認知症の人と介護者が共に暮らす「共生社会」を目指して「認知症ケア支援VR」提供開始
年々増え続ける認知症患者への対応が課題となる今、併せて認知症ケアラーへの支援も急務となっている。現在日本のケアラーの約7割は家族が担っており、身体的、精神的、経済的に大きな負担を抱えている人も多い。そんなケアラーを支援するプログラムとして、「認知症ケア支援VR」が注目を集めている。
当事者もケアラーもその人らしく暮らすために
2040年には認知症高齢者は584.2万人に達し、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の推計612.8万人(※1)と合わせて、約3人に1人が認知機能の低下に至るとされている。一方2030年には、家族を介護する833万人のうち約4割が、働きながら家族の介護に従事するビジネスケアラーとなる中で、仕事と介護の両立困難による労働生産性の損失は約8兆円になると指摘されている(※2)。
認知症患者との共生社会を実現するには、認知症の進行に伴って出現する心理・行動症状へ適切に対処することが必要だ。そこでジョリーグッドと大塚製薬は共同事業であるVRトレーニングプログラム「FACEDUO(フェイスデュオ)」の新たなプログラムとして、「認知症ケア支援VR」を開発。認知症当事者がその人らしく暮らし続けることを可能にしながら、そのケアラーのストレスにも対処することによって、双方が充実した日々を送るための支援を開始した。
「認知症ケア支援VR」は、認知症当事者の家族や介護士を始めとした介護者へ向けた、専門医監修の体験型VRトレーニングプログラムだ。認知症になると物事の段取りや手順が分からなくなったり、物忘れをしたりなどの症状が起こる。ただ、当事者は何も分からなくなってしまったわけではなく、認知症による自身の変化に戸惑っていたり、不安を感じていたり、他者とのコミュニケーションが上手く取れないことにストレスを感じていたりすることも。本プログラムは、そんな認知症当事者の気持ちや行動の背景を理解し、具体的な対応を学ぶことにより、行動・心理症状を軽減し、介護者の精神的負担を緩和することを目指している。
FACEDUOは2022年10月の提供開始以来、医療機関や就労移行施設を中心に導入が進んでいるが、「認知症ケア支援VR」は介護施設や自治体、認知症の家族を支援する民間サービスにも販路を拡大している。今回の提供はプレリリース(お試し体験)となっており、正式な販売は12月を予定しているようだ。
※1 令和5年度老人保健事業推進費等補助金「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」
※2 経済産業省(2024年)「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
認知症介護による精神的負担を「感じる」が9割
認知症当事者だけでなく、介護者を含めた支援体制の整備は急務と言える。現在日本の介護者の約7割は家族が担っており、介護疲れによるうつやストレス、孤立、睡眠障害などに悩まされていることも珍しくない。
認知症当事者の家族など介護者を対象とした調査結果によると、精神的負担を「やや感じる/強く感じる」と回答した人は86.9%で、身体的負担や経済的負担を上回った。
※社会福祉法人東北福祉会認知症介護研究・研修仙台センター 平成29年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業):認知症の家族等介護者支援に関する調査研究事業報告書. 2018 を元に作成
ソーシャルスキルトレーニングVR「FACEDUO」
「FACEDUO」は、人とテクノロジーで社会課題に対する解決策を提案するVRトレーニングプログラムだ。今回新たに開発された「認知症ケア支援VR」は、認知症当事者の気持ちや行動の背景を知り、具体的な対応を学ぶための体験型支援VRプログラムとなっているようだ。
認知症ケア支援VRの概要
本プログラムは専門家の監修に基づき開発されており、大きく3つのテーマで構成されている。
1.「認知症の症状の理解」
介護者が戸惑った場面を家族目線で体験し、場面を振り返りながら、認知症の症状について理解を深める。
2.「認知症当事者の気持ち・行動の理解と工夫」
介護者が当事者と接する中で難しいと感じる場面を体験し、「きっかけ→気持ち・行動→対応」という流れで分析。きっかけを変えることや、当事者の気持ちを理解した対応へのアドバイスが提供される。認知症の各症状に起因するそれぞれの行動に対応した複数のコンテンツが用意される予定だ。
3.「リラックスVR」
リラックスできるVR空間で呼吸法を用い、介護者の方々が身体と心をリラックスさせる体験を通じ、ストレス軽減を図る。
現在は「認知症の症状の理解」及び「認知症当事者の気持ち・行動の理解と工夫」の2つのテーマがプレリリース(お試し体験)として提供されており、正式な販売は12月の予定となっているようだ。
認知症ケア支援VRの特徴
「認知症ケア支援VR」は、認知症当事者の気持ちを知り、接し方の工夫を学べるよう、ジョリーグッドの強みである実写VR技術によるリアル感と、3Dグラフィックスを活用した仮想空間との組み合わせが特徴だ。学びやすさとわかりやすさで継続して受講しやすい作りとなっている。
VRの進行役とドクターがトレーニングを進めるため、認知症介護者を教育する支援者の負担の軽減に繋がるのもポイントだ。なお、全てのVRコンテンツは慶応義塾大学医学部精神・神経科/医療安全管理部准教授である藤澤大介医師が監修を行っている。
藤澤医師は「認知症ケアでは、認知症当事者のケアに加えて介護者の心のケアが大切」だと語る。事実、介護から生まれる様々な負担により、介護者のほとんどが精神的な疲れを抱えている。ストレスを抱えた介護者によるケアは認知症本人にも影響する。この現状を打破し、当事者も介護者も自分らしい生活を送ることができる社会を目指すため、このプログラムが広がっていくことに期待したい。
【データ】
ジョリーグッド
https://jollygood.co.jp/
FACEDUO公式ページ(認知症ケア支援VR)
https://www.faceduo.jp/dementia-care/
※ジョリーグッドの発表したプレスリリース(2024年9月10日)を元に記事を作成。
図表/株式会社ジョリーグッド提供 構成・文/秋山莉菜