どちらかが脳卒中や心不全を発症した夫婦は「認知症リスク3割増」 京大研究チームが発表
京都大学の研究チームが、全国健康保険協会(協会けんぽ)の約9万3000人のデータをもとに「配偶者が脳卒中や心不全、心筋梗塞(以下、心血管疾患)を発症すると、もう一方の認知症リスクが約3割増加する」という研究結果を発表した。
パートナーの疾患発症がもたらす「認知症リスク」
認知症患者はこれからも増えることが確実視されている。厚生労働省研究班の調査によると、2022年時点の患者数は443万人。それが2030年には523万人へと80万人増えることが推測されている。高齢者の14%が認知症患者となる計算だ。また、認知症の前段階とされる「軽度認知障害(MCI)」の人数も2030年には593万人に増えるとされており、合わせて1100万人が認知症またはその予備軍となるとみられている。
認知症は早期発見や予防が大切だとされており、今回の研究はその“予防”に役立つと考えられる。
これまでにも、心血管疾患を抱えることは本人の認知症発症の重要なリスクになるという研究はあった。が、京都大学の研究で興味深いのはの影響が本人に留まらず、パートナーにも及ぶということだ。つまり、夫が(あるいは妻が)心血管疾患を抱えると、妻(夫)の認知症リスクが高まるということになる。脳卒中や心不全といった重い病気でパートナーが倒れると入院余儀なくされ、自宅で一人になったパートナーの認知機能が進む──といったシーンは感覚的には理解できるが、「1.3倍」という有意な差としてデータで示されたのは意義が大きい。
研究結果では年齢や基礎疾患の有無などにかかわらず同じ傾向だったということから、パートナーの精神的な負担や生活環境の変化が認知症リスクに関連している可能性があるのだろう。
家族単位での健康リスクを考える契機に
これまで認知症リスクは、個人の生活習慣や遺伝に基づいて評価されてきた。が、今回の研究では「家族」に焦点を当てているのが特徴だ。研究チームの発表では、研究者のコメントとして「家族全体に着目した形で認知症のリスク要因を検討することは、認知症への効果的なケアの提供を検討する上で重要な視点である可能性があります」と述べられている。
前述した精神的な負担や生活環境の変化のほかに、認知症の直接の原因となる脳の萎縮や血管の詰まり、代謝変化などは、日頃の心がけである程度予防することができると言われている。夫婦どちらかが心血管疾患を発症した場合、家族で支え合い、健康を意識した生活を送ることでもう一方の認知症リスクを抑えられる可能性もある。認知症リスクを抑えていくために、パートナーと一緒に生活習慣を改善することを考えてみてはいかがだろうか。
構成・文/介護ポストセブン編集部