訪問看護とは?どんなサービス?何をするの?対象者や費用、利用条件をプロが解説
「訪問看護」(ほうもんかんご)は、在宅介護における頼れるサービスだ。90代の母を通いで介護しているR60の記者も活用してよかったと感じている。改めて「訪問看護」とはどんなものなのか、サービス内容や費用、利用方法などの基本をプロに教えてもらった。
お話を伺った専門家・監修者
訪問看護師・高橋洋子さん
公益財団法人「日本訪問看護財団」事業部課長。在宅看護専門看護師・高橋洋子さん(髙ははしごだか、以下同)。18年前より訪問看護ステーションで仕事をし、さまざまな病気や障がい者の人々に訪問看護サービスを提供。事業部所属になった現在も、週1~2日同訪問看護ステーションで訪問看護に携わっている。
https://www.jvnf.or.jp/
訪問看護とは?
「訪問看護とは、看護師などがお住まいを訪問し、療養生活をされているかたの看護を行うサービスです」
こう語るのは、公益財団法人「日本訪問看護財団」の職員であり、訪問看護師・在宅看護専門看護師の高橋洋子さんだ。同財団は、病気や障がいがあっても本人の思いや希望が尊重され、住み慣れた地域で最期まで暮らせる社会づくりを目指して活動している。
「療養生活と聞くと、大病をされている人だけが対象と思われがちですが、そんなことはありません。そのかたの病状や状態に合わせて、医師の指示書をもとに、必要なケアや医療処置を行います」(高橋洋子さん、以下同)
訪問看護はどんなサービスなのか、どんな人が対象になるのか、具体的に教えてもらった。
訪問看護の事業所とは?
「お住まいの地域で『訪問看護ステーション』の事業所を見かけたことはありませんか? 私たち訪問看護師は、その事業所などから医師の指示書をもとに利用者様のご自宅に伺って看護サービスを行います」
訪問看護サービスを提供しているのは、都道府県知事などの指定を受けた訪問看護を専門に行う「訪問看護ステーション」のほか、病院や診療所でも訪問看護を実施しているケースもある。
どんな人が来てくれるの?
「訪問看護ステーションなどに看護職員として在籍している保健師、助産師、看護師、准看護師です。
ステーションによって職種や人数はさまざまですが、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士なども在籍していて、必要に応じて機能訓練を行うこともあります」
訪問看護のおもなサービス
「健康観察や医療処置、リハビリテーションなどを中心に行います。心身ともに健康な状態が続くように予防や自立支援のサポートをします。また、看取りにも対応させていただきます」
・健康観察
血圧、体温などをチェックし、感染症の有無、心身の健康状態の観察。肺炎・脱水などを確認し、異変があれば主治医にすぐに連絡。薬をきちんとのんでいるかなどの、服薬管理もする。
「定期的に血圧・体温・服薬などの健康観察をさせていただくほか、点滴や傷の処置などの医療処置、内服薬の管理、点滴などの看護が受けられるので、ご本人にもご家族にとっても安心です」
・医療処置や苦痛の緩和など
医師の指示に基づく医療処置や、治療上の看護を計画的に行う。苦痛の緩和などには症状を観察し、主治医の処方に基づいて相談しながら薬の量を調整し適切なケアを行う。
【医療処置などのおもな内容】
・点滴静脈注射
・たんの吸引や吸入、経管栄養、創傷の処置などや検査
・薬剤師とも連携し、服薬の助言や副作用の観察
・痛み(疼痛)、呼吸困難、発熱、不眠、便秘などの苦痛を緩和するために薬剤の調整やマッサージ、体位の工夫など、身体的、精神的な支援。
・リハビリテーション
ADL(日常生活動作)の訓練、運動機能の回復・維持・低下予防、床ずれ(褥瘡)や呼吸機能や摂食・嚥下機能の回復・低下予防など。
「リハビリテーションに関しては訪問看護師も行いますが、より専門的な訓練が必要とされた場合には理学療法士などが行うこともあります」
介護保険は利用できる?
訪問看護サービスは、公的な介護保険や医療保険の対象になる。
「訪問看護はご本人の保険の種類によって介護保険、または医療保険制度で利用できます。
そのかたの年齢や病気、要介護認定の有無によって使用する保険が違ってきます。どちらを利用する場合にも、主治医などの医師による『訪問看護指示書』が必要となります。
介護認定を受けたかたは、基本的には介護保険を優先して利用しますが、障がいや疾病によっては医療保険(健康保険など)で、訪問看護サービスを利用することもあります」
わからないことがあれば、医療機関、地域の介護保険課や地域包括支援センター、お近くの訪問看護ステーションに相談を。
訪問看護サービスの利用方法(介護保険利用の場合)
介護保険を利用して訪問看護サービスを利用する流れは、以下の通り。
・介護認定
介護認定を受ける必要がある(市区町村の介護保険担当窓口で申請する)
・ケアプランに組み込む
介護認定の結果、要支援1、2または要介護1~5であった場合は、ケアマネジャーに相談し、ケアプランに訪問看護サービスを組み入れてもらう。その際は、主治医による「訪問看護指示書」も必要となる。
・サービス開始
ケアマネジャーより提案を受けた訪問看護ステーションと契約し、サービスが開始となる。
なお、介護保険が利用できない場合は、医療保険(健康保険)でも訪問看護を利用することができる。
訪問看護サービスの利用料金
介護保険を利用する場合、1~3割負担(所得により変わる)。また、医療保険の場合も、利用者負担は基本的に1~3割負担。
利用者は1か月利用した訪問看護料の1~3割を支払う。介護度によって支給限度基準額があり、支給限度基準額を超えた分は全額自己負担になる。
利用時間(介護保険を利用する場合)
訪問看護で介護保険を利用する場合、利用回数に制限はないが、以下のように時間が決まっている。
■1回の利用時間:20分未満、30分未満、30分~1時間未満、1時間~1時間30分未満のいずれか。
介護保険の範囲内で、他の介護サービスと組み合わせながら、「訪問看護・週○回、○分」など決まった曜日や時間内で利用するのが一般的。
理学療法士などによる訪問リハビリテーションなど時間や継続が必要なものは、利用時間や回数が異なる。
訪問看護と訪問介護の違いは?
「訪問介護」は、日常生活支援が目的のサービス。身体介護や掃除や買い物代行など、生活する上での援助。一方、「訪問看護」は、医療処置や看護が目的のサービス。健康観察、服薬管理、医師の指示書に従い医療処置を行える。
「訪問看護と訪問介護の大きな違いは、医療処置ができるかどうか。訪問看護は、医師の指示のもと、点滴などの医療処置を行うことができます。
ご自宅での看取りもケアさせていただきます。ご本人だけでなくご家族の心のケアも心がけています。利用者ご本人だけではなく、介護をされているご家族の健康を見守ることも訪問看護師の役目だと感じています」
訪問看護を受けるときの注意ポイント
「訪問看護では、ご本人の情報をしっかり把握することが必要になります。
ご本人は、看護師など家族以外の人の前だと、頑張って元気に振るまわれるかたもいらっしゃいますので、なるべくご家族のかたが、ご本人の状況や性格、生活習慣などについて、訪問看護師に正直に伝えるようにしてください。
家族のみなさんと情報を共有することで、よりよいケアやサポートができるようになると思います」
また、高橋さんは、利用者本人だけでなく、家族のケアにも心を配っているという。
「在宅介護をする場合、ご家族がやらなくてはならないことが多くあり過ぎて、介護する側のご家族が疲れてしまうケースを多く見てきました。
ご自分の心身の健康にも気をつけてほしいですね。困ったときは、ひとりで抱え込まず訪問看護師にSOSを出していただけたらお力になれることもあると思います」
訪問看護サービスを利用して「良かった!」実例
高橋さんが訪問看護を行った事例を紹介する。
「家族がコロナにかかり介護ができなくなった」
「コロナにかかった90代の女性宅に伺いました。同居の娘さん夫婦は献身的に看病されていましたが、娘さんのご主人もコロナにかかってしまい、急遽、訪問要請を受けました。
医師の指示書をもとに、酸素吸入器や点滴を使用し、ケアをさせていただき、入院することなくご自宅で治療が完了し、すっかりお元気になられました」
ケアプランに訪問看護が組み込まれていない場合や、緊急時には、ケアマネジャーや最寄りの訪問看護ステーションに相談してみるといい。入院先がみつからないケースもあるため、在宅での訪問看護がますます需要が高まりそうだ。
「高齢の親御さんが薬をのめていないことが発覚!」
「在宅介護をされているご高齢のかたで、ケアプランを見直したタイミングで訪問看護サービスを組み込み、ご自宅に伺ってみると、薬をご自身では管理できず、服薬もきちんとできていないことが発覚しました。
医師に連絡し、服薬管理や食事面などを見直し、健康維持ができるようにサポートしました」
介護する家族も仕事で忙しく、ヘルパーさんも時間が決まっているため、目が行き届かないということも。そんなとき、訪問看護サービスは心強い。
R60記者の母は「訪問看護の日を楽しみにしている」
記者の母は、体調を崩しがちで薬もきちんとのめていないこともあり、ケアマネジャーのすすめで主治医の確認を経てケアプランに「訪問看護」を組み込むことになった。
母は最初、「訪問看護なんて必要ない」と気乗りしない様子で、知らない人が家に訪れることに抵抗があるようだった。しかし、「訪問看護」を利用し始めてみると、看護師さんが週1回来てくれて健康管理や足浴をしてケアをしてくれる、この時間がとても心地良さそう。今では看護師さんに足浴をしてもらいながら、昔話をすることを楽しみにしている。
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改めて今回の取材を通じて、在宅介護における訪問看護の重要性を感じた。本人にも家族にも心強い「訪問看護」を今後も活用していきたい。
取材・撮影・文/本上夕貴
●「訪問看護」の仕組みや費用について社会福祉士のライトさんがわかりやす~く解説