倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.24「遭遇した夫との思い出の場所」
漫画家の倉田真由美さんは、夫の叶井俊太郎さん(享年56)をすい臓がんで失ってから、娘さんが小さいときのことをはじめ家族で歩んできた思い出を振り返ることが増えている。今回は思いがけない場所で記憶が蘇った夫が元気だった頃のエピソードを明かしてくれました。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
女友達と散歩をした日のこと
つい先日のこと。女友だちと一緒にランチをすませた後、「お腹いっぱいだね」「ちょっと歩こうか」とお茶を飲みに行くのをやめて散歩をすることにしました。
日差しは強すぎず、暑くも寒くもなく、歩くには絶好の午後でした。都会でのランチだったため駅前は人混みが激しかったので、人の少ないほうを選んで歩いていきました。友だちとただ歩くだけって、意外と楽しいものです。散歩はひとりでもしますが、相手がいて喋りながらのほうが私は好き。その日も話しながら特に目的の場所を決めることなく歩いていました。
「あ、あの建物見たことある!」
車道を挟んだ向かい側に、見覚えのある一角が現れました。瞬時に、「10年くらい前に、夫と子どもと来た場所だ」と思い出しました。
そこは、住宅展示場でした。夫が、「ここ、行ってみない?お金かからないし」と、子どもを楽しませるために見つけてきたところです。当時住んでいた賃貸住宅をしばらく出る気はなかったけど、近場だし物見遊山のつもりで行ってみることにしました。
まだ思い出せていないことがたくさんある
「懐かしい。夫と来た時とあんまり変わってない」
堪えきれず涙が溢れました。写真にも撮っていなかった場所で、ここを見るまで思い出したことはありませんでした。女友だちが「入ってみる?」と言ってくれたので、少しだけ展示された家を外観だけ見て回りました。一度しか訪れたことはないけど、「ああ、こんな感じだった。家の配置も変わってない」と記憶が蘇りました。
住宅の価格を見てため息をついたり、かわいらしい内装の子ども部屋、いろんなおもちゃが置いてある部屋で娘がおままごとをしたり、広いベランダが素敵で「いつかこういうところでバーベキューでもしたいね」と夫と言い合ったりしたことを思い出しました。
夫が元気だったあの頃。まだ思い出せていないことがたくさんあるはずです。当たり前だった日常が当たり前じゃなくなる日は、必ず来ます。
私は夫がいなくなってから、なるべく意識的に写真を撮るようにしているし、撮った写真を捨てないようになりました。
私の記憶力なんてたいしたことないから、後々思い出を呼び覚ますきっかけとして写真はとても役に立つし、たとえ写りが悪くてもその時の写真は二度と撮ることができないから。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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