認知症の祖母「ケアマネは苦手、訪問看護師は大丈夫」の不思議
要介護4で、認知症の症状もある祖母の在宅介護を6年以上続けている、ライターの奥村シンゴ氏。介護サービスを行うために自宅に来る人に対する祖母の対応には、特徴があるという。奥村氏が実体験を交え、祖母の気持ちを考えてみた。
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祖母が利用している介護サービスについて、今回はケアマネジャーと訪問看護師と祖母の6年間の関わり方を振り返りってみようと思う。
ケアマネの存在を受け入れられない祖母
今から約6年前、祖母が認知症と診断され私は地元の地域包括センターに相談に行った。
地域包括センター(市町村ごとに「地域包括支援センター」など呼び名が異なる)とは、地域の高齢者の総合相談や介護予防の必要な援助などを行い、家族の相談に基づきさまざまな介護サービスを紹介している。要介護申請の相談受付や、居宅介護支援事業所の紹介などを行う、いわば、地域の介護相談の最初の窓口である。
私は居宅介護支援事業所を紹介され、後日その事業所から50代前半位のケアマネジャーが我が家にやってきた。
祖母に向かって
「これからお世話になる者です、よろしくお願いしますね」
と声をかけてくれたのだが、祖母は、
「何のご用でしょうか?お医者さんですか?私に黙ってあんたは何を手続きしたの?」
と私に怒り出した。
「ばあちゃんが少しでも長生きしてほしい、そのためにはこれからいろいろな人の協力がいるから」と説得し、結局しぶしぶ納得したのだが…。
しかし、それからもケアマネジャーに対する祖母の態度は、ずっと否定的だ。例えば、祖母が自宅で転倒、打撲し2週間入院した後寝たきり状態になった時のこと。
ケアマネジャーに今後生活について相談したところ、介護ベッドの導入を提案してくれた。私はもちろん賛成したのだが、介護ベッドが設置されるの見て、祖母は「私の部屋に勝手に大きなベッドを入れて、返しといて」と激怒。
ケアマネジャーや私が「この前みたいにこけて骨でも折れたら大変やろ?」と説得するものの、
「あの人(ケアマネジャー)は嫌い、変なものを勝手に私の部屋に入れたからね。お金とられてない?だまされたらだめよ」と繰り返し言い続ける始末。
ケアマネジャーは今後の事も踏まえて、ベッドの導入を提案してくれたのだが、当時、祖母は自分が認知症になっているとは思っていなかったため、ケガをしただけなのに、という思いから抵抗を示したのだろう。
しかし、その後、認知症の進行もあり、足腰が少しずつ弱くなり、つえをついたり、時には車椅子に乗るようにまでになった祖母は、ようやく介護ベッドが必要なものだと気づいたのか、ここ1年位は文句は言わず、心地よく寝るようになってくれた。
訪問看護師は家まで来てくれたという意識が強い
ケアマネジャーと並びもう一人、祖母と大きな関わりを持つようになったのが訪問看護師だ。
今から2年程前、要介護4になったことや、慢性の便秘で、浣腸してもらいに多い時で週2回、半日を費やし通院するのに、母や私が必ず付き添わなければいけないことで、負担が大きくなった。それにかかるタクシー代の負担もバカにならない。
そこで、ケアマネジャーに相談したところ、訪問看護を提案され週1回30分~1時間のサービスを開始することになった。
後日、40代前半ぐらいの女性の訪問看護師が来ると
「あら、わざわざ病院の先生が家まで来てくれたんですか、ありがとうございます」
とケアマネジャーの時とは違い、すんなり受け入れる祖母。
現在も毎週、訪問看護師が血圧や体温測定などの健康診断と、20分程度の散歩をした後の浣腸をしてもらっている。訪問看護をスタートして半年位は、「ちょっと恥ずかしいよ、人様にお尻をむけるなんて」と浣腸されることに照れくさそうにしていたが、だんだん慣れて今では全く抵抗を示さなくなった。
また、ここ半年位祖母の認知症の進行が顕著で、徘徊や外出願望以外にも、部屋の洋服、化粧品や別室から持ってきたしゃもじなどで部屋の中を散乱させる異常行動、突然「お父さん、お母さん」と叫び泣くなどの情緒不安定が起こり、私や母は対応に苦慮して、臨時で訪問看護師に来てもらう場合が週1回程度ある。
訪問看護師が話を聞いたり、体温や血圧を測ったりすると「わざわざ家まで来てくれたんですか?ありがとうございます、すみませんね」と祖母は、落ち着く場合が多い。
在宅介護に不可欠なケアマネージャーと訪問看護師の存在
三菱総合研究所が平成27年実施した「居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務の実態」調査で、「業務遂行に関する悩み」の回答で、2位に「困難ケースの対応に手間がとられる」、3位に「ケアマネジャーの業務範囲が明確ではない」が入っている。
ケアマネジャーは介護状態になり、初めて接する相手なので、祖母のように介護をされている人には、今一つ役割が理解されず、他人という意識を強く持たれてしまって、トラブルを招くケースが多いのかもしれない。
しかし実際には、ケアマネジャーは、毎月1回祖母の心身状態の報告、デイサービス・ショートステイなどの予定や介護サービス限度額内(世帯の所得により1割~3割)に収まっているかの確認、介護施設に訪問したり連絡をとってくれたり、役所への書類提出など介護まわりのさまざまな業務を果たしてくれている。
一方で訪問看護師には、いつも丁寧な応対をしている祖母。医療従事者ということで昔から信頼があり、医者や看護師が自宅にまで来てくれたという安心感があるのだろう。
ケアマネジャー、訪問看護師、どちらも祖母にとっては欠かせない存在なのだ。これらの介護サービスのおかげもあり、祖母と私や母親は6年間ほとんどケガや病気をせず、在宅介護を続けてこられたと思っている。
祖母の態度いかんに関わらず、いつも丁寧な対応をしてもらっていることに、私は感謝しかない。
奥村シンゴ
プロフィール:大学卒業後、東証一部放送・通信業界で営業や顧客対応などの業務を経験し、6年前から祖母の認知症在宅介護を経験中。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディア、阪神地区のテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。他時折テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。