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暮らし

《お花の定期便サービス「お花のなかま」も注目》「花」のコミュニケーションツールとしての効果 介護する側・される側のストレス軽減にも役立つ

「介護のなかま」がプロデュースするお花の定期便サービス「お花のなかま」が注目を集めている。「お花のなかま」は2週に一度、プロがセレクトした季節の花が届き、月に一度の「投稿コンテスト」で同じ想いを持つ人と気持ちを分かち合える。実際の介護の現場でも、花を活用するケースも増えている。

 花は、ただ眺めるだけの存在ではなく、心の反応を呼び戻すきっかけになる――そう語るのは、農研機構の望月寛子さんと、25年の介護支援の現場経験を持つ介護福祉士・公認心理師の井上百合枝さんだ。介護現場と研究、それぞれの視点から、花が脳と心に及ぼす影響を紐解きながら、高齢者との暮らしの中で花を活かすヒントを探る。

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教えてくれた人

望月寛子さん/農研機構食品研究部門食品健康機能研究領域健康・感覚機能グループ グループ長補佐、井上百合枝さん/合同会社 陽だまりのnekoの夢代表

介護する側・される側に起こる花の癒し効果

 花を一輪置いただけで、介護する側とされる側の関係が改善することがある。井上さんは、介護現場に花を取り入れたところ、関係が改善したエピソードを話してくれた。

「ケアマネジャーをしている時に、長年、義母の介護をしている方から相談を受けたんです。懸命に介護をしても気持ちがうまく伝わらず、ケンカになってしまうことが多いという内容でした。

 そこで、庭に植えている花を食卓に置いてみたらどうかと勧めてみたんです。すると、お花が好きだった義母から『これはなんていう花だい』『きれいな色だね』『これは春に咲く花だね。じゃあ外は暖かくなったんだね』といった会話が少しずつ生まれ、関係も和らいだとのことです」(井上さん)

花が気持ちを明るくし、心理的なストレス緩和にも

 お花の定期便サービス「お花のなかま」は自宅だけではなく、家族や友人のところなど届け先を指定できる。遠距離介護をしている親や離れて暮らす親のところへ──。直接手紙を書くのは照れくさい、そんな関係にも、お花が想いを伝えてくれたり、コミュニケーションのきっかけになったりする。

「介護をしている父のところに届くようにしたら、お花が郵便受けに届くことにまず驚いていました。近所の人からも“花が届くんですか?すごいですね”と言われたようです。それが父の自慢にもなったようで(笑い)、今は2週間に一度、届くのを楽しみにしています。お花によって部屋の中も父自身も少し明るくなった気がします」(お花のなかまユーザーの女性)

 こうした効果は、科学的にも説明がつくという。望月さんは「人にとっての癒しとは、緊張状態や苦痛、悩みなどの不快、ネガティブな気持ちを低減することを指します。ネガティブな気持ちが生じている時に、花を視界に入れるだけで、脳内の扁桃体の過活動が抑制され、視床下部を介して交感神経系の働きが和らぎ、血圧やコルチゾール(ストレスを感じると分泌されるホルモン)の値が低下することがわかっています。

 例えば虫などの不快な写真を見た後に花の写真を見ると、扁桃体の活動が落ち着いて血圧が下がり、心理的なストレスが緩和されることが研究で示されています」と語る。

 つまり、花は単なる装飾ではなく、ストレス反応に対してポジティブな影響を与えることが研究によってわかっている。イライラしていた事柄から、花に注意が向けられることで、気持ちが和らいでいくのだ。

花があることで空気が和らぎ、認知機能の改善につながる

花があるだけで、場の空気は和らぎ、人との距離が少し近くなる。介護の現場でも、贈る・育てる・飾るといった花を介した関わりが、自然な会話や安心感を生み出している。さらに、花に積極的に関わることは、認知機能の改善にもつながるそうだ。

高齢者同士の会話のツールにもなりやすい

「グループホームでも、みんなでお花を育てることで、イキイキとした空間になっていることを体感しました。みんなで水を変えたり、葉が伸びてきたね、そろそろ植え替えの時期だよと話しているうちに、命を育てる感覚やかわいがる感覚を共有するみたいなんです」と、井上さん。

 毎日のエピソードがつながりにくい認知症の人も、花が今咲いているという事実を話題にできることでコミュニケーションツールになりやすいそうだ。

能動的に選ぶ、生ける行為は認知機能を改善する

 望月さんは、花は眺めるだけでも効果はあるものの、選ぶ、生けるなどの能動的な関与は、さらによい刺激になると話す。

「実際に、フラワーアレンジメントは認知機能の改善のためのプログラムとして効果があることが実証されています。脳卒中や事故などによる高次機能障害の患者を対象とした臨床実験では、記憶課題の成績や、空間認識力の向上が確認されています」(望月さん)

 眺めるだけでなく、花を用いた作業を行って花の位置や順番を記憶することや、世話をするといった行動には、認知機能の改善につながるという期待ができる。

花から季節を感じることができる

 日常の中で、花の変化は時の流れを知らせてくれる存在となる。花を通じて季節を感じることは、思い出を呼び起こし、認知面にも穏やかな刺激をもたらすという。

季節感のある花を飾ることによる影響

 人間は動かないものより変化するものに注意が向く性質がある。つぼみがふくらむ、花びらの色が濃くなる、散るといった、ゆっくりとした花の変化は、時の流れを思い出させるという。

「高齢になると施設や自宅にこもる生活になる人が多く、季節感が失われがちです。花は『今は夏なんだね』『また春がくるね』と、見るだけで時間の感覚を取り戻してくれます。花によって季節感を感じることでいろんな思い出を階層的に想起し、高齢者にとって新しい刺激になることがあるんです」(井上さん)

花の変化が高齢者の脳と心を動かす

 こうした気づきは、認知機能に刺激を与えるリハビリにもなると言えるそうだ。望月さんは「季節感のある花が部屋の中にあるだけで、脳へのポジティブな刺激になることも大きいですし、鑑賞するだけで気分の変動にもつながります」と語り、さらに、枯れていくことも生花の重要なポイントだと続ける。

「咲くことだけでなく、枯れていくからこそ、花を取り替えることが大事です。次の花を選ぶ、季節の花を知る、そういったことが日々の刺激になります。なぜドライフラワーよりも生花がいいのかというと、ドライフラワーを置いていると、次第に部屋の一部となり、意識されにくくなることが多いからです。埃が溜まっているようなドライフラワーには人の注意が向いておらず、十分な効果が期待できません」(望月さん)

花は「関わる癒し」

 花は「与えられる癒し」ではなく、「自分で関わる癒し」であると二人は語る。

「生花は命があるものです。これを大事に育てよう、もっと長く元気でいてほしいといった思いを持つことで、世話をすることがリハビリにつながると現場で感じています。生命の持つエネルギーを感じて、元気をもらえるのではないかと思います」(井上さん)

「毎日の生活の中に少量の花を置くだけでも、脳や心に変化が生まれます。実験では、花がひとつだけ写っている写真でも血圧が下がったので、必ずしもたくさんの花を飾る必要はないかと思います。生花店で1本だけ購入するのは少し気後れするという方には、スーパーの生花コーナーや定期便サービスの利用も一案です。一輪挿しのきれいな花瓶を選ぶことも楽しいですし、フラワーフードなどの栄養剤を使えば水の交換の回数も減らせて、手軽にお世話ができます」(望月さん)

取材・文/イワイユウ

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