高齢者の多剤服用に厚労省が警鐘!弊害と減薬方法
厚生労働省は、19年6月中旬、医療機関などに向け、高齢者への不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的なプロセスを説くガイドライン「高齢者の医薬品適正使用の指針」を公表した。
“とりあえず”薬剤を使用する日本の現代医療への問題提起として、医療界で大きな波紋を広げている。
東京・国立市で高齢者を中心とした在宅訪問診療に取り組む、新田クリニック院長の新田國夫さんも「特に高齢者は薬による弊害が起きやすい」と指摘する。
以下、厚労省が発表した認知症薬と骨粗しょう症薬について、よく処方される薬の「弊害」と「減薬方法」を紹介する。
認知症薬
認知症は根本治療薬がまだ開発されておらず、現状、用いられる薬は症状の進行を遅らせることにとどまっている。それゆえ新田さんは「正直、効いたかどうか非常にわかりづらいし、医師たちも藁をもつかむ気持ちで使っている」とため息をつく。
実際、フランスでは’18年の夏以降、効能が認められないという理由から保険適用から外れている。一方、日本では漫然と処方され続ける状況が続く。
「もし、今使っているとしたら『量を減らして1~2か月ほど様子を見られないか』と医師に相談することをおすすめします。減らしても症状が変わらなければ、やめても大丈夫だということがわかる」(新田さん)
●よく用いられる薬の種類
・リバスチグミン
・メマンチン
・ドメペジル
●弊害
気管支喘息などの既往歴がある場合は身体症状の増悪、めまい、傾眠、服用による症状の不安定など。
●減薬の方法
1~2か月ほど量を減らし、医師の指導のもと経過をみる。状態が悪化しなければ中止しても差し支えない。
骨粗しょう症薬
 1000万人を超える患者がいて、そのうちの80%が女性だとされる骨粗しょう症。50才以上の女性の4人に1人が患っているといわれ、多くの高齢女性が服用している骨粗しょう症薬はどうか。
「たしかに、のんでいる人が多いのに『骨粗しょう症が治った』という人はあまり聞かない。骨粗しょう症の原因は基本的に老化の過程なので治ることは少ないです」(池袋セルフメディケーション代表で薬剤師の長澤育弘さん)
そのうえ厚労省のガイドラインでは、ふらつきや転倒のリスクも記載されている。
「患者さん自身ができる対応としては、日光を浴びることと散歩などの適度な運動。血中にビタミンDが生成されることで、骨が血中に溶け出すのを防ぐほか、骨に衝撃が加わることで健全に保たれる。ただ、骨粗しょう症でいちばん問題になるのは腰や胸椎の圧迫骨折。それを減らすためには骨皮質を強くしなければならず、カルシウムを摂るだけでは難しいところがあります。薬を減らせるかは、主治医としっかり相談してほしい」(新田さん)
●よく用いられる薬の種類
・経口ビスホスホネート製剤
・ゾレドロン酸
・選択的エストロゲン受容体モジュレーター
・副甲状腺ホルモン剤
・デノスマブ
・活性型ビタミンD3製剤
●弊害
・上部消化管刺激症状
・血栓塞栓症発症
・高Ca血症
・重篤な低カルシウム血症
・認知機能低下
・せん妄など
●減薬の方法
カルシウムを摂るとともに血中ビタミンDを生成するために日光を浴び、適度な運動を行う。
薬をたくさんのむことが要介護状態を生む可能性も
 薬をたくさんのむことそのものが健康を遠ざけ、要介護の状態を生む可能性すらある。
「多剤服用のいちばんの問題は『フレイル』という、健常から要介護へ移行する中間の段階に陥ることです。体が弱くなっている状態で、要介護の手前ともいわれています。多剤服用していると食欲が減退してフレイルになりやすい」(新田さん)
健康になるための薬によって、害が発生しているばかりか、本人がそれに気づいていない…。それは皮肉としかいいようがない。厚労省お墨付きのガイドラインを薬の見直しの好機としたい。
※女性セブン2019年7月25日号
●ポリファーマシー(多剤服用)の実態 その副作用と減薬対策20