認知症行方不明者の家族団体が設立 代表自身も父親が行方不明、年金など切実な問題が…「同じ悩みを持つ人のネットワークを作りたい」
警察庁が今年7月に発表した「令和5年における行方不明者の状況」では、2023年に認知症やその疑いのある行方不明者が1万9039人に上り、統計史上最多を記録した。無事に見つかる場合もあるが、一方で発見されないケースもあり、家族は長期にわたる苦しみを抱え続けている。 認知症行方不明者の家族は、警察や行政からの支援が十分でないと感じることも多く、孤立してしまうことがしばしばだ。このような状況の中、家族同士が支え合える新たな取り組みが始まった。
家族支援の新たなNPO法人が発足
2023年8月23日、全国初となる認知症行方不明者の家族支援を目的とした「NPO法人いしだたみ・認知症行方不明者家族等の支え合いの会」が発足した。この団体は、認知症による長期行方不明者を持つ家族同士の相談や交流を通じて、支え合いのネットワークを構築することを目指している。
団体の代表を務める江東愛子さんも、自身の父親が2023年4月から行方不明となっており、その経験が団体設立のきっかけとなった。江東さんは介護ポストセブンの取材に、
「毎年認知症で行方不明になる人が沢山いるとはいえ、見つからない人の割合は1割未満です。まずは、認知症で見つからないままの人の御家族(私もその当事者です)同士が繋がることが大事だと考えており、どうやったらその人たちに声が届くのかが一番の課題でした」
とコメントする。 さらに江東さんは、この取り組みを通じて、家族同士の集いを通じて悩みや問題を共有し合うとともに、行政や警察との連携を強化したいとしている。
実際、NPO設立後に、「初めて同じ境遇の人と話せて心が軽くなった」「今まで声をあげるところが無かったのでこういう団体を設立してくれて嬉しい」という声も寄せられているといい、団体の設立を通し、認知症の行方不明者に関する情報発信や普及・啓発活動にも力を入れ、社会全体で認知症行方不明者問題に取り組む土壌を作ることを目指している。
課題の多さが示す団体の意義
認知症行方不明者の家族が抱える問題は多岐にわたる。家族内での捜索に対する意見の食い違い、年金受給停止などの経済的負担、行方不明時の情報提供に関する法的な壁など、現実的な問題が数多く存在する。江東さんも具体的な問題として、年金受給のことを挙げている。
「年金の問題などは残された家族の切実な問題だと思いますし、特に多くの意見が寄せられています。残された家族は、どんなに悲しくつらくとも生活をしていかなければなりません。年金受給に関しては特に難しい課題だと思いますが、認知症で行方不明になった人は、自分の意志で帰らないのではなく“帰れなくなった”のです。例えば特例として、残された家族が生活に困らないように、せめて行方不明になった人の配偶者の年金は止めない、又は、その金額に近い補助など、国の支援があればいいなと思います」(江東さん)
また、団体が行ったアンケート調査によると、多くの家族が認知症行方不明者に関連する金銭的・法的な問題を抱えており、行政との連携不足を痛感しているという。江東さんも「年金のことも含めて、とても難しい問題が多いからこそ、慎重に丁寧に、沢山の当事者家族の意見を集め、可視化していく必要があると思っています」と語る。
今後の展望と課題
今後、団体は家族の声を集め、認知症行方不明者問題に対する社会の理解を広げていく方針だ。
「現在までに繋がっている人、これからお問い合わせいただいた当事者家族の方達と一度だけのやりとりだけではなく、継続的な関係性を築き、オンラインなどでの話し合いの場、交流の場をつくっていこうと考えています。またオンラインが厳しい場合は、その地域の推進委員に協力をお願いするなども考えています。そういった集いの場をつくり、重ねていくことで<当事者家族同士のネットワーク>を構築していきたいと思っています。ひとりひとりを大切に、当事者家族同士を繋げ続けていくことで、“同じ目線”で支え合いたいと思います」(江東さん)
多くの課題はあるが、団体の活動が進展し、認知症行方不明者やその家族を取り巻く環境が改善されることが期待される。
構成・文/介護ポストセブン編集部