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過去5年で4倍!全国に拡大中の「こども食堂」の現状を元ヤングケアラーがレポート「介護施設に併設する事例も増えている」

 高次脳機能障害の母のケアをしながら、ヤングケアラーについての情報を発信しているたろべえさんこと高橋唯さん。介護や医療・福祉に関わる大きなイベントで実施された“こども食堂”にまつわるセミナーに参加したところ、これまでのイメージが変わったという。元ヤングケアラーの視点から、こども食堂の“今”をレポートする。

取材・執筆/たろべえ(高橋唯)さん

「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/

こども食堂は家でご飯が食べられない子どもが行くところ?

 以前、近所でこども食堂が開催されるという案内が回ってきたことがある。

 私はなんとなく「こども食堂って、家でご飯を準備することが難しい家庭の子どもが行くところだよね?」「だれでも来てもいいと書いてあるけど、それは支援が必要な子どもが行きづらくならないためにそう書いてあるってことかな」と思い、その時はそれ以上興味をもつことはなかった。

 我が家も母が作る料理は基本的にそのままでは食べられるようなものではなかったが、食材自体は買うことができていたので、もし自分が子どもの頃にこども食堂があったとしても「もっと食べるのに困っている子が行く場所」と思って行かなかっただろう。

 ところが最近、ヤングケアラー支援の研修で、ヤングケアラーを発見した後につなぐ場所としてこども食堂の名前をよく耳にするようになった。

 貧困であったり、家に食事を準備してくれる大人がいなかったりといった場合ではなくても行ってもいい場所なのか?なんだか興味が沸いてきた。

ケアショーでこども食堂についてお話を伺いました

 先月開催された介護・医療分野の展⽰会「Care Show Japan 2024(ケアショージャパン)」を訪れた。

 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)に所属する遠藤典子さんによるセミナー「こども食堂と高齢化社会~高齢者施設、医療機関等と地域連動した取り組みについて~」を聴講させていただいた。

 むすびえは、全国にこども食堂を広める活動を行っている認定NPO法人。セミナーに登壇した遠藤さんは、自治体や企業とこども食堂を繋ぐ活動に奔走している。

 お話の中から、気になった点をレポートする。

こども食堂の数は急速に増えている

「近年、日本国内のこども食堂の数は一気に増加し、2023年には9000か所を超えました。これは日本の中学校とほぼ同数です。

 私たちは、さらに小学校の数(公立小学校と義務教育学校を足した数)である1万8,870校と同数以上のこども食堂ができることを目指しています。どこの小学校に通っている生徒でも、1か所は学区内にあるこども食堂を知っているという状態が理想です」(遠藤さん、以下同)


介護施設でこども食堂を行う事例も増えている

「こども食堂は様々な団体によって運営されています。最近では企業やお寺などが運営するケースも増えています。

 SOMPOケアさんによると、自社展開の約450の介護施設でこども食堂を運営されているということで、話題になっています。

 介護施設の入居者も子どもたちが訪れることを楽しみにしていますし、企業にとっても施設のアピールや、子どもたちの介護職に対する憧れの醸成などプラスの効果が期待できます。

 実際に、就職希望者からこども食堂に惹かれたという声が挙がったこともあるそうです」

高齢化社会におけるこども食堂の役割

「こども食堂は、子どもがひとりでも行ける無料または低額の食堂です。

 しかし実際には、子どもだけではなく誰でも参加可能としているこども食堂が約8割というデータがあります。

 また、むすびえが行った調査では、約6割のこども食堂には高齢者も参加していることが分かっています。

 とあるこども食堂では、自力で参加することが難しい地域に住んでいる高齢者をバスで迎えに行き、帰りはスーパーに買い物に寄ってから送っていくという取り組みを自治体と共に行っています。

 あるおじいさんは、毎回、子どもたちになにかしらプレゼントを配ることを楽しみに参加してくださっているそうです」

こども食堂は「地域の居場所」「地域のインフラ」

「昔は、ドラえもんに登場する子どもたちが放課後に空き地に集合していたように、子どもたちには家と学校以外の居場所がありました。ところが最近では、様々な理由で子どもたちの居場所が少なくなっています。

 こども食堂は、現代の子どもたちの地域の居場所のひとつとしての役割も担っています。居場所の数が多い子どもほど、より自己肯定感が高く、前向きであるという調査結果もあります。

 様々な人たちがこども食堂に出入りすることで、こども食堂を中心とした地域のインフラが作られることを目指しています。

 貧困対策だけではなく、高齢者の健康づくりや子育て支援などの多様な役割を担い、平常時から地域のつながりをつくることで、非常時にはセーフティーネットとしても活用することができます」

こども食堂とヤングケアラー

 セミナー終了後、遠藤さんにヤングケアラー支援におけるこども食堂の役割についてお話を伺ってみた。

高橋:こども食堂での活動の中で、ヤングケアラー支援についてはなにか感じられることはありますか?

遠藤さん:こども食堂を運営されている地域のかたたちは、いろいろな子どもたちの中でちょっと気になる子を発見するセンサーがすごいんです。

 例えば、きょうだいの多い子にはこっそりお米を多めに持たせてあげたり、ひとりで来ている子のお家の人と少しお話ししてみたい時には、風邪引いちゃったみたいだから送っていくということで家について行ったり、そういった気づかいを自然に、上手にしてくれるんです。

高橋:こども食堂のかたがたは、子どもたちのことをそこまで気にかけてくださるんですね。

遠藤さん:そうなんです。地域の繋がりが希薄になった今、こども食堂によって、昔の良い意味でのおせっかいが戻ってきている気がします。

 かつては “ちょっとおせっかいな近所のおばちゃん“が周りにいましたよね。そういう存在が、ちょっと気になる子や、ちょっと困っているこどもに気付けるんだと感じています。

高橋:たしかに、ヤングケアラーの中にはなかなか自分から言い出せない子も多いと思うので、ちょっとおせっかいなくらいじゃないと発見することが難しいですよね。

遠藤さん:そうですね。でも、「しつこい」と感じられたら子どもたちが離れていってしまいますから、ちょうどいいおせっかい加減で子どもたちを見守ってくれる地域のかたたちの存在は本当にさすがだと思います。私もいつも見習わせてもらっています。

こども食堂は“みんなの居場所”

 お話を伺うまで、こども食堂は生活に困難さを抱える子どもの支援拠点のようなイメージをもっていた。実際には、高齢者や子育て中の親、運営をサポートしてくれる人などいろいろな人たちにとっての地域の居場所であり、その中で気になる子どもを発見し、同時に支援することができる場所なのだと知ることができた。

 たしかにヤングケアラーだけ特別だと言われたら抵抗感があるが、普段からいろいろな人が行っている場所であれば、ちょっと覗いてみようと思える気がする。

 本当に支援が必要な子どもがこども食堂に行き着くには、まずは支援が必要ではない人がこども食堂に行ってみると良いのかもしれない。

 帰宅後、近所のこども食堂を検索してみると、これまで知らなかった意外な場所でも開催されていることがわかった。みなさんもぜひ一度、お近くのこども食堂を調べてみてほしい。

■認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

https://musubie.org/

取材・文・撮影/高橋唯

→たろべえさんのほかの記事を読む

ヤングケアラーに関する基本情報

言葉の意味や相談窓口はこちら!

・ヤングケアラーとは

 日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

・ヤングケアラーの定義

『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。

・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている

・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている

・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている

・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている

・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている

・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている

・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している

・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている

・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている

・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

・相談窓口

・厚生労働省「子どもが子どもでいられる街に。」

児童相談所の無料電話:0120-189-783

https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

■文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310

https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm

■法務省「子供の人権110番」:0120-007-110

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

■東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス

https://lin.ee/C5zlydz

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