「介護付有料老人ホーム」の見学時に確認すべきポイントと注意点 “契約を急がせる” “空室が多い”は要注意
施設の”見学”は施設選びをするうえで重要なことです。実際に行ったからこそ気づき、知ることができることがたくさんあります。介護施設で相談員やケアマネジャーとしての経験を持つ中谷ミホさんに、「介護付有料老人ホーム」(以下、有料老人ホーム)を見学する際、スタッフに聞いておくべきポイントや事前に準備しておくといいものなどについて教えてもらいました。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
見学は施設選びの第一歩
施設見学はパンフレットやホームページでは伝わらない入居者の様子やスタッフの対応、施設の雰囲気など、実際に訪れるからこそ見えてくる「魅力」や「課題」を確認することができます。限られた見学時間の中で、施設の実態を見極めるには、ポイントを押さえて見学し、気になることは積極的に質問することが大切です。
見学の流れと準備しておくこと「最低でも3施設は訪問するのがベター」
有料老人ホームの見学は最低でも3施設を訪問し、比較検討することをおすすめします。複数の施設を見学すると、それぞれの特徴や強み、弱みを比較できるので、より客観的な視点で選ぶことができます。
有料老人ホームの情報を収集し、いくつかの候補の施設を絞り込んだら、施設見学の予約をしましょう。
予約する際の注意点
有料老人ホームの見学予約は、電話あるいはホームページの問い合わせフォームから行います。
予約の際には、訪問する日時や見学する人数、来園方法(駐車場の有無)などを伝えましょう。ホーム側の都合もあるため、複数の候補日を決めておくことをおすすめします。
また、見学する人数は、入居する本人と身元引受人、親族1〜2人程度が適切です。複数人で見学すると、多彩な視点から施設を見ることができます。
見学前に準備しておきたいもの
当日までに、見学に行くホームのパンフレットやホームページを見直し、実際に見ておきたいことや質問したいことをまとめて、メモに書き出しておきましょう。
【当日持参するもの】
カメラ(スマホでもOK)、メモ、ペン、事前に送ってもらったパンフレットや書類など、メジャー、質問リスト
複数の施設を見学する方は、記憶が曖昧になるためメモやカメラなどを持参し、しっかりと記録しておきましょう。カメラは、施設を案内してくれるスタッフの許可を得てから撮影するようにしてください。メジャーは、家具やベッドなどを持ち込むスペースを確認するために必要となります。
見学先で聞いておくべき6つのこと
有料老人ホームの見学時、聞いておくべきことを項目ごとにまとめました。
1.日常生活のこと
□ 1日のスケジュール
□ 食事時間や入浴の時間は選べるか?
□ レクリエーションやアクティビティの内容
□ 病気をした場合の対応
2.費用
□ 入居一時金の有無、金額
□ 月額利用料の概算・内訳
□ オプションサービスの内容と費用
□ レクリエーションやイベントの費用
□ 「短期解約特例(クーリングオフ制度)」が定められているか
有料老人ホームでは、買い物や通院の付き添い、買い物代行、家具や家電のレンタルなど、多様なオプションサービスが準備されており、入居者は必要に応じて自由に利用できます。
また、施設で行われるレクリエーションやイベントに参加する場合、参加費がかかる場合も少なくありません。これらの費用は、月額利用料以外に追加で発生する費用であるため、何にいくらかかるのか確認しておくと安心です。
3.家族の訪問
□ 面会が可能な時間
□ 外出・外泊に制限があるか
□ 門限があるか
□ 家族が宿泊できるか
4.医療ケア体制
□ 提携病院・協力病院について
□ 看護師の配置状況(人数、勤務時間)
□ どんな医療ケアに対応できるのか
□ 緊急時の対応
□ 通院時の送迎や付き添いがあるか
□ 看取りに対応してくれるか
5.認知症ケア
□ どのような症状まで対応してくれるか
□ どのようなケアが受けられるか
□ 認知症を発症した場合、居室の移動があるか
□ 退去の可能性がある症状
6.その他
□ レクリエーションやイベントの内容・頻度
□ 嗜好品の取り扱い
□ 「家族懇談会」など、家族が意見・要望を伝える場が設けられているか
□ 避難訓練が定期的に行なわれているか
□ 災害時の対応はどうか
□ 苦情や事故などに対応する窓口があるか
訪問した時のチェックポイント6
ここからは、有料老人ホームを見学する際のチェックポイントを確認していきましょう。
1.所在地・アクセス
□ 家族が住む場所や勤務先からホームまでの所要時間
□ 最寄駅からホームまでの交通手段(電車やバスの場合は本数も確認)
□ 周囲の環境(騒音、交通量など)
□ 近隣に病院や店、娯楽施設などがあるか
2.施設全体の環境
□ 施設の雰囲気
□ 施設全体の間取りとセキュリティの確認
□ 共有スペースの充実度、和める場所の有無
□ テラス・庭など季節を感じられる場所があるか
□ 施設内の共用スペースや水回り(浴室、トイレなど)の清掃は行き届いているか
□ 廊下の広さ、手すりの有無
□ 家具や備品は整頓されているか
清潔感がなかったり、臭ったりするのは、施設のサービスが行き届いていない証拠です。施設内の清潔さや臭いは、注意して確認しましょう。
3.居室の環境
□ 広さは十分か
□ 室内は清潔か
□ 窓の向き、日差しはどうか 窓からの眺めは
□ トイレの場所、使いやすさ、手すりの有無
□ 室内の防音は保たれているか
□ 空調・エアコンの位置
□ ナースコースの位置(手の届く場所にあるか)
□ 電話・テレビ・インターネット回線の有無
□ 室内の備品の種類
有料老人ホームでは、ベッドやカーテン、テレビなどが最初から設置されているところもあれば、入居者やその家族が用意しなければならないところもあります。また、施設内に持ち込めない物もあるので、これらの点についても聞いておきましょう。
4.食事・食堂
□ 食事の内容・量
□ メニューを選択できるか
□ 食事の提供方法(厨房で調理、配食など)
□ 食事時間
□ 特別食(介護食、病態食)の対応と内容
□ 食堂の広さ、雰囲気
□ 食事の介助方法
入居者と同じメニューを試食できる場合もありますので、ぜひ実際に食べてメニューや味を確認してみてください。
5.入浴(浴室)
□ 入浴時間
□ 週に何回入浴できるか
□ 浴室の数と種類
□ 個浴なのか大浴場なのか
□ 浴室の衛生が保たれているか
□ 入浴時の見守り体制
安心して入浴できる環境が整っているかをチェックしましょう。
6.スタッフや入居者の様子
(スタッフ)
□ 言葉遣いが丁寧か
□ すすんで挨拶ができるか
□ 清潔感のある服装、身だしなみか
(入居者)
□ 男女比
□ 平均介護度・年齢
□ 車椅子で1日を過ごしていないか
□ 清潔感のある服装か
□ 爪や髭が手入れされているか
□ 車椅子に汚れはないか
施設で働くスタッフの態度や言葉遣いに、礼儀正しさや思いやりの心が感じられるかどうかも大切なチェックポイントです。
また、入居者の身だしなみや清潔さは、その施設のケアの質を見極める指標となります。
こんな有料老人ホームは要注意!
大切な家族が安全・安心で暮らせるように。下記に1つでも当てはまる施設の場合、すぐ契約せずにじっくり考えてから決断しよう。
契約を急がせる
見学後に「早く決めないと、次はいつ空きが出るかわかりません」と契約を急がせる有料老人ホームがあります。しかし、このような言葉のほとんどは、見学者に即決を促すための営業トークに過ぎません。
有料老人ホームは、長く安心して暮らす大切な場所となるため、十分に検討し、慎重に選ぶことが重要です。
空室が多い
オープン直後ではないのに、空室が多い有料老人ホームは、経営状態に問題があるのかもしれません。つまり、何らかの理由でその施設が利用者から選ばれていないことを示しています。施設に空室が多い理由を尋ねてみるとよいでしょう。
良いことしか言わない
どんな施設にも長所(良い面)や短所(悪い面)があるものです。そのため、良い面ばかりを強調する施設は、入居者や家族が知っておくべきマイナス面を隠しているかもしれません。
また、どんな質問にも「良い答え」しか返さない施設にも注意が必要です。信頼できる施設は、良い面だけでなく、悪い面についても正直に説明してくれるはずです。
契約前に「体験入居」できるとさらに安心
見学で気に入った有料老人ホームが見つかったら、契約前に「体験入居」をして最終判断をすることをおすすめします。
体験入居とは、契約前の入居希望者が1泊から1週間程度、施設に宿泊できるシステムです。実際の食事や入浴、レクリエーションなど1日の流れを体験できるほか、施設のスタッフやほかの入居者との交流を通して、施設の雰囲気を肌で感じることができます。
体験入居は、入居する方が施設の生活に馴染めるかどうかを確認する貴重な機会になりますので、積極的に活用しましょう。体験入居の詳細については、施設の相談員にご確認ください。
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