはまずヤングケアラーの現状をそのまま受け止める必要がある。よく、「ただ見守ることしかできなかった」とおっしゃる支援者のかたもいるが、「見守る」は「何もしない」とは全然違う。
本当に支援が必要なタイミングや、支援を提供できるタイミングで手を取ることができる距離に居続けるということそのものが、ヤングケアラーの支えになると思う。
2022年度から2024年度までの3年間、「ヤングケアラー認知度向上の集中取組期間」として国が活動に取り組んでいるが、この取り組みは、2025年3月で終了する。今後は各自治体での取り組みが進められ、地域間の支援のばらつきが是正されることが期待されている。
日本中どこに住んでいるヤングケアラーにも、話したいときにケアの話ができる存在ができることを願っている。
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
■ヤングケアラーとは
日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。
■ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
■相談窓口
・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/
・児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス